笠松くんと終わらない日々
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1年生で関東出身の選手は、次の対戦校をみて頭を抱えていたけど、他はあんまり、という感じだった、笠松先輩を除いて。男バス、次の試合で一部残留が確実になると聞いていたけど、キセキの世代の元チームメイトでどうやらなかなかいい選手が入ったらしく、連日練習のあと、DVDを再生しながらやいやいやってるようだった。
「高校の後輩がいて、分析の得意なやつだったんだけど、これ見せてもいいか」
「おー、連れてこいよ」
「それは助かりますね」
私はその会話を聞いてびびっときてしまった。笠松さんが電話をかけて、30分もしないうちに体育館に顔を出したのはやっぱりあの子だった。笠松さんが、おう、悪いな、と駆け寄ったので、みんなざわっとしている。
「えっ、後輩って」
「海常高校でマネージャーやってました、青葉です。笠松さんがいつもお世話になってます」
「こいつは黄瀬の面倒も見てるし…お前、高尾と桜井わかるか」
「えっ、わかりますよ!高尾ちゃんは電話番号も知ってるかも」
「えっ、何者よ」
「今高尾にダブルチームで考えてるんだけど、映像見てくれ」
「えっ!?あの子にそれはどうですかね。じゃあデッキ借りるんで、みなさん練習どうぞ」
「お、おお…」
「えっ、笠松さんの彼女さん?」
「一応そういうことになってるんですけど。呼ばれたってことはまさか隠してないですよね」
「背に腹はかえらんねーだろ」
「ひどっ!」
あたふたする笠松さんを置いて、あの子はテレビの前に座り込んだ。紙を何枚も広げて、なにかを書き込んでいる。こっちなんて少しも振り返らない、笠松さんにそっくりだ。練習が終わってから見ても、やっぱりさっきと同じポーズで、何度も止めては再生し直しながら、鉛筆を走らせている。
「あっ、ごめんなさい、邪魔?」
「ううん、こういうの得意なの?」
「我流だけど、中学までは選手で、ベンチ暖めてることが多かったからね。うちには黄瀬がいたから、ほら、高尾くんは緑間くんとこだし、桜井くんは青峰んとこだし、練習試合とかでご縁もあったから」
「なるほど……」
「おい青葉、あとどんくらいやるんだ、今日終わらせなくてもいいんだぞ」
「えー、あとちょっとだけ。先帰ってていいですよ」
「あほか、終わったら声かけろ」
「はーい」
「前田も遅くなるなよ」
「あ、はい」
ちょっと顔だした笠松さんは、また体育館に戻ったらしく、ボールの音がする。ふと目の前の彼女に目をやると、画面を睨み付けるこわい顔が笠松さんにそっくりだ。どうやらただのゆるふわ系女子とは違うらしい。
次の日またやってきた青葉さんは、男子部員に囲まれている。さすがあの海常のマネージャーだけあって、大男に囲まれても一歩も引かない迫力がある。正直笠松さんの分が悪いですよ、と切り出されて、名指しされた笠松さんのぐえっと苦しそうな声が聞こえて、ちょっと離れて様子をうかがってた私たちもわらわら近付いていく。
「高尾ちゃんは視野が広いんで、何人つけてもすり抜けてくると思います。そこに人を割くのはコスパ悪いんで、笠松さんしっかり食い下がってください」
「高尾ってそんなにやべーやつなの?」
「あの神経質な緑間くん全幅の信頼を置く人ですからね。笠松さんみたいに速さで切り込むってよりは、視野の広さとパスのセンスって感じの選手です」
「なるほど」
「笠松さん、伊月くんみたいなんでやられますよ」
「なんで俺がやられる前提なんだ」
「確率の話ですよ。ダブルチームするなら、第一候補は桜井くんかな、高尾くんとの間に一人ほしいです」
「クイックリリースだよな」
「焦らず序盤しっかりタイミング見てくださいね。背は高くないので止めるチャンスはあります」
「おお」
「それでインサイドですけど」
「はい!」
圧巻、さすが海常のマネージャーと言うべきか、笠松さんが隣に置く女と言うべきか。分が悪いと言われて悔しかったらしい笠松さんは、もくもくと基礎練に取り組んでいる。
またお役に立てることがあれば、と言ったら、青葉さんは、それきりあっさり出ていってしまった。いやみのひとつも言えない。敵役にすらなれない。あの子の方がわたしより、うんとうんと強い。それが不思議と、辛くもないし嫌でもなくて、あの子が出ていったドアをぽかんと見つめるしかできなかった。