「憧れの三井先輩が人を殴るような人になってたなんて、ショックで立ち直れません」






大きな目でまっすぐに見つめられたら、何も言い返せなかった。あの頃の俺は、自分が怪我をするとか、バスケから離れるとか、考えもしなかったよな。
練習終わりに家の近くのバスケットコートに寄ると、先客がいて様子を見ていた。あれ、うちの制服、

「あ」
「お前、昼間の、」
「三井先輩」
「なんでこんなところに」
「だって家から近いんですもん。」
「そうか、武石だったな」
「…わたし、憧れてたんです、三井先輩に。ビデオももらって、スリーポイントすごい練習しました」
「…見せてみろよ」



俺が投げたボールを片手で受けとると、低くコンパクトにドリブルをしていって、ラインのところできゅっと止まって軽やかにジャンプしてボールを放った。きれいな放物線を描いて、ボールはリングを抜ける。胸の奥がぎゅっと苦しくなるような感覚がした。

「…上手いじゃねえか」
「誰の真似して練習したと思ってるんです？」
「そ、れは、」
「先輩、本当にバスケ部に戻るんですか」
「ああ、そうだ」
「晴子はお人好しだから、ブランクあるのになんてほめてましたけど、わたしはあんな姿見ちゃったんで、ちょっと信じられません」
「お前、物言いがストレートだな…友達いるのか」
「わたしは人を殴ったりしないので友達はいます。それに人を殴ったりするような人に、オブラートに包んで物言って伝わりますか？わたしの憧れはもう終わっちゃったみたいなんで、どうぞ腹が立ったなら遠慮なく殴ってください」
「お前なあ…」


よく見ると、目元が腫れている。
俺は、俺は、どれだけのものを裏切ってしまったのか。

「お前、名前は」
「川本すみれです」
「…俺は、その…きっと名誉挽回してみせる」
「は？」
「お前にまたきっと、憧れの三井先輩って言わせて見せる」
「はあ…」
「だから…なんだ、その、部活、見に来いよ」
「なんでです？バイトあるし無理です」
「ぐっ…つめてーな」
「でもまあ、晴子が誘ってくるんで、たまに見に行きます」





じゃあ、と言って川本は帰っていった。
中学校の後輩と言われても、いまいちぴんとこなかったが、落胆の大きさは伝わってきた。なんてことはない、赤の他人だ、言い聞かせるように呟いても、どこか胸が苦しい。