神さんになびかないマネージャー
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(わたしは知っている)モブ目線
理学部の自然科学科というまったりした学科には、まったりした人が多い。虫取とか木登りとか、そういうことをやっちゃう人が多い。わたしも人のことを言えないけど。
同じ学科の同級生の神くんも多分に漏れず、野山にまじりて楽しいことをするのが大好きなタイプ。そしてこの科の学生の多くは中学や高校の教員免許を取得する。わたしもそうだし神くんもそうらしい。
理学部にしては女子の割合が若干高めのこの科において、神くんは人気者だ。可愛らしい顔に細身の長身で、けっこう本気のバスケ部らしく筋肉質でちからもち。だけどわたしは騙されない。顔がかわいいだけで、彼が自分から私たちに歩み寄ってくるなとはない。否定はされないけど肯定もされない。ただそのかわいい顔で黙ってにこにこしている、それだけだ。みんな目を覚ませ。
夕方学生控え室に先生が顔を出す。これ急ぎだから回してくれ。みんないる?あー神は部活か、誰か届けといてくれ。返事も聞かずにひっこんだ先生に文句を言う前に、私たちは顔を見合わせる。
「部活って学校でやってんの?」
「第一体育館って」
「行ってみよ、わたし見てみたい」
「え、邪じゃん」
友達の裕子に誘われて、わたしは体育館に向かう。シューズのきゅっきゅと素早く動く音や、もう一本!足止めるな!などと怒鳴る声が聞こえてきて、どうも足を踏み入れづらい。部活ってこんなマジの本気のガチのやつなんかい。
「どうされましたか?」
スポーツドリンクが入っているらしいボトルを山ほどかごにいれてきた女の子が後ろから声をかけてきた。マネージャーだろうか、バスケをしているわけではなさそうだけど半袖半パンで汗だくだ。
「バスケ部の人ですか?」
「はい、マネージャーの原田です!」
「理学部のものですが、これを神くんに急ぎで」
「神さん?お待ちくださいね」
原田さんは足元に置いていたかごをまた抱えると、中に入ってまあまあのボリュームでじんさーん!と叫んだ。さん付けだから後輩かな。ダッシュで駆けつけたらしい神くんは、彼女の頭越しに私たちを見て首を傾げた。いちいち動きがかわいくてむかつくな。
「これ、先生がさっき!明日使うらしくて急ぐからって」
「それでわざわざ?ありがとう、助かった」
「すごいね、こんな本気の部活なんだ」
「うん、まあね」
「少し見てってもいい?」
あまりにストレートな依頼に、わたしは裕子の顔を二度見した。神くんはうーん、と言うと、ボール飛んでって危ないから上にどうぞ、と言ってくれた。神くんっておっとりしてると想ってたけどあんなに俊敏なのか。裕子はムキムキの男前たちに夢中なようだったけど、わたしはさっきのマネージャーが気になる。中にはもう一人強めのマネージャーがいて、時間をはかったり声だしやパス出しをしている。原田さんの方は、ドリンクやタオルを持って出たり入ったりしながら、合間にあちこちで掃除機の音をさせている。とんだ重労働だ。
休憩の終わりごろ空のボトルをまたかごに集めにきた原田さんに、神くんが声をかけた。はっきり聞き取れなかったけど下の名前のようだ。神くんが何かを耳打ちして二人が目を合わせると、そっくりなふにゃっとした顔で笑った。そんな顔たぶん学科の人はみたことないよ。裕子は気付いてないみたいだったけど。
飲み会も半ばに差し掛かると最初の席なんかめちゃくちゃだ。珍しく参加している神くんに肩を叩かれる。
「この間、ありがとう」
「いや、ごめんね邪魔しちゃって。裕子が見るって言い出したときは焦った」
「人がいるのにはみんな慣れてるし平気平気。いつでもきていいよ」
「ときに神くん」
「ん?」
「あの子かわいいね」
はた、と動きを止めた神くんは、わたしの言葉の意味を理解したのか色白の顔を真っ赤にさせている。なんて、こんなにわかりやすい人だったのか。
「待って、俺あの日なんかしてた?」
「休憩のとき話してる時の顔が見たことないほど可愛かったから」
「えっこわい」
「付き合ってるんだ」
「…高校のときのマネージャーで…2年かけて外堀を埋めてやっと付き合えた」
「うそ、モテそうなのに」
「まどかちゃん気は利くけど自分のことには鈍いんだ。そこがかわいいんだけどね」
「べたぼれじゃん」
「認めます」
神くんはレモンサワーをぐびっとやって、あの時のへにゃっとした顔で笑った。観念したらしい神くんは、大学バスケの魅力を高校時代からの全国のスター選手が関東に集まることと話し始めた。その中でも海南は主力が内部進学でチームの完成度で勝負してるという話に、高校でバスケをやってたという山下くんが食いついてきた。
「ずっと話してみたかったんだよ、インターハイ得点王の神だよね」
「やめてよ」
「えっ神くんそんなすごい人なの?」
「大学入って神がいたときの俺の心境やばいから。雑誌とか普通にのってるぞ」
「えっそーなの!?見たいみたい」
「俺は置いといて牧さんがすごいから。年代別代表のキャプテンやるような人だから」
「帝王牧な!かっこいいよなあ、同じ学校にいるなんて嘘みてーだもん。で?なんでお前がバスケの話してんの?」
「え?マネージャーかわいいねって話」
「ちょっと!」
「おいまさかインターハイの得点王がマネージャーと付き合ってるとかそんな美味しい話あるのか」
「……インターハイ得点王のときはまだ付き合ってないです…」
その日以降山下と神くんがよくしゃべるようになった。山下が見せてくれた雑誌には当然のように神くんが写真つきでのっている。日本で一番きれいなシュートを打つ人らしい、すごすぎないか。つい昨日フィールドワークでいった川原でごろごろ寝てたの誰だよ。でもねえ涼しい顔した神くんに言ってやりたい。あの時のかわいい顔、絶対わたしは忘れてやんない。
理学部の自然科学科というまったりした学科には、まったりした人が多い。虫取とか木登りとか、そういうことをやっちゃう人が多い。わたしも人のことを言えないけど。
同じ学科の同級生の神くんも多分に漏れず、野山にまじりて楽しいことをするのが大好きなタイプ。そしてこの科の学生の多くは中学や高校の教員免許を取得する。わたしもそうだし神くんもそうらしい。
理学部にしては女子の割合が若干高めのこの科において、神くんは人気者だ。可愛らしい顔に細身の長身で、けっこう本気のバスケ部らしく筋肉質でちからもち。だけどわたしは騙されない。顔がかわいいだけで、彼が自分から私たちに歩み寄ってくるなとはない。否定はされないけど肯定もされない。ただそのかわいい顔で黙ってにこにこしている、それだけだ。みんな目を覚ませ。
夕方学生控え室に先生が顔を出す。これ急ぎだから回してくれ。みんないる?あー神は部活か、誰か届けといてくれ。返事も聞かずにひっこんだ先生に文句を言う前に、私たちは顔を見合わせる。
「部活って学校でやってんの?」
「第一体育館って」
「行ってみよ、わたし見てみたい」
「え、邪じゃん」
友達の裕子に誘われて、わたしは体育館に向かう。シューズのきゅっきゅと素早く動く音や、もう一本!足止めるな!などと怒鳴る声が聞こえてきて、どうも足を踏み入れづらい。部活ってこんなマジの本気のガチのやつなんかい。
「どうされましたか?」
スポーツドリンクが入っているらしいボトルを山ほどかごにいれてきた女の子が後ろから声をかけてきた。マネージャーだろうか、バスケをしているわけではなさそうだけど半袖半パンで汗だくだ。
「バスケ部の人ですか?」
「はい、マネージャーの原田です!」
「理学部のものですが、これを神くんに急ぎで」
「神さん?お待ちくださいね」
原田さんは足元に置いていたかごをまた抱えると、中に入ってまあまあのボリュームでじんさーん!と叫んだ。さん付けだから後輩かな。ダッシュで駆けつけたらしい神くんは、彼女の頭越しに私たちを見て首を傾げた。いちいち動きがかわいくてむかつくな。
「これ、先生がさっき!明日使うらしくて急ぐからって」
「それでわざわざ?ありがとう、助かった」
「すごいね、こんな本気の部活なんだ」
「うん、まあね」
「少し見てってもいい?」
あまりにストレートな依頼に、わたしは裕子の顔を二度見した。神くんはうーん、と言うと、ボール飛んでって危ないから上にどうぞ、と言ってくれた。神くんっておっとりしてると想ってたけどあんなに俊敏なのか。裕子はムキムキの男前たちに夢中なようだったけど、わたしはさっきのマネージャーが気になる。中にはもう一人強めのマネージャーがいて、時間をはかったり声だしやパス出しをしている。原田さんの方は、ドリンクやタオルを持って出たり入ったりしながら、合間にあちこちで掃除機の音をさせている。とんだ重労働だ。
休憩の終わりごろ空のボトルをまたかごに集めにきた原田さんに、神くんが声をかけた。はっきり聞き取れなかったけど下の名前のようだ。神くんが何かを耳打ちして二人が目を合わせると、そっくりなふにゃっとした顔で笑った。そんな顔たぶん学科の人はみたことないよ。裕子は気付いてないみたいだったけど。
飲み会も半ばに差し掛かると最初の席なんかめちゃくちゃだ。珍しく参加している神くんに肩を叩かれる。
「この間、ありがとう」
「いや、ごめんね邪魔しちゃって。裕子が見るって言い出したときは焦った」
「人がいるのにはみんな慣れてるし平気平気。いつでもきていいよ」
「ときに神くん」
「ん?」
「あの子かわいいね」
はた、と動きを止めた神くんは、わたしの言葉の意味を理解したのか色白の顔を真っ赤にさせている。なんて、こんなにわかりやすい人だったのか。
「待って、俺あの日なんかしてた?」
「休憩のとき話してる時の顔が見たことないほど可愛かったから」
「えっこわい」
「付き合ってるんだ」
「…高校のときのマネージャーで…2年かけて外堀を埋めてやっと付き合えた」
「うそ、モテそうなのに」
「まどかちゃん気は利くけど自分のことには鈍いんだ。そこがかわいいんだけどね」
「べたぼれじゃん」
「認めます」
神くんはレモンサワーをぐびっとやって、あの時のへにゃっとした顔で笑った。観念したらしい神くんは、大学バスケの魅力を高校時代からの全国のスター選手が関東に集まることと話し始めた。その中でも海南は主力が内部進学でチームの完成度で勝負してるという話に、高校でバスケをやってたという山下くんが食いついてきた。
「ずっと話してみたかったんだよ、インターハイ得点王の神だよね」
「やめてよ」
「えっ神くんそんなすごい人なの?」
「大学入って神がいたときの俺の心境やばいから。雑誌とか普通にのってるぞ」
「えっそーなの!?見たいみたい」
「俺は置いといて牧さんがすごいから。年代別代表のキャプテンやるような人だから」
「帝王牧な!かっこいいよなあ、同じ学校にいるなんて嘘みてーだもん。で?なんでお前がバスケの話してんの?」
「え?マネージャーかわいいねって話」
「ちょっと!」
「おいまさかインターハイの得点王がマネージャーと付き合ってるとかそんな美味しい話あるのか」
「……インターハイ得点王のときはまだ付き合ってないです…」
その日以降山下と神くんがよくしゃべるようになった。山下が見せてくれた雑誌には当然のように神くんが写真つきでのっている。日本で一番きれいなシュートを打つ人らしい、すごすぎないか。つい昨日フィールドワークでいった川原でごろごろ寝てたの誰だよ。でもねえ涼しい顔した神くんに言ってやりたい。あの時のかわいい顔、絶対わたしは忘れてやんない。