笠松くんと終わらない日々
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「マネージャー」
「小堀さん?おつかれさまでーす」
「うん、おつかれさま。今回もすごかったな、あの分析」
「ありがとうございます!わたし中学ではプレーヤーだったんですけど、6人目だったもんでなかなか出番がなくて。それでスコアつけがてら色々記録してたらこんな風になっちゃったんです」
「へえ、それはすごいよ。先輩たちも言ってた」
「お役にたてるといいんですが。」
「笠松もな、悪そうな顔で見てた」
「それは…ふふ」
「やっぱり、お前たち似てるな」
暑くなってきて、マネージャーは長い髪の毛を後ろでひとつに束ねるようになった。重たそうなくせっ毛が動きに合わせてぴょんぴょん揺れる。
インターハイの会場に入ってからも、青葉は忙しなく動き回っている。中学時代に全国大会を経験しているだけあって、痒いところに手が届くありがたい働きぶり。笠松も気合いが入ってる。関東での開催で、全国制覇も狙えるという前評判だけあって、去年よりOBもたくさん応援に来ている。
「おう笠松、今日もいいパス頼むぜ」
「うっす!」
「県大会もキレキレだったからな!先輩らも来てるし今回こそやってやろうぜ」
「うっす!頑張りましょう!」
気合いも十分という感じで先輩達に背中を叩かれてアリーナの方へ向かう笠松の背中を見送り、階段の方へ踵を返す。すれ違ったマネージャーを呼び止めると、びっくりした顔で振り返る。
「小堀さん?」
「あ、えっと、」
「はい?」
「か、笠松のこと頼む」
「え?大丈夫ですよ、笠松さんは」
「はは、頼りになるな」
俺たちは笑顔で別れた。まさかあんなことになるとは、俺はもちろんたぶん、青葉も少しも思ってなかっただろう。
***
「まじでねーわ」
「何が全国制覇だよ、初戦敗退とかなさけねーわ」
「ほんとすみませんでした」
「まさかあんなとこでパスミスすっか?おめーらも災難だよな、2年生でポイントガードっつーから期待させといて」
「俺らもびっくりしちゃいましたよ」
土壇場でのパスミスで、初戦で逆転負け。OBは笠松を責め、先輩たちも手のひら返してそれに便乗。笠松は静かに輪を離れ、森山がついていくのが見えた。パスミスなんてそのワンプレーの話で、そのせいで負けたなんてことはない、だけど、ベンチにも入れない俺に笠松を守る力はない。1、2年生は笠松を慕ってるんだから、みんな悔しくて黙り込むしかない。
「おいおい、マネージャー今頃泣くなよ」
「マネージャーはよくやってくれたのにな」
「ほんとだよ、アイツのせいで台無しだよな」
「しんじ、られません」
「は?」
「強くてかっこいい先輩達がだいすきでした。チームの敗けを誰か一人のせいにするような人たちだと思わなかった。がっかりしました」
顔をあげると青葉が、拳を握りしめて先輩達を睨みあげていた。大粒の涙を拭うつもりもないらしい。空気が凍りつくのがわかる。目線を泳がせる。なさけない。
あっ!と大きな声がする。早川がでかい声でなんか言ったあと、青葉の腕をつかんで走っていった。助かった、と心のなかでつぶやく。先輩たちはきまずそうに目線をそらし、散り散りになった。
我に返って青葉と笠松を探しに走る。笠松は森山と、外の日陰で風に当たっているようだった。青葉は芝生にうずくまって号泣している。早川が背中をさすっている。
「あ!こぼいさん!」
「お、おう」
「小堀さん、あの、」
「ごめんな、助けてやれなくて。あと、ありがとな。俺たちの気持ち、青葉にだけ言わせてしまった」
「いいえ、すみません、その…角のたつようなことをしてしまって」
「いいんだよ。早川も、かっこよかったぞ」
「うっす!あいがとございます!」
俺は、何もできない。何もできなかった。
数日後、てっきり冬までのこると思っていた先輩達が 引退すること、笠松がキャプテンに就くことが発表された。泣き腫らした形跡を隠す素振りもなく、だけど眉間のシワをいっそう深くして、立っていた。短い挨拶のあと練習がいつもどおり始まる。青葉はなんだか、意図的に誰ともあまり話さないようにしているようだった。