神さんになびかないマネージャー
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「あれ、原田」
「げ、センパイ」
結局インターハイは2位におわった。ここまできたのに牧さんを優勝キャプテンにできなかったと顔をぐしゃぐしゃにして泣く信長を見て、俺は涙がこぼれないように奥歯を噛み締めた。そして戻ってきた神奈川で、シュート練習を再開する。昼の12時半に練習がおわって、シャワーを浴びて、おにぎりを食べて500本。それをみてまどかちゃんも握り飯を持ってくるようになった。先に帰っていいよと言っても首をたてに振らないので早々に諦めてシュート練習したあと、自転車の後ろにまどかちゃんをのせて、アイス食べて帰ろうとコンビニに寄ったところだった。
「知り合い?」
「あ、えと、中学の先輩です」
「げ、彼氏かよ」
「違います、部活の先輩です」
あきらかに嫌そうな顔したまどかちゃんは、俺とその先輩を交互に見て次の言葉に困っている。どうやら例の元カレだな。
「あんた知ってる?こいつのバスケ部の幼馴染み、いっつもベタベタしてんの」
「はは、このマーク見えませんか」
「か、い、なん、バスケット…バスケ部」
「マネージャーが辞めちゃって困ってたとこに、信長がまどかちゃんのこと連れてきてくれたんですよ。俺は信長もまどかちゃんのことも弟や妹だと思って可愛がってるんですけど、なんか問題ありますかね。ほら、いくよ」
「あ、神さん!」
60円で2つにぱきっと割れるアイスの会計を済ませて、早足で店を出る。せっかく190センチもあるのでちらりとそいつを見下ろして、まどかちゃんを後ろにのせて。すぐそこの公園でおりて、日陰に座り込んだ。じょうずに半分にならなかったアイスの大きい方を渡すと、黙ってとりかえられる。
「あいつ信長となんかあったの」
「付き合ってるとき、先輩がわたしの悪口言ってたんだって。色気ないとか気が利かないとか、それをノブが聞いちゃって、黙ってればいいのに文句言って喧嘩になっちゃって」
「そんで別れたんだ」
「そうです」
「そんなやつのどこが好きだったの」
「うーん…わたしが足が速かったから目をつけられたんじゃないかなー、お陰で他の女子部員とも空気悪くなるし最悪だったんです」
「そんなのある?」
「わたしも考えが浅かったんです。付き合ってって言われて頷いちゃったんで。」
「そうかあ…」
「大丈夫、今思ったらあの人のこと別に好きじゃないし、こうるさいノブもいるし」
「俺もいますよ」
「あ、そうでした。さっきほんと、嬉しかったです」
「…でも、嘘ついた」
「え?」
妹のようで、目が離せなくて、心配で、誰より頼りになる。好きだなんて、今は言えない。
「神さん?」
「時間ある?海いこ、海」
「えっ、今から?」
「そう。ほら、乗って」
「うそ!ほんとに?」
「はやく」
「もう!」
漕いで漕いで、いちばん近くの海に向かって。今ならつけこめる気もするけど、そんなに生き急いでるわけもない。俺の背中にくっついたかわいい女の子は、すっかり背中に顔を埋めてしまっているらしい。
緩やかな坂を下りていって、防波堤に沿って自転車をとめる。隙間から浜に飛び降りて波打ち際で水を蹴飛ばす。盆もすぎて海水浴客もまばらな平日の海に俺達の笑い声と叫び声が響いた。
「わはは!さいあく!パンツ濡れた!仕返し!」
「うわ!やったな!」
「ちょっと!返りどーすんですか!」
「いいじゃん自転車だし」
「そっか」
「神さん、ありがとうございました」
「なにが?」
軽く濡れたままで、風で乾くでしょとかふざけあいながら自転車に乗る。
「わたしに元気出させてくれたんですよね」
「まあ、そーゆーことにしといて」
「なにそれ」
「俺はさあ」
ブレーキをかけて振り返ると、まどかちゃんは俺の目を見た。
「俺が引退するとき、さみしいって思ってくれたら、いいなって思ってる」
「そんな、」
とたんに潤んだ瞳にも、背中に染み込むあったかいものにも気付かないふりをして自転車を漕いだ。