三井先輩に狙われる
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わたしはその後順調に成績を維持し県内の国立大学に。横浜に向かう三井先輩とは朝の電車が一緒だ。
「おい、脚出しすぎじゃねーか」
「は?そんなじろじろみてんの先輩だけでしょ」
「そんなんわかんねーだろ」
あれからも時々は彩子先輩や、晴子ともお買い物に出掛けて、全身ヨーカドーだったわたしの身の回りも、ちょっとずつおしゃれなものが増えてきたと思う。
先輩は相変わらずジャージばっかしだけど、たまにジーンズにシャツみたいな元ヤンとは思えないようなさわやかな私服を着てきたりすると、かっこいいやら面白いやらでなかなか直視できない。
これ以上なにかあったらもう倒れるから、というお母さんの脅しをちゃんと真に受けてか、授業もちゃんと受けてて、部活の用事以外の外泊もせず、わたしのブラジャーを見ることもなく、せっせと学生生活を送っている。家に遊びにいったら、何も言われなくても部屋のドアは閉めずにおいてある。
そんな三井先輩も、無事に就職が決まった。藤沢の自動車メーカーで、実業団のチームがまあまあ強くて、工場勤務などをしながら、けっこういい条件でバスケを続けられる、と喜んでいた。キラッと光る白い歯、それ差し歯だぞ、わすれんじゃないよ。
もう大人だし、更正してから4年以上もたっているのに、三井家からの信頼は回復していないらしく、家賃補助が出るからと職場の近くに借りることになったアパートの話になったときは、あんまり行かない方がいいと思うけどもし行くなら家中の窓開けなよ、と念押しされる。
歩いてすぐそこにいた三井先輩がいなくなるのは寂しいけど、私だって卒業に向けて、資格を取ったり卒論のテーマを考えたりしないといけない。個人の法律事務書なんかで働けるように、司法書士の資格はとったので次は行政書士に挑戦しようと参考書を開いた。玄関の方で物音がしたと思ったら、母のあらーひさしくん!という声にずっこけそうになる。
「何してるんですか」
「かーちゃんが持ってけって言うから」
「せっかくなんだから上がって上がって!お茶いれるわ」
「うす、お邪魔します」
「おっ寿くん、今日も男前だねえ」
「お父さん、ごぶさたしてます」
「えー!なにいい子ぶってんですか」
「うるせー普通だ!お前が俺んちに馴染みすぎなんだよ」
わたしたちが乱暴にやいやいやりあってるのも、両親にとってはもう見慣れた光景らしい。そういえば今日はジャージじゃなくてさわやかモードだし、よく見たらお菓子の袋は横浜方面のお店のものだ。かーちゃんがなんて、つまんない嘘ついてどうした。
「寿くん、就職決まったんだって」
「はい、日の出自動車の工場に」
「バスケ続けるんだろ?」
「はい、実業団で、けっこう本気でやってるとこなので…その、仕事は営業でも広報でも、他にも色々選べたんすけど、頭使うよりこっちの方が向いてる気がして」
「そうか、頑張れよ。来てもらった足で悪いけどこれ、俺と母さんから就職祝いにネクタイ」
「え!ありがとうございます!嬉しいっす」
「えー、聞いてない!てゆーか三井先輩ネクタイ結べるんですか」
「ハン、大学生はスーツ着てんだろ。俺のことなんだと思ってんだ」
「えー!ずるい!見たことない!」
「残念だったな!つーか話こじれるからまじで黙っとけおまえ」
「は?黙れって言われたら10倍しゃべってやりますよ」
「ごめんねえ寿くん、あんたそのへんにしとかないといい加減愛想つかされるよ」
「いや、それは、」
がたっと三井先輩が立ち上がる。いや、でかいから。たぶん家族三人あんぐり同じ顔をしている。
「まだ、色々何も始まってないっすけど、結婚させてくださいって、必ずお願いに来ます」
「け、」
「お…」
「おお……」
ばっ!と勢いよく頭を下げると、じゃあ、と行って玄関に向かってしまった。まったくこの人の世界観にはついていけない。どう考えてもツッコミが足りてないだろ。桜木軍団、呼んだら来ないかな。
「めんどくさ…」
「お前ひどくないか?」
「ちょっとふたりとも、寿くん帰っちゃうわよ」
「あんなこと言うためにお母さんのせいにしてお菓子買ってきたの?横浜のお店じゃん、ばればれですよ」
「おい!」
「寿くん」
「は、はい」
「うちの子こんなんでほんとに口悪いし、寿くんくらいしか一緒にいられないと思うよ」
「とーさん!それはわかんないじゃん!」
「苦情はうけつけるから、また寄りなさい」
「ありがとうございます!ネクタイも使わせてもらいます」
「うんうん」
先輩を見送って、ドアを閉めて。心なしか両親の目がいつもより大きく開かれてる感じがする。
「あんなに大きく道を踏み外しといてさ、よくあんなに自己陶酔できるよね。自己肯定感高すぎじゃない?」
「お前、今のプロポーズじゃないのか?よくそんな毒はけるな」
「別に私だって別れるつもりなんかないし?わたしと別れたら今度こそ三井のお母さんぶっ倒れるよ」
「そういう問題か?」