神さんになびかないマネージャー
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(妻、合宿くるってよ)
いつも田村先生の助手でくる理学療法士さんが体調を崩しているらしい。今回から若い子を連れていきますから!と電話をもらって資料に目を通すと「神まどか」の文字。同じ名字のやつを今回召集してるんだけどなあ。
選手よりもはやくやってきた田村先生の後ろから、ひょっこり見覚えのある女の子が顔を出す。
「あ!海南の!」
「えっ!恐縮です監督!マネージャーの原田です。今回は田村先生の助手で来ました!一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします!」
「で、神くんの奥さん」
「なるほど…えっ旦那一緒じゃないの?」
「別行動です!ノブと来ると思います!」
のっけからでかい声で身がすくむ。なるほど、海南のマネージャーだ、見覚えある。ということは代表選手にもかなり知り合いがいるはずだ。スタッフミーティングでもはじめまして!と元気よく挨拶する神さんにコーチたちが俺と同じようにあ!海南の!と声をかける。試合会場や体育館でいつもちょろちょろ動き回ってる働き者のイメージがある。なるほど神くんそういうことか。
「ちわーす!お、原田来たな!!」
「まきさん!はふ!わたしは仕事で!あう!ま、まきさん!んううう!まきしゃん!しごとできてむひゅ!」
「おー!がんばってるなあ!」
「おーそーか!牧の後輩か!」
「2つ下ですけど高校からですから。働き者なのは保証します。テーピングもうまいですよ」
一番にやってきた牧が、神さんの顔を見るとそれはそれは嬉しそうに笑った。迷わず旧姓で呼び掛けて頭を両手でがしがし撫でている。男とか女とか以前に人間の撫で方じゃない気がするのは見ないふりだ。次々やってくる選手がおー原田と声をかけていく。まどろっこしいなあ。彼女の方も元気いっぱいこんにちは!ごぶさたしてます!と挨拶していく。これはなんだかいい子が来てくれたかもしれない。しれーっとした顔で合流してきた神くんはちょっと気まずそうな顔をしている、これは新鮮だ。
田村先生は前の監督のときからずっと代表の度に帯同してくれている。出番はないのが一番だけど、競技の性質上そうはいかない。接触のあった選手、ジャンプや着地に違和感のある選手に大きな怪我を負わせないために欠かせない。大抵坂本さんというおじさんの理学療法士さんが同行してきていたので、屈強な男が並ぶスタッフの列のなかにちんまり女の子がたっているのは不思議な感じがする。さんざんみんなから原田!と呼ばれておいて、神まどかです!とだけ、元気よく挨拶したもんで、みんなが神(夫の方)をちらちら見たり、そっか結婚したんだっけとこそこそ話したりしている。神はもう目を瞑って真っ赤になっている。
それぞれに準備運動を始める段階では田村先生も助手さんともども様子を見ているだけのことが多いが、今回は話が違う。原田テープ頼む、と声をかけにきたのは牧だった。他の選手も様子を見ているようだ。高校や大学で一緒にやってない世代の選手もあの牧があてにしてんのか、という表情だ。
「先生の助手」のポジションでやってくる人間が突然「よく知ってるマネージャー」になって選手たちは寧ろうれしそうだ。俺も俺で田村先生と話ができる時間が増えてラッキーだ、もう夜のスタッフミーティングはいらないかも。そうこうしているうちにまどかさんは、バケツで届いた氷をとっとと氷のうとビニールに小分けにしてクーラーボックスにしまってしまった。協会から手伝いに来ているスタッフもびっくりしている。そのままフラフラ歩きながら、こぼれてきたボールを集めてかごに戻す動きもさすが板についてる。選手に声をかけているようだけど、耳を澄ませると直近の接触や故障の具合をかるく確かめているようだ。トレーニングのタイミングについて相談していた田村先生は、優秀でしょ、とにこにこしている。
ーーーーーーーーーーーー
「どんな気持ちなの?」
顔をあげると諸星さんが俺の顔をジーっと見ている。はて。
「おれですか?」
「他にいる?奥さんがスタッフとして来てるってどんな気持ちなの?」
「え?別に普通ですよ、高校も大学もマネージャーでしたし慣れてますから」
「でももうお前の奥さんじゃん。そこにいるのにイチャイチャできないのってどんな心境よ」
「ん~…愛知の星ってニックネームつけられるよりは穏やかですかね……」
「うるせー!それまだ言ってるの海南の奴らだけだぞ!牧のせいだ」
「牧さんその呼び方気に入ってましたからね」
「お前の奥さんなんかさっき愛知略して星さんって呼んできたからな!ちょっと変だろあの子」
「ブフ!ほし、ほしさん、」
「笑うなこら」
「いや、でも変なのは間違いないです、先輩で夫のおれが保証します星さん」
「てめえ……」
ーーーーーーー
そんなこんなで初めて来たとは思えないほど馴染んでいるまどかちゃんは、試合が始まってもとってもありがたい存在だった。俺、ひまよ。
ゴール際の競り合いで、相手の肘を側頭にくらって背中からばちんと落ちたのは清田だった。コーチたちが担架で引き上げてくる間に、まどかちゃんはタオルや氷を用意する。
「先生!」
「うん、清田タフだから大丈夫だと思いたいけど」
寝たまま意識や目線の確認。上体を起こして、肘の入った患部の確認。欲しいところでライトやら氷やらさっさと差し出してくるのは俺が連れてきた優秀な助手だ。とりあえずの選手交代はとっくにすんでいて、どうやら清田が無事ということもわかった。
あとは任せるねと簡単に伝えると、2人はベンチの後ろのスペースで関節や筋肉に問題がないことをひとつひとつ確かめ始めた。肩肘手首、太もも膝足首、首に腰、いろんな所をゆっくりぐりぐり動かして、まどかちゃんがゴーを出す。
「清田いける?」
「ウッス!いけます!」
「まどかちゃん、どう思う?大事とる?」
「いえ、行けますよ。ラストちょいでもやり返しに行かせてやってください」
「ふ、それ私情?」
「あ!いえ!あの!行けるってのは観察結果です!でも後半は私情です!申し訳ありません!」
「いや、いいよ。さすが海南のマネージャー」
「いえ、お願いします」
幼馴染みというふたりがこっくり頷き合って悪い顔で笑ったのを、神くんは見てたろうか。交代の準備をはじめた清田の背中をけっこういい音を立ててべちんと叩くと、まどかちゃんはまた俺の後ろ側にひっこんでバインダーを手に取った。神くん、感謝してるよこんなにいい子を連れてきてくれて。
いつも田村先生の助手でくる理学療法士さんが体調を崩しているらしい。今回から若い子を連れていきますから!と電話をもらって資料に目を通すと「神まどか」の文字。同じ名字のやつを今回召集してるんだけどなあ。
選手よりもはやくやってきた田村先生の後ろから、ひょっこり見覚えのある女の子が顔を出す。
「あ!海南の!」
「えっ!恐縮です監督!マネージャーの原田です。今回は田村先生の助手で来ました!一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします!」
「で、神くんの奥さん」
「なるほど…えっ旦那一緒じゃないの?」
「別行動です!ノブと来ると思います!」
のっけからでかい声で身がすくむ。なるほど、海南のマネージャーだ、見覚えある。ということは代表選手にもかなり知り合いがいるはずだ。スタッフミーティングでもはじめまして!と元気よく挨拶する神さんにコーチたちが俺と同じようにあ!海南の!と声をかける。試合会場や体育館でいつもちょろちょろ動き回ってる働き者のイメージがある。なるほど神くんそういうことか。
「ちわーす!お、原田来たな!!」
「まきさん!はふ!わたしは仕事で!あう!ま、まきさん!んううう!まきしゃん!しごとできてむひゅ!」
「おー!がんばってるなあ!」
「おーそーか!牧の後輩か!」
「2つ下ですけど高校からですから。働き者なのは保証します。テーピングもうまいですよ」
一番にやってきた牧が、神さんの顔を見るとそれはそれは嬉しそうに笑った。迷わず旧姓で呼び掛けて頭を両手でがしがし撫でている。男とか女とか以前に人間の撫で方じゃない気がするのは見ないふりだ。次々やってくる選手がおー原田と声をかけていく。まどろっこしいなあ。彼女の方も元気いっぱいこんにちは!ごぶさたしてます!と挨拶していく。これはなんだかいい子が来てくれたかもしれない。しれーっとした顔で合流してきた神くんはちょっと気まずそうな顔をしている、これは新鮮だ。
田村先生は前の監督のときからずっと代表の度に帯同してくれている。出番はないのが一番だけど、競技の性質上そうはいかない。接触のあった選手、ジャンプや着地に違和感のある選手に大きな怪我を負わせないために欠かせない。大抵坂本さんというおじさんの理学療法士さんが同行してきていたので、屈強な男が並ぶスタッフの列のなかにちんまり女の子がたっているのは不思議な感じがする。さんざんみんなから原田!と呼ばれておいて、神まどかです!とだけ、元気よく挨拶したもんで、みんなが神(夫の方)をちらちら見たり、そっか結婚したんだっけとこそこそ話したりしている。神はもう目を瞑って真っ赤になっている。
それぞれに準備運動を始める段階では田村先生も助手さんともども様子を見ているだけのことが多いが、今回は話が違う。原田テープ頼む、と声をかけにきたのは牧だった。他の選手も様子を見ているようだ。高校や大学で一緒にやってない世代の選手もあの牧があてにしてんのか、という表情だ。
「先生の助手」のポジションでやってくる人間が突然「よく知ってるマネージャー」になって選手たちは寧ろうれしそうだ。俺も俺で田村先生と話ができる時間が増えてラッキーだ、もう夜のスタッフミーティングはいらないかも。そうこうしているうちにまどかさんは、バケツで届いた氷をとっとと氷のうとビニールに小分けにしてクーラーボックスにしまってしまった。協会から手伝いに来ているスタッフもびっくりしている。そのままフラフラ歩きながら、こぼれてきたボールを集めてかごに戻す動きもさすが板についてる。選手に声をかけているようだけど、耳を澄ませると直近の接触や故障の具合をかるく確かめているようだ。トレーニングのタイミングについて相談していた田村先生は、優秀でしょ、とにこにこしている。
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「どんな気持ちなの?」
顔をあげると諸星さんが俺の顔をジーっと見ている。はて。
「おれですか?」
「他にいる?奥さんがスタッフとして来てるってどんな気持ちなの?」
「え?別に普通ですよ、高校も大学もマネージャーでしたし慣れてますから」
「でももうお前の奥さんじゃん。そこにいるのにイチャイチャできないのってどんな心境よ」
「ん~…愛知の星ってニックネームつけられるよりは穏やかですかね……」
「うるせー!それまだ言ってるの海南の奴らだけだぞ!牧のせいだ」
「牧さんその呼び方気に入ってましたからね」
「お前の奥さんなんかさっき愛知略して星さんって呼んできたからな!ちょっと変だろあの子」
「ブフ!ほし、ほしさん、」
「笑うなこら」
「いや、でも変なのは間違いないです、先輩で夫のおれが保証します星さん」
「てめえ……」
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そんなこんなで初めて来たとは思えないほど馴染んでいるまどかちゃんは、試合が始まってもとってもありがたい存在だった。俺、ひまよ。
ゴール際の競り合いで、相手の肘を側頭にくらって背中からばちんと落ちたのは清田だった。コーチたちが担架で引き上げてくる間に、まどかちゃんはタオルや氷を用意する。
「先生!」
「うん、清田タフだから大丈夫だと思いたいけど」
寝たまま意識や目線の確認。上体を起こして、肘の入った患部の確認。欲しいところでライトやら氷やらさっさと差し出してくるのは俺が連れてきた優秀な助手だ。とりあえずの選手交代はとっくにすんでいて、どうやら清田が無事ということもわかった。
あとは任せるねと簡単に伝えると、2人はベンチの後ろのスペースで関節や筋肉に問題がないことをひとつひとつ確かめ始めた。肩肘手首、太もも膝足首、首に腰、いろんな所をゆっくりぐりぐり動かして、まどかちゃんがゴーを出す。
「清田いける?」
「ウッス!いけます!」
「まどかちゃん、どう思う?大事とる?」
「いえ、行けますよ。ラストちょいでもやり返しに行かせてやってください」
「ふ、それ私情?」
「あ!いえ!あの!行けるってのは観察結果です!でも後半は私情です!申し訳ありません!」
「いや、いいよ。さすが海南のマネージャー」
「いえ、お願いします」
幼馴染みというふたりがこっくり頷き合って悪い顔で笑ったのを、神くんは見てたろうか。交代の準備をはじめた清田の背中をけっこういい音を立ててべちんと叩くと、まどかちゃんはまた俺の後ろ側にひっこんでバインダーを手に取った。神くん、感謝してるよこんなにいい子を連れてきてくれて。