神さんになびかないマネージャー
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出れそうだから見においでよ、と電話が掛かってきたのは、私たちが最後のインターハイをベスト4で終えた10日くらいあとのことだった。
「えっ、どこであるんですか」
「海南大の体育館だよ」
「えー、わたし大学入ったことないですけど」
「こういうときのための信長だろー、あいつがいればなんとかなるって」
「神さんのノブの扱い方ほんとすきです」
「なんだよ、そこは神さん好きですって言うとこじゃないの」
「わー!言いません!日曜ね、ノブと行きますから」
ーーーーーーーーーー
まーきさーん!と聞き覚えのある声がして、声の主を探すと、2階席から清田と原田が身を乗り出して手をふっている。手をふって応えると清田が跳び跳ねて喜んだ。インターハイ4強のキャプテンとしてはいささか可愛らしすぎないだろうか。
「牧、知り合い?」
「ああ、高校の後輩で」
「げ、あれ清田じゃん、付属高校の」
「ご存知でしたか」
「あの女の子は?」
「マネージャーの原田です。働き者のいいやつですよ。そんで神の彼女」
「っまっきさん!!!」
「えっ?違うのか?清田が言ってたぞやっとつきあい始めたって」
「違わないですけど…」
「うわー!神が照れてる!かわいいなこの野郎~パス出すぞ~」
「う~いっぱいシュートします…」
先輩方にもみくちゃにされながら、神は今日一年生ながらスタメンで出ることになっている。神奈川県では2年連続の得点王だったので当然と言えばそうともいえる。神がせっかく控えめに手を上げたのに、清田がおおきな声でじんさーんと呼んでしまって台無しだ。でもそんな清田のことも、かわいくて仕方ないという顔をしてるのでなかなか神も面白いやつだよな。
「まきさーん!!じんさーん!!おつかれさまっすー!!」
「おう清田!元気そうだな」
「インターハイお疲れ様」
「うっす!冬も頑張るっす!」
「あれ、原田は?」
「え?つい今まで」
「原田!顔見せろよ」
「ずるい牧さん、わたしが牧さんの言うこときくって知ってて~」
「うん、まあな」
「まどかちゃん」
「じんさん……お疲れ様です…相変わらずで息止まりました……」
「うん、息はしなね」
全然色気のない会話に、それとなく気を向ける。兄妹っぽさは変わらないし、たぶんもともと距離も近かった。
「500本、まだやってんですか」
「うん、よほど忙しくなければ」
「神さんがいなくなっちゃったんで、ママチャリ買ってもらったんですよ」
「うそ!こげるの?」
「あったりまえでしょ!ノブがいるときはこがせてますけどね!こんど乗せてあげますから」
「うしろに?」
「そう」
「おれが?」
「そうです」
「ははは!それは楽しみにしてる!」
「あー!いたいた!牧、清田紹介しろよ!」
「ああはい、おい清田、うちの先輩たちだぞ」
「牧がいちばんフケてるけどな」
「勘弁してくださいよ」
「おおお!清田信長っす!付属高校の3年っす!」
「インターハイどうだったの?」
「ベスト4っす……冬は優勝っす…」
「しょんぼりするなよ立派じゃねえか」
「大学にもそのまま上がるのか?頼もしいなあ」
「うっす、よろしくお願いします!」
「お前は勉強頑張れよ、成績落とすといくらバスケ頑張っても推薦来ねえぞ」
「それはまあ、こうるさい家庭教師がいるんで」
「おまえなあ」
相変わらず五歳みたいなやりとりをかます神と原田をな。そっと隠しているつもりだったが清田のせいでみんなの注目がふたりに集まる。大柄な大学生男子に囲まれて、なつかしいな、入部当初のような顔になっている。
「彼女ちゃんは?」
「ヒッ、原田まどかです!」
「見る目あるなあ、いい男だぞ神は」
「がんばり屋だし」
「酒も強いし」
「あっ先輩!シー!シーです!」
「あれ?そっか1年か」
「じ、じんさんお酒飲むんですか…」
「いや付き合いで、もう!2年も頑張ってやっとつかまえたんでやめてくださいよ」
「にねん!?神が?」
「まどかちゃんも内部進学ならさ、マネージャーやってよ!神のシュートも見放題だぞ」
「それは、よく知ってますけど」
「やめた方がいいっすよ、最近また洗剤マニアに拍車かかってるんで。部室に大掃除特集の主婦雑誌おいてあってエロ本が落ちてたときよりどよめいたのついこないだっすよ」
「なにそれキャラ濃いいな」
「でも原田、考えとけよ本当に。今度は俺たちの学年にちゃんとマネージャーがいるから、お前はのびのび掃除できるぞ」
「ほんとですか?」
「えー!!いやっすよぉ!!幼稚園も小学校も中学校も高校も一緒に通ってやっとこいつがいなくなると思ったのにぃ」
「はあ!?あんたねえ、誰のお陰でここまで赤点回避してきてると思ってんのよ!」
このやろう、と引っ張りあいをはじめた進歩のない2人に、ため息をつく。清田にげんこつを落として引き離すと先輩たちからおお、と声が上がった。原田は高砂を盾にしてまだ清田にあかんべをしている。
「どうする?このあと。せっかく彼女きてるし神は送ってく?」
「んー…まどかちゃん探検する?大学のなか」
「えっ、探検?する!」
「たんけん……?デートじゃないの…?」
「じゃあ清田はこっちだ、学食寄ってくぞ」
「やったあ牧さん!」
ありがとうございます、と耳打ちしてきた神を肘でどついて、清田を引っ張ってみんなでわいわい食堂にむかう。あいつが探検って言ったら本当に探検なんだろうな。木にのぼったり芝生で昼寝をしたりする2人を想像しながら、カツカレーをほおばった。