笠松くんと終わらない日々
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県予選はこっちも試合で見に行けないって連絡したら、インターハイ本選見に来て下さいと、早川、中村、青葉それぞれが、似たような返事を寄越してきた。気合いの入った顔が目に浮かぶ。関東1部のチーム、レギュラーを獲るのに俺の方がむしろ必
死だ。一試合勝つごとに連絡を寄越す後輩たちの活躍を力に、こっちも気持ちを入れ直す。
「せんぱいたちきてう!」
「ほんとだ!かさまつさーん!!」
強豪校のキャプテンにしては盛大にしっぽを振っている早川、同じくエースの黄瀬。2人の背中を青葉がべちんと叩くのが見えた。中村がため息をつきながら後輩たちと話している。監督はベンチに腰かけて、様子を見ているようだ。
2年生になった高橋と斎藤は全国デビューだ。青葉が去年の秋から鍛えてきた学年だ。上から見ていても落ち着いているのがよくわかる。早川がでかい声でなにか言ってるけど全然わからない。キャプテンがあれじゃあまわりは冷静にならざるをえない。俺と早川は全然違うけど、今年は今年でよくまとまったいいチームだ。
「青葉、迫力増してるなあ」
「3年なんだ、あたりめーだ」
「笠松はもうちょっとほめてやれば」
第三クオーターがおわる。何か余計なことを言ったらしい黄瀬がぶったたかれるのが見えた。初戦ながらがんがん攻め込んで、なかなかいい点差をつけている。途中引っ込められた黄瀬も、悪くない表情だし、青葉もこれなら大丈夫って感じで脚を触って確かめている。俺たちにとって、俺たちがそこにいない不思議さを拭いきれないまま、勝ってさっさと撤収する後輩たちを見送った。
「おっす!差し入れ」
「先輩達、お久しぶりです」
「いい試合だったな、期待できる」
「元気そうですね」
「あっ、マネージャー、これみんなで分け…」
「こぼりさーん!」
なにを考えてるのか、青葉は、小堀に抱きついて癒される~マイナスイオン~と深呼吸をしている。早川と黄瀬が便乗して、次は森山に。森山センパイなんかいい匂いでいやだ、わざとらしい、などと散々なことを言われる森山を横目に、どうやって3人投げ飛ばすか算段していたのに、俺のとこには1番小さいやつだけ。顔をあげて目があった、黄瀬のにんまり顔にいらだちながら、背中にくっついたふわふわを引き剥がす。
「おい、」
「笠松さん、ほめて」
こいつにとって、楽しいことばかりじゃないことを、俺は知ってる。どれだけ身を粉にして働いてるかも、しってる。
握りかけた拳をほどいて、両手で頭をぐしゃぐしゃに撫でた。柔らかいくせっけが、指の間に絡んで、目を閉じて大人しくされるがままになっている、柔らかい頬までぐりぐりとまぜくった。
「俺たち向こう向いてるから、チューしてもいいよ」
「するわけねーだろ」
「残念ながらね」
あ、先輩達、これありがとうございます、分けます!とビニール袋いっぱいのパックジュースを、1年生の方から配り始めた。
「卒業生の、こぼりさんと、もりやまさんと、かさまつさん」
「チワース!」
「いただきまーす!」
「笠松さんって、ほのか先輩と付き合ってるっていう、」
「そうそう、怒った顔そっくりでしょ」
「なんかほのか先輩って、めっちゃ怖いと思ってましたけど、先輩達がいるとあんな感じなんですね」
「そう、早川と双子の犬」
「しんくん!聞き捨てならない!ジュースもらっちゃうよ」
「だめ」
ほのか先輩の彼氏、と言われると、目線のやり場に困ってしまう。試合の日だけあって揃いのTシャツを着ているが、膝より長いズボンはかあちゃんとお茶するついでに俺のタンスからくすねていったやつだ。小堀と森山には両側から肘で小突かれた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ごはん盛ります、と手伝いに来てくれたのは、わたしと黄瀬が付き合っていると勘違いしていた広田だった。休んでな、と声をかけた返事の代わりに、笠松さんってどんな感じの人なんですか、と訊かれる。わたしはからあげとサラダを盛りながら、笠松さんの眉間のシワを思い出した。
「笠松さんはバスケがめっちゃ好きで、あとは女子が苦手。わたしも入ったときは苦労した」
「俺、じつは、最近カノジョができたんです。手とか握りたいし、その…」
「チューとかしたいんだ」
「うっす…早いですかね…」
「それは、わたしの話は参考にならないと思うけど。一度懐に入っちゃえば、付き合う前も全然ずっとくっついてたし。手くらい好きに握れば?って感じよ」
「ぐっ、レベル高い」
「あんたはさ、思春期の好奇心でイチャイチャしたいの?それともその子が好きだから?」
「それは、わかんないっす、両方かな」
「はは、正直でよろしい」
「ほのか先輩はどうなんですか?」
「わたしは笠松さんの人生に、わたしの居場所キープできたら今は十分。歳がいっこ違うだけでこんなに会えないの学生の間だけだし?まあ笠松さんがチューしたくなるのは今日か明日か10年後かはわかんないけどね」
「えー、達観しすぎじゃないですか」
「そう?まあ性欲とか個人差だし?」
「せ!?せ、性欲なんですかね…なんかこう、手がちっちゃいなとか、首が細いなあとか、気になっちゃうと触りたくなっちゃうんで、隠してますけど」
「そうなの?まあわたしの意見は参考にならないと思うけど」
「思うけど?」
「別に何されてもいいけどなあ」
「…めっちゃ好きなんじゃないですか」
「そうなの、絶対離したくないくらいね」
「うわー!なんもできないけど一生応援します」
「なんだよ急に」
「あー!広田がほのかさんと仲良くしてる!ずるいっす!」
「うわ、うるさいのが来た」
「なんの話っすか」
「笠松さんのこと」
「えー!俺も聞きたかったっす、進展!」
「進展ないない。今日だって、3月ぶりかな?帰ってこないし。おかーさんといつもお茶してるから外堀は埋まってきてるけど」
「それは進展っす!結婚式のヘアメイクは俺がやるっす」
「なんでそうなんのよ!」
結局黄瀬にも手伝わせて、長机に食事を並べていく。空になった炊飯器を食堂に引き上げて新しく1升炊き始め、もう1台で炊いてもらってたぶんをおかわり用に持っていく。顔をのぞかせた広田が、炊飯器を抱えるわたしを見て慌ててかわってくれた。笠松さんや先輩達がいなくたって、わたしはわたしなりにこのチームが大好きなんだ。後輩だって、そりゃあ黄瀬だってとびきりにかわいい。
自分の食事は適当に済ませておいて、炊飯器の横に陣取っておかわりの世話をしながら、なるべく長くこういう夜を過ごしたいと願った。
死だ。一試合勝つごとに連絡を寄越す後輩たちの活躍を力に、こっちも気持ちを入れ直す。
「せんぱいたちきてう!」
「ほんとだ!かさまつさーん!!」
強豪校のキャプテンにしては盛大にしっぽを振っている早川、同じくエースの黄瀬。2人の背中を青葉がべちんと叩くのが見えた。中村がため息をつきながら後輩たちと話している。監督はベンチに腰かけて、様子を見ているようだ。
2年生になった高橋と斎藤は全国デビューだ。青葉が去年の秋から鍛えてきた学年だ。上から見ていても落ち着いているのがよくわかる。早川がでかい声でなにか言ってるけど全然わからない。キャプテンがあれじゃあまわりは冷静にならざるをえない。俺と早川は全然違うけど、今年は今年でよくまとまったいいチームだ。
「青葉、迫力増してるなあ」
「3年なんだ、あたりめーだ」
「笠松はもうちょっとほめてやれば」
第三クオーターがおわる。何か余計なことを言ったらしい黄瀬がぶったたかれるのが見えた。初戦ながらがんがん攻め込んで、なかなかいい点差をつけている。途中引っ込められた黄瀬も、悪くない表情だし、青葉もこれなら大丈夫って感じで脚を触って確かめている。俺たちにとって、俺たちがそこにいない不思議さを拭いきれないまま、勝ってさっさと撤収する後輩たちを見送った。
「おっす!差し入れ」
「先輩達、お久しぶりです」
「いい試合だったな、期待できる」
「元気そうですね」
「あっ、マネージャー、これみんなで分け…」
「こぼりさーん!」
なにを考えてるのか、青葉は、小堀に抱きついて癒される~マイナスイオン~と深呼吸をしている。早川と黄瀬が便乗して、次は森山に。森山センパイなんかいい匂いでいやだ、わざとらしい、などと散々なことを言われる森山を横目に、どうやって3人投げ飛ばすか算段していたのに、俺のとこには1番小さいやつだけ。顔をあげて目があった、黄瀬のにんまり顔にいらだちながら、背中にくっついたふわふわを引き剥がす。
「おい、」
「笠松さん、ほめて」
こいつにとって、楽しいことばかりじゃないことを、俺は知ってる。どれだけ身を粉にして働いてるかも、しってる。
握りかけた拳をほどいて、両手で頭をぐしゃぐしゃに撫でた。柔らかいくせっけが、指の間に絡んで、目を閉じて大人しくされるがままになっている、柔らかい頬までぐりぐりとまぜくった。
「俺たち向こう向いてるから、チューしてもいいよ」
「するわけねーだろ」
「残念ながらね」
あ、先輩達、これありがとうございます、分けます!とビニール袋いっぱいのパックジュースを、1年生の方から配り始めた。
「卒業生の、こぼりさんと、もりやまさんと、かさまつさん」
「チワース!」
「いただきまーす!」
「笠松さんって、ほのか先輩と付き合ってるっていう、」
「そうそう、怒った顔そっくりでしょ」
「なんかほのか先輩って、めっちゃ怖いと思ってましたけど、先輩達がいるとあんな感じなんですね」
「そう、早川と双子の犬」
「しんくん!聞き捨てならない!ジュースもらっちゃうよ」
「だめ」
ほのか先輩の彼氏、と言われると、目線のやり場に困ってしまう。試合の日だけあって揃いのTシャツを着ているが、膝より長いズボンはかあちゃんとお茶するついでに俺のタンスからくすねていったやつだ。小堀と森山には両側から肘で小突かれた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ごはん盛ります、と手伝いに来てくれたのは、わたしと黄瀬が付き合っていると勘違いしていた広田だった。休んでな、と声をかけた返事の代わりに、笠松さんってどんな感じの人なんですか、と訊かれる。わたしはからあげとサラダを盛りながら、笠松さんの眉間のシワを思い出した。
「笠松さんはバスケがめっちゃ好きで、あとは女子が苦手。わたしも入ったときは苦労した」
「俺、じつは、最近カノジョができたんです。手とか握りたいし、その…」
「チューとかしたいんだ」
「うっす…早いですかね…」
「それは、わたしの話は参考にならないと思うけど。一度懐に入っちゃえば、付き合う前も全然ずっとくっついてたし。手くらい好きに握れば?って感じよ」
「ぐっ、レベル高い」
「あんたはさ、思春期の好奇心でイチャイチャしたいの?それともその子が好きだから?」
「それは、わかんないっす、両方かな」
「はは、正直でよろしい」
「ほのか先輩はどうなんですか?」
「わたしは笠松さんの人生に、わたしの居場所キープできたら今は十分。歳がいっこ違うだけでこんなに会えないの学生の間だけだし?まあ笠松さんがチューしたくなるのは今日か明日か10年後かはわかんないけどね」
「えー、達観しすぎじゃないですか」
「そう?まあ性欲とか個人差だし?」
「せ!?せ、性欲なんですかね…なんかこう、手がちっちゃいなとか、首が細いなあとか、気になっちゃうと触りたくなっちゃうんで、隠してますけど」
「そうなの?まあわたしの意見は参考にならないと思うけど」
「思うけど?」
「別に何されてもいいけどなあ」
「…めっちゃ好きなんじゃないですか」
「そうなの、絶対離したくないくらいね」
「うわー!なんもできないけど一生応援します」
「なんだよ急に」
「あー!広田がほのかさんと仲良くしてる!ずるいっす!」
「うわ、うるさいのが来た」
「なんの話っすか」
「笠松さんのこと」
「えー!俺も聞きたかったっす、進展!」
「進展ないない。今日だって、3月ぶりかな?帰ってこないし。おかーさんといつもお茶してるから外堀は埋まってきてるけど」
「それは進展っす!結婚式のヘアメイクは俺がやるっす」
「なんでそうなんのよ!」
結局黄瀬にも手伝わせて、長机に食事を並べていく。空になった炊飯器を食堂に引き上げて新しく1升炊き始め、もう1台で炊いてもらってたぶんをおかわり用に持っていく。顔をのぞかせた広田が、炊飯器を抱えるわたしを見て慌ててかわってくれた。笠松さんや先輩達がいなくたって、わたしはわたしなりにこのチームが大好きなんだ。後輩だって、そりゃあ黄瀬だってとびきりにかわいい。
自分の食事は適当に済ませておいて、炊飯器の横に陣取っておかわりの世話をしながら、なるべく長くこういう夜を過ごしたいと願った。