笠松くんと終わらない日々
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うちの学科では2年生からゼミに入ってちびちびと研究を始めることになる。そもそも文学部の、日本文学科には男子は少ない上に、居たとしても漢文とかに行ってしまうことが多い。女の子に囲まれて幸せかといわれるとそういうわけでもなく、文学科の口の立つ地味な女子に日々尻に敷かれ蔑ろにされ俺は大好きなハルキの研究に勤しんでいる。3年生になった俺のひとつしたに、いよいよ後輩ができる。口数の少ない子が多い中、ほのかはよく笑ってよくしゃべる。可愛らしくて顔を会わせると挨拶のあとに、雑談を交えてくれる、脈アリだ。今日はほのかちゃんがはじめて発表する日だ。終わったあとはみんなで新歓を兼ねて焼き肉に行くことになっている。なんかそのあとうまいことになったりしないかな、と思っていると、学生室から顔を出したほのかちゃんが話しかけてきた。
「ヤマ先輩、今日焼き肉何時でしたっけ」
「6時半だよ、ゼミが終わってそのまま行けばちょうどいいと思う」
「先生も行かれるんですよね、たのしみ」
「先生酒強いよー、ほのかちゃん未成年だっけ?飲む人?」
「ふふ、違法ですけどまあまあいけます」
「おっと、これは期待できるな」
これはいい感じではないか。そう思い始めた直後、階段をのぼってこっちにむかって、廊下を、それはまあこわい顔のジャージの男がのしのし歩いてきた。脇目もふらずにこっちにのしのしと。えっ俺殺されるのかな、と思ったら、そいつは思い切りほのかちゃんに、背後からげんこつをくらわせた。
「いった!!!笠松さん!?なんで!?」
「おい」
「へ?」
「てめーが昨日遅くまでおきてほとんど寝てねえのはなんでだ」
「え?ゼミの資料を作るためですよ」
「じゃあ聞くがな、その資料は今どこだ」
「え?いつものファイルに入れてそしてかばんに、あれ?ない?」
「じゃあ俺が持ってるこれはなんだ」
「えっ!?え!?私もしかして忘れていった!?」
「玄関のどまんなかに置いてあったぞ」
「ヒェー、笠松大明神!ありがとうございます!」
「ハン、アイス一個で許してやる!でっかいバニラ」
「あっ、そうだヤマさん、笠松さんです」
「ヒッ!山下です!同じゼミの!」
「あっ、笠松です。青葉がお世話になります」
「いえ、こちらこそ」
「やー命拾いしましたよ!あっ今日焼き肉って言いましたっけ」
「おー、迎え行くけど飲みすぎんなよ」
「いいですよ、帰れるってば」
「うるせー、店と時間メールしとけ」
「はいはい」
「ヤマさんですよね、色々迷惑かけると思いますけどよろしくお願いします」
「あ、はい、いえ、」
嵐のように去っていった笠松さんを、ほのかちゃんはにこにこ見守っている。俺は大きな勘違いを、これは間違いなく同棲しているカップルの会話だ。痛い目見る前に知れてよかった。
「いつから付き合ってるの」
「笠松さんの、卒業式の日です」
「なんだよそれ、あとで詳しく聞かせて」
「ふふ、じゃあしっかり酔っぱらわせてくださいね」
不敵ににやりとわらったほのかちゃん、アイスで許すと言ったあいつの顔とちょっと似ている。それはそれはマニアックな考察で教授に気に入られたほのかちゃんは、白米を何度もおかわりしながらたくさん肉を食べている。4年の先輩たちはその食べっぷりを見ただけでお腹いっぱいになっているようだった。
「卒業式から付き合うってどーゆーことなの」
「えっ、覚えてたんですかその話。わたしマネージャーで、笠松さんは一個上だったんですけど、部活やってる間はそれどころじゃなかったんです」
「部内恋愛禁止とか?」
「禁止はされてなかったですけど、ほんとに忙しかったんですよ。でも先輩たち卒業しちゃったら、会えなくなっちゃうじゃないですか。それでなんか込み上げちゃって」
「いいなー、俺もそんなに好かれてみたいわ」
「そうですか?」
未成年のくせにビールをぐびぐび飲んで平気な顔しているほのかちゃんは、赤くなった頬を両手で支えて、ホルモンが焼けるのをじっと見ている。
「まあでも、うん、めっちゃ好きです」
「えっ!なにそれ、もっと聞きたい」
「ヤマ先輩、彼女いないんですか?ほらヤマさんの焼鳥やさん、かわいいバイトの女の子いっぱいいるじゃないですか」
「いやあ、バイトの時は忙しスイッチ入っちゃうから」
「あーわかります!わたしもまじで休憩できないくらい働いてました」
「えー、じゃあ俺もまだわかんないかなー」
「いいことあったら教えてくださいね」
「ん、わかった」
はー、ほんと、背中押されてなにしてんだ俺。終わった頃に店の外に現れた笠松くんは、俺のことを覚えてくれたらしく軽く手を上げてくれた。先生や上級生たちはタクシーのいる方へ歩きだしている。
「飲みすぎてねーか」
「どーでしょーかね。ヤマさんと内緒の話しちゃったんだ、ね」
「いや別に、内緒と言うほどでは」
「でも約束忘れませんから、楽しみにしてます」
「おお、」
「お前まためんどくせー絡み方したんだろ」
「そんなことないもーん」
「すんません、お世話になりました。おつかれっす」
「おっす、おつかれ…」
どうみても体育会系の笠松くんに、ほのかちゃんがよろっとぶつかるみたいに抱きついた。見透かしていたのか少しもよろけず受け止めた笠松くん、うん、かっこいい。