高砂くんの表情筋
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熱海の旅行は10月のおわりになった。
金曜、少しはやめに退勤した高砂くんはわたしの家にボストンバッグをもってやってきた。2泊の旅行にしてはコンパクトな荷物だと言うと、学生時代に遠征が多くて慣れてしまったと教えてくれた。
はやめに布団にはいると、高砂くんは背中を向けてしまった。照れ隠しと、シングルベッドでならんで寝るために、幅をとらないようにしてくれてるんだと、このしばらくずつの間に少しずつ教えてくれた。明日が楽しみでなかなか眠れないなんて、いつぶりだろう。早く眠れるように高砂くんの体温にすり寄って心音に耳を澄ませていると、だめだ、と情けない声を上げて高砂くんが起き上がった。
「なっに!ごめん、」
「すまん、」
「なに、」
「あの、違うんだ、寝よう」
「具合でも悪い?」
「………悪い、このままだと気になって眠れそうにない」
「なにが?」
頭を抱えてじっとしたあと、高砂くんは立ち上がった。
「どうしたの」
「わるい、お前はこういうのちゃんとしてほしいと思うだろうけど」
暗くてよくみえないけど、からだを起こして高砂くんの様子をうかがう。ベッドに腰かけるわたしの横に座り込んだ高砂くんが差し出したのは、小さな箱だった。それがなんだかわからないほど、ぼんやりはしていない。
「あの、」
「こんなの柄じゃないんだ、なあ、でもな、その、……結婚、しないか」
「たかさごくん、」
「…だめだったか」
「だめじゃない、うれしい」
「うん、よかった」
「寝巻きにダイヤモンドは似合わないけど」
「う、すまない」
「でもなんか、高砂くんのそういうとこ好きだよ」
「なんだそれ」
「わたしのことで頭いっぱいで眠れなくなっちゃったんでしょ?」
「ああ、その通り」
「もうこれで眠れるね」
「朝早いからな」
「向こうでイチャイチャしようね、勝負下着もっていくから、すっごいやつ」
「いつも割とすごくないか」
「んーん、もっと。あ、想像したらだめよ、今日はしないって言ったのそっちだからね」
「歩けなくなるのは笹原だ」
「たしかに」
「でもこれで、明日の旅行は婚前旅行ってやつだな」
「たくさん話そうね」
部屋着姿にダイヤモンドをはめたまま、真っ暗な部屋で高砂くんに抱き込まれて、わたしは目を閉じた。高砂くんはいつもやさしくてあったかい。ちょっと弱気が覗くところも好き。いいところも、あんまりなところも、全部全部わたしのものにしたい。わたしにできることはあまり無い気もするけど、でもどうしようもないだめなところを、仕方ないなと言ってくれる高砂くんのことも好きだからいいことにしよう。