神さんになびかないマネージャー
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「原田じゃないか?あ、やっぱり」
「牧さん!ご無沙汰してます!」
「神だろ?関係者こっちだ、ついてこい」
「ええ?私関係者なんですか?」
「違うのか?聞いてみてやるよ」
前に試合できたことがある、大阪の体育館。4年になって部活も引退したので、大阪の家電メーカーのチームに入った神さんに誘われて試合を見に来た。まさか相手のチームに牧さんがいるとは思わないし、いたとしてもこんなにふらふら歩いてるもんなのか。アリーナの一角に並んだパイプ椅子には、選手の家族とかゆかりの人が見に来ているらしい。初めての県予選で牧さんがベンチに座れと言ってくれてから、私はこの角度で試合を見るのが好きだった。フロアに出てきた選手の中でひょろっと細長い神さんは、私を見つけて少しだけ口元を緩めた。私もうっかり長くマネージャーをやったもんで、知ってる選手もちらほら見かける。
もうスコアも取らなくていいしドリンクの補充やテーピングの心配をすることもない。それはそれはめちゃくちゃよく走る神宗一郎をうっとり見ておけばいいというのは新鮮だし、けっこうな頻度で視界にカットインしてくる牧さん、目で見えるんじゃないかというくらい気合いが漲ってる。なんだこれ、楽しいな。
試合が終わって神さんがチームメイトの腕を引っ張ってこっちにやってきた。
「ひさしぶり!よくきたね。信長連れてこなかったの?」
「もう!わたしだってもう22歳なんですから新幹線くらいのれます!」
「ね、覚えてる?陵南の、」
「どうも」
「あ!えーと!福田さん!ですよね?」
「そうそう、フッキー」
「ふっきー?」
「俺中学一緒だったんだよ~同じチームでやるの7年とかぶりなんだよ」
「え~よかったですね!びっくりです!じゃあルーキーコンビですね」
「いや、俺は高卒だからルーキーじゃない」
「えーっ!?大先輩じゃんなにタメ口こいてんの神さん」
「もー!まどかちゃんまでちっちゃいこと言うなよ~」
「もっと言ってくれ」
「あれ、福田もいるのか、懐かしい奴らが揃ってるなあ」
「牧さん!」
「原田いつまでこっちにいるんだ」
「えー、2泊か3泊していきたいな、部活ない連休はじめてなんで」
「それならいいだろ神、俺たちもう解散なんだよ、飯行こうぜ。福田もどうだ?」
「や、俺はいい」
「えー、フッキーも行こうよ」
「いや、俺はいい。お前とはいつでも行けるし」
気を遣って帰っていく福田さんに挨拶して、私は牧さんの右側、神さんは牧さんの左側にくっついて歩く。高校生に戻ったみたいにゲラゲラ笑いながら、神さんがいつも福田さんと行ってるというお好み焼きやさんに。
「おかえり神くん、あれ今日はフクちゃんやないの?」
「今日ね、試合だったんだ。高校の先輩の牧さん」
「牧です」
「こっちが後輩のまどかちゃん」
「あら!べっぴんやないの!ま~神くんの彼女なん?」
「そうなんですよ」
「あら!あんたも隅に置けへんな」
私から見て牧さんは前から全然変わらない。親切で、面倒見がよくて、ちょっとおじさん。清田はどうしてるんだ、とかお前は就活大丈夫なのか、とか相変わらずお父さんみたいだ。どーんと万札を出してくれて、私と神さんが慌てて財布を出すのをさっと制して明日ふたりで美味いもん食えよと頭をぐしゃぐしゃしてくれた。
「神さんち泊めてもらう気満々ですけど」
「はは、俺も連れ込む気満々ですけど」
「……!!」
「いやなら先に言っといて」
わたしのキャリーを引き摺りながら、ちょっと先を歩いていた神さんがこっちを振り返る。唇を噛むのは落ち着かないとき、知ってる。大きな掌からキャリーの取っ手を奪うと、空いた掌に指を絡めた。