信長くんとおねえさん
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約束の時間に駅に行くと、清田は私を見つけて緊張したような、しょんぼりしたような表情で立ち上がった。
「おはよ、おまたせ」
「や、待ってないっす」
「いこっか」
「うっす」
「清田?」
「桃子さん、手ぇつないでいいですか」
「いい、いいよ、もちろん」
久しぶりにヒールの靴をはいたけど、清田の方が高かった。掌をあわせて指を絡めると、清田は顔を赤くする。もっとすごいこといっぱいしたのに、かわいいくてきれいな、私の大好きな、私のことが好きな男の子。
「桃子さん」
「ん?」
「俺、やっぱ桃子さんのこと、好きっす。その、慣れてないんで、ずっと頭んなかぐるぐるしちまって、でも考えても考えても好きだなって気持ちばっか出て来て」
「ごめん、わたしが悪かった」
「ちがうんす、俺がガキっぽいだけで、神さんとまどかのこと笑えないっす、でも桃子さんのこと大好きなんで、一緒に楽しいこといっぱいしたいっす」
「…じゃあ、今日、初めてのデートってことでいい?」
「いい!いいです!今日すげーかわいいっす!」
「よかった、おしゃれしてきた」
「~~~っ!!!」
嘘がない、と言ったあの子の声を思い出す。言葉も声も、赤くなった頬もころころ変わる表情も、意図して作られたものがない、まっすぐまっすぐこっちに向かってくるつよさが、ものすごく心地いい。
双子のように育ってきたまどかちゃんとは、今でもくだらない小競り合いが絶えずに先輩に怒られるらしい。俺だけ拳骨くらうんすよお、と頭に両手を当てた頃にはいつもの調子がでてきた気がする。
「その靴、歩きにくくないんすか?」
「そりゃあ運動靴には負けるけど」
「キラキラついててかわいいっすね」
「かわいい?」
「かわいい」
「でか女がもっとでかくなるって思わない?」
「かっかっか、この清田信長、この日のためにここまで大きくなったんすよ!」
人混みのなか、距離は縮まる。あぶね、と肩を抱き寄せてくれる大きい掌も、イルカショーで子どもより大きなリアクションとってるところも、すき、すき、
「あー!たのしかった!ねえまた来ましょうね!でも違うとこもいきたい!あっ!動物園!こんど動物園にもいきましょうよ!」
「ふはは、いいよ、どこでもいこ」
「ちょっと~何笑ってんすか~」
「いや、私の彼氏はなんて可愛いんだろうと思って」
「もう、年下だと思って!確かに俺には牧さんみたいな大人の色気はないっすけど…」
「なんでそこで比較対象が牧さんなの」
「えっ!だって俺、牧さんのこといちばんカッケーって思ってるんで」
「へえ、男が憧れる男ってやつね」
清田は人が好きなんだと思う。仲間のことになると饒舌だ。バスケ部でわかるのは牧さんと神くんくらいだったけど、だれがどうとか高校のときどうとか、一生懸命説明してくれるのを聞いてると自然に笑顔になってしまう。あっという間にアパートの下について、清田はあっさり私の手を離すと、今日たのしかったっす、ありがとうございましたと元気に挨拶すると、踵を返して大股で歩き出した。急いで左腕をつかまえると、こっちに向き直ってくれる。やさしい、すき、だいすき。
「あの、」
「晩御飯、食べていかない?」
「えっと、それなら、」
「できれば泊まっていって」
「桃子さん、おれ、」
「この前、夜、はじめて幸せだなって思ったの。それにはじめて気持ちよかった。今日清田がいっぱいわたしに好きって伝えてくれて、離したくなくなった。わたしが一緒にいてほしいの」
「んも~~殺し文句っすよお~~~」
むぎゅ、と抱きしめられて、心臓のはやさに驚く。もうその腕から逃れる気なんて、ほんの少しもなくなってしまった。わたしは幸せいっぱいに生きていく。
(おわり)