神さんになびかないマネージャー
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(ジンジンの奥さん)
「あ、福田さん」
「マネージャーさん」
お好み焼きよっちゃんの前で鉢合わせて、俺たちは黙り込んだ。高校卒業してすぐに大阪にきたおれは、家の近くのお好み焼きやと銭湯を気に入った。大学を卒業したジンジンが同じチームに入ることになり、練習拠点が同じために必然的に近くの部屋を借りた。2人で毎週水曜お好み焼きをつついて4回目、彼女が試合を見に来ると言われてはじめてジンジンに交際相手がいることを知った。見ればわかると思うと言われたけど、共通の知り合いなら…中学の同級生なんて全然覚えてないし誰だろう、と首を捻っていたら、当日席に座っていたのは海南のマネージャーだったあの子だ。目立つタイプではなかったものの、練習試合で後輩が怪我したときに世話になったので覚えていた。そして2月頃、まどかちゃんがこっちに来るので籍を入れる、と言われた。4月の頭によっちゃんに連れてこられた彼女は、こっち知り合いいないんで仲良くしてください、と簡単に挨拶してくれた。そして、今に至る。
「入ります?」
「ああ」
「福田さんは、」
「フッキーでいい、あいつもそうだろ」
「えー!?じゃあフッキーさんでどうですか?一応先輩なんで」
「…ジンジンの奥さんにしてはちゃんとしてる」
「はは、そうです?牧さんたちはちゃんとしてたんで」
「たしかに」
「わたしのことはなんとでも、ノブは呼び捨てだし神さんはちゃん付けだし、牧さんたちは旧姓でもマネージャーとでも呼んでるし」
「じゃあ、まどかさん」
「ええ、なんか照れます」
「そのうち慣れるだろ」
「じゃあいっぱい呼んでください」
「わかった」
おばちゃんに神くん留守なの?とか言われながら注文して、いつも間に入ってる神がいないまま、探り探りの会話がはじまる。ぎこちないもんで嫌な思いをさせてなければと視線だけで表情をうかがったら、同じような顔をしたまどかさんと目があって吹き出してしまった。
「清田とも仲いいんだろ」
「家が目の前なんです。元々マネージャーになったのもあいつのせいなんで」
「そうだったのか」
「陵南はすごいでかい人いましたよね。牧さんの代?」
「そうだ。魚住さん、いまは板前やってる」
「いたまえ!?どーゆーこと!?」
「実家」
「なるほど」
「今度帰ったらジンジンも誘っていこう。俺たちは時々行ってる」
「えー!行きたいです!ねえ、神さん帰ってきてこんな話聞いたら絶対びっくりしますよ」
「まあ今まで2人では全然話してないしな」
「フッキーさん水曜以外はご飯どうしてるんです?自炊?」
「いや、あんまり。近くの定食屋とか、中華とか、色々適当に探して入るのが好きで」
「え!いいな!ひとり分作るの面倒なんで一緒にいきましょーよ!はっ!」
「は?」
「しまった、牧さんに重々注意されてるんです、お前は一度気を許すと距離感がおかしいところがあるから気を付けろって」
「牧さんはあんたの親父なのか」
「うんまあ、父さんよりも厳しいです」
「心配しなくても俺は友達の奥さんには手を出さない。好みのタイプでもない。でもあんたのことはいいやつだと思ってる。」
「ばっさりいくじゃん……どーゆー人が好きなんですか?お付き合いしてる人は?」
「ん……彼女はほしいけど……趣味が合う人がいい」
「それはわたしは掠りもしませんね」
「古着屋をまわったりしたい。洋楽も一緒にききたい」
「そんな人わたし会ったことないですね……」
「その服どこで買うんだ」
「え?これTシャツこそヨーカドーで買いましたけど、ジーパンはノブのお下がり、中学の時からはいてます」
「ヨーカドー……」
「神さんもですよ、あとそのへんの商店街の外に出てるワゴンとか」
「ジンジンせっかく手足長くて顔もいいのに無頓着だからな」
「無頓着と無頓着が暮らすとこうなるんですよ。でもほら、洋服も音楽も生活に侵食するし、興味ない人でもだんだん染められそうですね」
「………考えたこともなかった。それは、正直ささる」
「はー、すみませんここで誰か紹介でもできればいいんですけどね、ずっと男所帯なんで」
まどかさんが最後の一口をたいらげるのを見守って、おれも最後の一口をおさめる。
「フッキーさん、お風呂セット?」
「そっちもだな」
「じゃー一緒にいきましょう」
「ん、帰り送るから待ってろ」
「大丈夫ですよ、近いし」
「なんかあったらジンジンに合わせる顔がない」
「えー、じゃあお言葉に甘えて」
いつものように風呂に入って、銭湯の前で手を振るところを、反対側に。濡れたままの髪から落ちる水滴を、肩にかけたタオルが吸い込むままにしている、風邪引かないといいけど。
「さみしくねえの」
「え?わたし?だって3週間もいないんですよ、メソメソしてるより楽しんだ方が良くないです?ノブの彼女さんとか職場の先輩ともいっぱい約束しました」
「さすがだな」
「田村先生が、一人前になったら代表に一緒に連れてってくれるって」
「俺も、次からまた狙ってく」
「フォワードは激戦ですね」
「ん、清田にも負けん」
「やっちゃってください」
「ん」
「ときにフッキーさん、あしたの晩御飯の予定は」
「中国人のおっちゃんがやってる町中華はどう」
「さいこう!」
なるほど前向きで元気なやつだ。アパートの下まで来るとありがとうございましたと、綺麗な気を付け礼をみせた。残りの遠征期間ですっかり仲良くなる予定の俺たちを見て、ジンジンがどんな顔するかちょっと楽しみではある。
(おわり)
「あ、福田さん」
「マネージャーさん」
お好み焼きよっちゃんの前で鉢合わせて、俺たちは黙り込んだ。高校卒業してすぐに大阪にきたおれは、家の近くのお好み焼きやと銭湯を気に入った。大学を卒業したジンジンが同じチームに入ることになり、練習拠点が同じために必然的に近くの部屋を借りた。2人で毎週水曜お好み焼きをつついて4回目、彼女が試合を見に来ると言われてはじめてジンジンに交際相手がいることを知った。見ればわかると思うと言われたけど、共通の知り合いなら…中学の同級生なんて全然覚えてないし誰だろう、と首を捻っていたら、当日席に座っていたのは海南のマネージャーだったあの子だ。目立つタイプではなかったものの、練習試合で後輩が怪我したときに世話になったので覚えていた。そして2月頃、まどかちゃんがこっちに来るので籍を入れる、と言われた。4月の頭によっちゃんに連れてこられた彼女は、こっち知り合いいないんで仲良くしてください、と簡単に挨拶してくれた。そして、今に至る。
「入ります?」
「ああ」
「福田さんは、」
「フッキーでいい、あいつもそうだろ」
「えー!?じゃあフッキーさんでどうですか?一応先輩なんで」
「…ジンジンの奥さんにしてはちゃんとしてる」
「はは、そうです?牧さんたちはちゃんとしてたんで」
「たしかに」
「わたしのことはなんとでも、ノブは呼び捨てだし神さんはちゃん付けだし、牧さんたちは旧姓でもマネージャーとでも呼んでるし」
「じゃあ、まどかさん」
「ええ、なんか照れます」
「そのうち慣れるだろ」
「じゃあいっぱい呼んでください」
「わかった」
おばちゃんに神くん留守なの?とか言われながら注文して、いつも間に入ってる神がいないまま、探り探りの会話がはじまる。ぎこちないもんで嫌な思いをさせてなければと視線だけで表情をうかがったら、同じような顔をしたまどかさんと目があって吹き出してしまった。
「清田とも仲いいんだろ」
「家が目の前なんです。元々マネージャーになったのもあいつのせいなんで」
「そうだったのか」
「陵南はすごいでかい人いましたよね。牧さんの代?」
「そうだ。魚住さん、いまは板前やってる」
「いたまえ!?どーゆーこと!?」
「実家」
「なるほど」
「今度帰ったらジンジンも誘っていこう。俺たちは時々行ってる」
「えー!行きたいです!ねえ、神さん帰ってきてこんな話聞いたら絶対びっくりしますよ」
「まあ今まで2人では全然話してないしな」
「フッキーさん水曜以外はご飯どうしてるんです?自炊?」
「いや、あんまり。近くの定食屋とか、中華とか、色々適当に探して入るのが好きで」
「え!いいな!ひとり分作るの面倒なんで一緒にいきましょーよ!はっ!」
「は?」
「しまった、牧さんに重々注意されてるんです、お前は一度気を許すと距離感がおかしいところがあるから気を付けろって」
「牧さんはあんたの親父なのか」
「うんまあ、父さんよりも厳しいです」
「心配しなくても俺は友達の奥さんには手を出さない。好みのタイプでもない。でもあんたのことはいいやつだと思ってる。」
「ばっさりいくじゃん……どーゆー人が好きなんですか?お付き合いしてる人は?」
「ん……彼女はほしいけど……趣味が合う人がいい」
「それはわたしは掠りもしませんね」
「古着屋をまわったりしたい。洋楽も一緒にききたい」
「そんな人わたし会ったことないですね……」
「その服どこで買うんだ」
「え?これTシャツこそヨーカドーで買いましたけど、ジーパンはノブのお下がり、中学の時からはいてます」
「ヨーカドー……」
「神さんもですよ、あとそのへんの商店街の外に出てるワゴンとか」
「ジンジンせっかく手足長くて顔もいいのに無頓着だからな」
「無頓着と無頓着が暮らすとこうなるんですよ。でもほら、洋服も音楽も生活に侵食するし、興味ない人でもだんだん染められそうですね」
「………考えたこともなかった。それは、正直ささる」
「はー、すみませんここで誰か紹介でもできればいいんですけどね、ずっと男所帯なんで」
まどかさんが最後の一口をたいらげるのを見守って、おれも最後の一口をおさめる。
「フッキーさん、お風呂セット?」
「そっちもだな」
「じゃー一緒にいきましょう」
「ん、帰り送るから待ってろ」
「大丈夫ですよ、近いし」
「なんかあったらジンジンに合わせる顔がない」
「えー、じゃあお言葉に甘えて」
いつものように風呂に入って、銭湯の前で手を振るところを、反対側に。濡れたままの髪から落ちる水滴を、肩にかけたタオルが吸い込むままにしている、風邪引かないといいけど。
「さみしくねえの」
「え?わたし?だって3週間もいないんですよ、メソメソしてるより楽しんだ方が良くないです?ノブの彼女さんとか職場の先輩ともいっぱい約束しました」
「さすがだな」
「田村先生が、一人前になったら代表に一緒に連れてってくれるって」
「俺も、次からまた狙ってく」
「フォワードは激戦ですね」
「ん、清田にも負けん」
「やっちゃってください」
「ん」
「ときにフッキーさん、あしたの晩御飯の予定は」
「中国人のおっちゃんがやってる町中華はどう」
「さいこう!」
なるほど前向きで元気なやつだ。アパートの下まで来るとありがとうございましたと、綺麗な気を付け礼をみせた。残りの遠征期間ですっかり仲良くなる予定の俺たちを見て、ジンジンがどんな顔するかちょっと楽しみではある。
(おわり)