神さんになびかないマネージャー
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家の前に立っていたまどかちゃんは、自転車の後ろに乗るのを見越してかふくふくに着ぶくれしている。こなれたボーイッシュなのは信長のお下がりを着ているからだ。ぐるぐる巻のマフラーに顔の下半分が埋もれている。どうぞ、と言うと頷いて、後ろに乗って腕を回してくる。
「海いこう」
「えっ、冬ですよ、真冬」
「泳ぐ訳じゃないじゃん」
「当たり前でしょ」
まだちょっと動揺しているらしいまどかちゃんは、しばらくすると観念して俺にしっかり体を預けた。前にも一度きた砂浜、同じように防波堤に沿わせて自転車を止めた。防波堤の上に座り込んで、曇り空から漏れる光が海面をゆらゆら反射するのに目をやる。
「つめた」
「手袋は」
「忘れちゃいました」
「俺のいっこ貸してあげる」
「私の手、2個あるんですけど」
「うん、反対はこう」
「なるほど、賢い」
てのひらを差し出すと、素直に重ねてくるので、わざとらしく指を絡めて、もう少しだけ近づいた。
「まどかちゃん」
「はあい」
「ずっと言えなかったんだけど、俺、まどかちゃんのこと好きなんだ」
「……………すき……?」
「うん」
「それは…その…、えっと、」
「うん」
「ペットの犬とか、」
「とは違うかな」
「妹って言ってくれたのは」
「もちろん本当だよ、小さい子に向けるみたいななんだろ…かわいらしいってゆーか、いじらしいみたいな、気持ちも確かにあるけど、でもそれだけじゃないんだよ。」
「…びっくりした…」
「うん、ごめんね」
「もしかして、その、お返事が必要なやつですよね」
「そう、そうですね。いいよ、ここまで待ったから急がない」
「…………あの………えっと……えー、わたしは、」
「ん」
「神さんの言葉をそのまま、だから、兄がいたらこんな感じなのかなって思って甘えてきたから、どうしたらいいのかわかんないです」
「だよねえ、作戦ミスだったかな」
「作戦?」
「ほんとはあの元カレに会ったとき、今ならつけこめるって思ったんだけど」
「あの時ですよね、ここきたの」
「邪なこと考えちゃいけないなって思い直して…」
「待って、いつから」
「けっこう最初。牧さんも信長もバスケ部員みんな知ってる」
「うそぉ……じゃあノブが時々神さんとこ行けよって言ってたのはそーゆーこと?」
「そうだね」
「………まじ…みんな口堅いじゃん……ノブも頑張ったんだな……」
「あいつはあいつなりにすごく気を遣ってくれてたよ」
「私だけ知らなかったってこと?」
「うん、1年生も知ってる」
「はー、わたしちょっと、鈍すぎません?自分で自分に幻滅するわ」
「まあでも、それもかわいいって思っちゃうから俺も相当重症だと思う」
「はっずかし!」
砂浜に飛び降りて振り返る。真っ赤な顔で混乱している。おいで、と手を出すと、ぎゅっと掴んで飛び降りてきた。着地でバランスを崩して俺が抱き締めてキャッチするとこまではドラマのようにうまく行ったけど、そこから先のことはなにも考えてない。
「じんさん、」
「もうちょっとだけ」
「…わたしが神さんのこと大好きなのは、神さんが期待してるのとはちがうのかな」
「そこは、すりあわせが必要かもね」
風で飛ばされた前髪のせいで露になったおでこに、大事にそっとくちびるをよせる。ヒッとかひどい声をあげて尻餅をついたまどかちゃんは俺の顔をみてわなわなしている。
「神さんは、そんな、私と、」
「できれば次はこっちに」
「そんな、急な」
「もう部活に支障がでないからね。俺はちょっとずつわかってもらおうと思ってるけど。大体こんな優良物件めったにないよ、信長のこともまとめて可愛がれるのなんか俺か牧さんくらいだと思うけど」
「み、宮益さんとか」
「あ、言うと思った」
「ん!んむ」
「どうしよ、もっかい」
「ん……ぅ、じ、んさん、これは、」
「あ、ごめん!ごめんまどかちゃん、」
「ん、神さん」
「ごめんね、帰ろっか」
こっち、と2本の指でつまんだ唇を、そのままぷぅと尖らせてるのがあんまり可愛くて、自分のそれを重ねる。触れるだけ、二度目は感触を確かめるように、はむ、と唇を動かした。俺のジャンパーの裾をぎゅっと掴む手の小ささ、一生忘れない。
自転車の後ろにまどかちゃんを乗せて、家の方に向かって進む。唇の柔らかい感触の反芻と、この沈黙をどうするかで俺は困ってる。信号で止まったときに、コンビニ、と言われて近くのコンビニに入る。迷わず肉まんを1個買って、半分にして俺に渡してきたまどかちゃんは、ふうふうとしながら肉まんを食べはじめた。
「こういうのが楽しかったの」
「俺も」
「ほんとです?」
「ほんと。絶対ほんと。」
「神さんと付き合ったら、何するんですか」
「んー、自転車で今日みたいにでかけて、アイスとか肉まんとか食べて」
「うん」
「でも時々はキスもしたい」
「………善処します」
「ほんと?」
「う、はい」