あこがれの武藤先輩
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2つ下の恋人は、それはそれは可憐で知的でかわいらしかった。クラスが変わっても仲良くしているらしいマネージャーとは大違いだ。あいつはいまだに神とくっつかなくて、だけど後輩ができて末っ子っぽさはすっかり抜けたこと、でも昼休みに些細な用事で立ち寄る神にはべったり甘えていることなどを、俺は晶子から聞いた。
試合を見にこいよ、と言いたいけどベンチに入れるかまだギリギリでなかなか言えない。そんな調子で1年たち、ゴールデンウィークは部活で忙しいので5月のなかばにようやく久しぶりに顔をあわせたファーストフードで、晶子はひどく落ち込んだような表情で、俺のとなりでアップルパイを小さな口で食べている。こんなときマネージャーだったらな、拾い食いでもしたのか、なんて簡単に茶化せるのに。
「忙しくて悪かったな」
「ううん、電話くれたじゃないですか。こないだのポストカードも嬉しかったです」
「だろ?あーゆーいかにもご当地!みてーなのさあ、前は誰が買うのかなって思ってたけどこないだつい、お前のかおが浮かんで」
「うれしいです。でももうちょっとなんか書いてくれてもよくないですか」
「えっ!それでなんか落ち込んでたのか?!」
「ち!ちが!おちこんでなんか、」
「ない?」
覗き込むと赤くなって身をこわばらせるのがかわいいなと思う。去年の夏休みに晶子の希望で東京の美術館に行ったのがはじめての遠出だ。帰りの電車をまつホームの人混みに紛れてはじめてくちびるを奪った。それ以来遠出するたびに、帰りのホームでうつむきがちにそわそわしているのがたまらなくかわいい。この距離感に弱いことはよくわかってて自然に横並びの席に座ったのは成功だった。細くてさらりとした髪の毛を耳にかけて、晶子はトートバッグから、A4サイズの冊子をとりだす。予想外の展開に俺は間抜けな顔でそいつを受け取った。
「大学のパンフ?」
「…東京に行こうかと」
「えっ、ここ俺でも知ってるぞ。お前あたまよかったの?」
「まどかほどじゃないですけどね」
「へえ、すげえじゃんよ。そんで?なんで今日は元気ねーんだよ」
「…あの、海南にいけば、武藤先輩と一緒に居られるのになって」
「なっ!?」
「まどかは海南にいくんですって、国立の推薦とか狙えるのにさ、それなのになんかわたし、何しに東京なんかいくのかな」
「まて、落ち着けよ、せっかくいいとこ行けそうなんだろ?」
「英文科、出版業界につよいって、それにオープンキャンパスにも行って、」
「うん」
「でもまどかが残るって聞いて、なんかそっちのほうが地に足ついてていいのかなとか思い始めちゃって」
「ん、そうか」
「せんぱい?」
「…なあ」
「はい」
引っ掻けてしまわないように、気を付けて髪の毛を掬う。さらりとこぼれていくそれが好きで、逃さぬようにじっとみつめて。
「東京くらいな、電車ですぐだろ。いつでも飛んでくわ」
「とんでくなんて、」
「お前が行きたいとこに、ちゃんと自分の力でいけそうなんだろ。頼むから俺に足引っ張らせるなよ」
「せ、んぱい」
「あいつはさあ」
「まどか?」
「うん、あいつは理学療法士のコースに行くって言ってたろ。俺たちと過ごした時間があいつの人生に、なんか意味あるものだったのかなって、少し自惚れてるけどよ」
「んふ、ほんと好きですよね」
「でも誰かの足を止めたいと思ったことはない」
「っん、」
「だいじょーぶ、新しいとこいくのは不安だよな。俺も余裕ねーし正直しょっちゅう会いには行けないかもしんないけどさ。だめなときは支えさせてくれよ。」
「武藤先輩、」
「がんばれ」
「……ありがとう、ございます」
かわいい、以外の言葉、忘れそうだ。うまくいくとか、なんかこう、気の利いた言葉が出てこない。白くて、細くて、くそ!煩悩!悪霊退散!