神さんになびかないマネージャー
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「原田がもう少し残っていくみたいだから、何かあったらお前に聞くように言ってあるから」
「はい、わかりました」
信長が連れてきた、洗濯の助っ人の女の子は、2日目にして早くも居残りをしている。体育館が静かになって、外の軒下に置いてある洗濯機が動く音が聞こえてくる。しばらくするとシャワー室の方から、誰もいませんか~と叫ぶ声がして、ブラシでジャージャーこする音が聞こえてきた。どうやらなかなか没頭するタイプのようだ。350を越えたとき、静かになっていることに気付く。ふっと振り返ると、体育館のすみっこで口を開けてこっちを見ている原田さんと目があった。帰らないの、と呼びかけると、小走りでこっちにやってくる。
「すみません、あんまりきれいでつい」
「それはありがとう」
「そういえば初めてちゃんとバスケ見たかも」
「えっ?練習見てなかったの」
「興味がないので」
「はは、面白い子だね」
「ボール拾いしてもいいですか」
「それは、助かるよ」
本当に、やっぱり、黙々とボールを拾い続けた原田さんは、俺が500を数えて、よし終わり、というと目をぱちくりさせた。
「帰ろうか」
「あ、はい」
「信長のご近所さんなんだって」
「はい」
「俺、自転車なんだ。遅くなったし送っていくよ」
「いえ、いつもこれくらいの時間なので」
「ははは、あいつなんか乗るなって行っても乗るのにな。スカートだと危ないかな、このままいこう」
荷物は、というと走って年季のはいったエナメルバッグを持ってきた。電気の切り方と鍵のかけ方を確認して、自転車おきばに一緒に向かう。夜の八時も過ぎているので、誰もいないしすごく静かだ。
「俺は2年の神宗一郎」
「原田まどかです」
「部活、どうして入ってなかったの?」
「中学までは陸上部だったんですけど、なんてゆーか…走るのは好きなんですけど、人と比べるの楽しくなくなっちゃって」
「ふーん、あ、これ。後ろ乗って。」
「座っていいんですか」
「うん、揺れると思うけど」
俺のサドルの後ろの荷台にまたがった原田さんは、段差の揺れに振り落とされないように、両手でサドルをつかんでいるようだった。
「つかまっていいよ」
「は?」
「肩は、高いか、ほら、信長だと思ってさ」
「うわ」
いったんブレーキをかけて、原田さんの左手を、俺のお腹の方にひっぱって、また走り出した。
「神先輩、チャラい人なんですか」
「うーん、自分ではそうは思ってないけど」
「まあいっか、ノブだと思って。おじゃまします」
「ん!」
両手でぎゅっとシャツの腹の辺りをつかんできた原田さんは、上半身も俺の背中に預けてきた。やかましい信長ばかり乗せているもんで、静かなのは落ち着かない。
「信長の家の方でいいの」
「歩いて10秒なんで」
「…となり?」
「斜め、向かいですかね」
「まじで近いな」
「ノブのお尻にみっつほくろがあるのも、小学校に上がっても予防接種で泣いたのも知ってますよ」
「それ、こんど言ってやろ」
「えー、私が言ったってばれるじゃないですか」
「そりゃそうだ」
角を曲がると信長の家が見える。斜め向かいの大きな木が庭にある家が原田家らしい。ありがとうございます、とお辞儀した彼女に、またあした、と声をかけると、顔をあげてはい、と返事をしてくれた。夜の静かな帰り道のはずが、お腹に残る手の感触が気になってなんだかうるさい。