笠松くんと終わらない日々
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夕方の、7時にはしまる喫茶店。カウンターの、一枚板のテーブルの木の匂いと、コーヒーの匂いと、薄暗い暖色の照明が、すごく気に入ってる。もういいよ、と言われて、エスプレッソマシンをばらして洗う。
「ほのかちゃん、晩御飯ねえ、カレー残ってるんだけど、ドリアとピラフどっちにしようか」
「え、ドリアがいい!」
からん、と音がして、店長が声をかける。
「まだいいっすか」
声をきいて、思わず顔をあげる。目があって、
「かさまつさん」
「おう」
「え?」
「あっ、店長、笠松さんです、あの、バスケ部のキャプテンで、」
「ほのかちゃんの彼氏」
「うっす」
「えっ!男前じゃないの!ほらカウンター座って!晩御飯、ほのかちゃんと一緒でいい?」
「えっ」
「えー、いいんですかかさまつさんの分まで」
「やー、見とれちゃうわ。ほらほら、あっ、これ暖め直しなんだけどいい?クリーム浮かべちゃう」
「うわ、なんですかこれ」
「ウインナーコーヒーですよ」
「ウインナー?」
「あ、大学生の男の子だし苦いままがよかったかな」
「いえ、笠松さん、甘いの好きです」
「うっす」
がちゃがちゃ皿洗いをしながら、夕方のまばらなお客さんのお冷やに目を配る。斜め前に座った笠松さんは、ラックからとってきた週刊誌を眺めている。
「なんかいい匂いすんな」
「そうでしょ」
「いつも晩飯食ってるの」
「ラストのときはね。なんで急に来たんですか」
「や、この辺だったなと思って」
「そっか」
いつもの席に陣取る常連さんにお冷やを注いで、ついでに空になったお皿をさげる。外はもう暗い。ほこほことした湿気が鼻の奥に広がる。
「ほい、晩御飯食べな」
「わ、いただきます!」
エプロンをはずして笠松さんの隣に腰掛ける。深めのお皿にごはんとカレースープ、ぽっかり卵とチーズ。あつあつのそれを、大きな口でぱくっとして、笠松さんは慌てて水を流し込んだ。閉店時間が来て、常連さんは席を立つ。
「ほのかちゃん、ごちそうさま」
「はいよ、こんな格好ですみません」
「いや、彼氏かっこいいね」
「ふふ、そうでしょ」
いつものように100円玉を4枚ちょうど受け取って、入り口の札をcloseに返すと、残りのドリアを掻き込む。
「じゃあ、終わらせちゃうんで待っててくださいね、一緒に帰ろう」
「いいのかよ、閉店だろ」
「いい子に待ってて」
毎日かならず。
綺麗に洗って乾かしてある、サイフォン、エスプレッソマシン、そしていっぱいに補充したコーヒーシュガー。ゴミ箱からさえ、コーヒーの殻の薫りがのぼる。大好きな場所に、笠松さんがやってきたのが、なんだか不思議な気持ちがする。
キッチンを通って裏口から2人で出されると、外の空気はすっかり、乾燥して冷たい。
「さんぽしましょ、さんぽ」
「は、なんでだよ」
「だって、晩御飯すんだし。大きい本屋さん行きたいです。あ、それとも焼き鳥とか」
「いいな。両方いこーぜ」
「やったあ!」
笠松さんは乱暴にわたしの手首をひっつかんで、大通りの方へ歩き始めた。
「次はわたしが笠松さんとこ行きます」
「お前スポーツ用品用事ないだろ」
「えー、あるかもよ。スポ小の方は?」
「ぜってー来るな」
「えー、なんで!臨時コーチとして役に立ちますよ」
「確かに役には立つと思うけど。そーゆーのうるさい年頃なんだよ」
「はは、笠松さんかわすのへたそう」
「うっせー」
べちんと叩こうとして来たてのひらを、身を翻してつかまえる。わたしだって伊達に、笠松さんの隣にいないんだ。なんだか楽しい気分になって、本屋の方に走り出す。後ろから笠松さんの声がするけど、もう振り返らなくても平気だ。
「ほのかちゃん、晩御飯ねえ、カレー残ってるんだけど、ドリアとピラフどっちにしようか」
「え、ドリアがいい!」
からん、と音がして、店長が声をかける。
「まだいいっすか」
声をきいて、思わず顔をあげる。目があって、
「かさまつさん」
「おう」
「え?」
「あっ、店長、笠松さんです、あの、バスケ部のキャプテンで、」
「ほのかちゃんの彼氏」
「うっす」
「えっ!男前じゃないの!ほらカウンター座って!晩御飯、ほのかちゃんと一緒でいい?」
「えっ」
「えー、いいんですかかさまつさんの分まで」
「やー、見とれちゃうわ。ほらほら、あっ、これ暖め直しなんだけどいい?クリーム浮かべちゃう」
「うわ、なんですかこれ」
「ウインナーコーヒーですよ」
「ウインナー?」
「あ、大学生の男の子だし苦いままがよかったかな」
「いえ、笠松さん、甘いの好きです」
「うっす」
がちゃがちゃ皿洗いをしながら、夕方のまばらなお客さんのお冷やに目を配る。斜め前に座った笠松さんは、ラックからとってきた週刊誌を眺めている。
「なんかいい匂いすんな」
「そうでしょ」
「いつも晩飯食ってるの」
「ラストのときはね。なんで急に来たんですか」
「や、この辺だったなと思って」
「そっか」
いつもの席に陣取る常連さんにお冷やを注いで、ついでに空になったお皿をさげる。外はもう暗い。ほこほことした湿気が鼻の奥に広がる。
「ほい、晩御飯食べな」
「わ、いただきます!」
エプロンをはずして笠松さんの隣に腰掛ける。深めのお皿にごはんとカレースープ、ぽっかり卵とチーズ。あつあつのそれを、大きな口でぱくっとして、笠松さんは慌てて水を流し込んだ。閉店時間が来て、常連さんは席を立つ。
「ほのかちゃん、ごちそうさま」
「はいよ、こんな格好ですみません」
「いや、彼氏かっこいいね」
「ふふ、そうでしょ」
いつものように100円玉を4枚ちょうど受け取って、入り口の札をcloseに返すと、残りのドリアを掻き込む。
「じゃあ、終わらせちゃうんで待っててくださいね、一緒に帰ろう」
「いいのかよ、閉店だろ」
「いい子に待ってて」
毎日かならず。
綺麗に洗って乾かしてある、サイフォン、エスプレッソマシン、そしていっぱいに補充したコーヒーシュガー。ゴミ箱からさえ、コーヒーの殻の薫りがのぼる。大好きな場所に、笠松さんがやってきたのが、なんだか不思議な気持ちがする。
キッチンを通って裏口から2人で出されると、外の空気はすっかり、乾燥して冷たい。
「さんぽしましょ、さんぽ」
「は、なんでだよ」
「だって、晩御飯すんだし。大きい本屋さん行きたいです。あ、それとも焼き鳥とか」
「いいな。両方いこーぜ」
「やったあ!」
笠松さんは乱暴にわたしの手首をひっつかんで、大通りの方へ歩き始めた。
「次はわたしが笠松さんとこ行きます」
「お前スポーツ用品用事ないだろ」
「えー、あるかもよ。スポ小の方は?」
「ぜってー来るな」
「えー、なんで!臨時コーチとして役に立ちますよ」
「確かに役には立つと思うけど。そーゆーのうるさい年頃なんだよ」
「はは、笠松さんかわすのへたそう」
「うっせー」
べちんと叩こうとして来たてのひらを、身を翻してつかまえる。わたしだって伊達に、笠松さんの隣にいないんだ。なんだか楽しい気分になって、本屋の方に走り出す。後ろから笠松さんの声がするけど、もう振り返らなくても平気だ。