三井先輩に狙われる
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「遅いし、コーヒーはよくないわね。麦茶でいい?」
「おお…」
「なに突っ立ってんのよ。適当に座んなさいよ」
「おお、はい」
「みんな元気そうでよかったわ~なんか流川も昔より丸くなった気がした」
「あいつはなんでも自分ひとりで完結させすぎなんだよ」
「三井さんやあんたとは案外馬が合うのよ」
「それって喜んだ方がいい?」
「さあね」
女の子が一人暮らしをしている部屋にあがったことなんかないし、それがまさかあのアヤちゃんの部屋だとはちょっと何が起こっているのかわからない。物はきれいに片付けられて、ステンレスやガラスの家具が並び、スッキリしている。おしゃれな彼女らしく、洋服が仕舞われているらしい作り付けのクローゼットの横に、ステンレスのハンガーラックがさらに置いてある。
「ちょっと、あんまり観察しないでよね」
麦茶の入ったグラスをふたつ手にしたアヤちゃんは、地べたに座ってキョロキョロする俺に軽く蹴りをいれてから、L字に向かい合ってそっと腰を下ろしてこっちに麦茶を差し出す。やばい俺、今どんな顔してるんだ。こんなことなら三井さんに、どうやって彼女の手を握ればいいのか教えてもらっておけばよかった、2時間前に戻りたい。
「で?どうなのよアメリカは。ご飯とか言葉とか大丈夫なの?」
「まあ、飯はね。米は鍋で炊けるようになったから、土鍋持って帰りたいんだよね、向こうに」
「なによそれ」
「なんかうまそうじゃん、ふつうの鍋で炊くより」
「そりゃ、まあ、そうかも」
「沢北にたまに会うよ」
「へえ、なるほどね。家が近いの?」
「そうでもないけど、試合とかで会えば飯食いに行ったりとか」
「そーなの!まあリョータは愛嬌あるし、向こうでも可愛がってもらえるでしょ」
「愛嬌?まじ?」
透明だと思っていた爪がきらっと光っている。思わずそっと手を伸ばした。
「これ、どうなってんの?」
「マニキュア塗ってるの。いいでしょこれ、なんか海の色みたいで、気に入ってる」
「よく似合ってる」
白くて、やわらかくて、小さくて、しっとりしている。握った手に意識が行きすぎて変なことを口走らないように、神経を使いながらたわいもない話を、なるべく、なるべく。
「そういえば今日、川本、アヤちゃんが呼んだんだってきいたけどさ、いつからそんなに仲いいの」
「え?あー…晴子ちゃんの友達ってんで顔は何となく知ってたけど…あーそうそう、三井先輩が大学に入ってすぐのときよ!ほら、あの時あんたもいたわ、わざわざ教室まできて」
「あ、なんか覚えてるかも」
「大学の試合を見に行ったら、三井先輩がきれいなマネージャーにちやほやされてたって打ちのめされてきてねえ、それで2人で横浜までブラジャー買いに行ったのよ。それ以来だわ」
「ぶ………」
反芻すらできず、思わず顔をおおった。そんなあ三井さん、階段上るのはえーよあんた!
「まーまー出番はしばらくなかったみたいだけど?下着やさんって妙にテンション上がるのよね、よりどりみどりで好きなの選べて、サイズも合わせてもらえるし」
「待って!ストップ!刺激が強い!」
「はー?あんたねえ、妄想が激しいのよ」
「今心の中で三井さんに文句言ってた」
「ふは、確かにそんな顔してる」
「こーゆー話は、どうやって流せばいい?」
「流したいの?慣れなさいよあんた、アメリカ人なんかみんなすっごいのぶらさげてるでしょ」
「それは…、それはそうだけど、そういう風には思わないし、アヤちゃんは話が別だろ」
「ふーん、それで、私はあとどれくらい据え膳になってればいいわけ?あんまりぼけっとしてるとお膳に足生えて逃げちゃうんじゃない?食べ時のがして腐ったり」
「待って!急!」
落ち着け!頭を抱えてうずくまると、ふう、とため息をついて、アヤちゃんが立ち上がる気配がした。そうだ、ここまで全部引っ張ってもらって、情けない。
「そろそろ電車なくなるわよ」
「…帰らないって言ったら?」
「そうねえ、居酒屋の臭いついてるし、シャワー浴びる?先使っていいわよ」
「えっと、じゃあ、パンツくらいならコンビニにあるかな、ちょっと行ってくるからアヤちゃんが先使って」
「あらそう、じゃあ鍵持っていって」
ちゃり、と鈴とバスケットボールのキーホルダーのついた鍵を渡される。駅前のセブンが一番近いわよ、とバスルームに向かうアヤちゃんを見送り、俺は念入りに鍵をかけたか確認して小走りにコンビニへ。待って、俺、今かなりやばい、けどもう、勇気と勢いは彼女がくれた分だけで十分だろ。
幸いそこそこいい感じのトランクスと歯ブラシセットを手に入れた。そして、(えっ、サイズあるの…?)いや考えすぎか?いや、いや。あんまりたちすくんでても怪しまれそうで、勇気を出して小箱を手に取る。急いで家に戻ると、アヤちゃんは濡れた髪をタオルで丸めて、顔中に四角いものをはりつけている。よくわからないけど女の子は大変だ。
「シャンプーとか適当に使って」
「おお」
洗面台の収納には色んな小瓶が並んでいる。シャンプーやボディーソープの香りも、いちいち全部が気になって、気が気じゃない。
「あがった?ほら、こっち」
肩にタオルをかけて、ドライヤーのスイッチを切ったアヤちゃんの言うとおりにベッドの横に腰を下ろす。俺の背後に陣取ったアヤちゃんは、続けて俺の髪を乾かし始めた。暖かい、気持ちいい。ぱちんとスイッチを切ったアヤちゃんは、歯磨きして、お茶を飲んで、さっさと布団に潜った。
「あんたなに面白い顔してんの?」
「えっ?」
「寝ないの?別にいいけど電気消しといてね、こっち半分あけとくから」
「えっ!」
ごめん、さっき、敷布団の下にあれを隠した。見つけられてはばつが悪い、電気を消して、背中を向けて布団に入った。
「…寝た?」
「眠れると思う?」
「心臓やばい」
「ばか、あたしも」
「…触っていい?」
「…いいよ」
「ほんとに?」
「あんたに今更隠し事なんかないわよ、好きにしなさいよ」
もう、すでに、ちょっとやばいんですけど。布団の下で息を潜めるコンドームに、心の中で(お前の出番がきますように)と話しかけて、それからアヤちゃんを抱き締めた。