笠松くんと終わらない日々
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「ほのかさあん」
「ん?」
「質問してもいいですか?」
土曜のお昼、練習のあとにラーメンを食べに行く約束で、備品のカタログを見ながら注文票に書き込むほのかさんの顔を覗き込む。なに、と顔を上げたその眉間のシワ、笠松さんにそっくりっす。
俺は入部したときから、なんとなくそうだと思ってたんだけど、一年弱たって今、確信にかわりつつある。
「笠松センパイに、告白しなくていいんすか?」
「…は、」
「もうすぐ卒業しちゃうっすよ。つかまえなくていいんすか」
「あんた、何言ってんの」
「お互い特別なの、俺が見てたってわかるっす」
「まあ確かに、笠松さんは女子と喋れないから、私が特別に見えるのかもね。でもそれって、マネージャーとキャプテンだからそうだったんだよ」
「でもセンパイ達はもう引退したっすよ。ふたりはずっと一緒にいるんだと思ってたっす」
笠松センパイは、それはもうかなりほのかさんに気を許している。喋る、触れる、目を合わせる、肩を抱く。前にハンドクリームを渡していたってことは、一緒にいないときでも思い出してるってことだし、なによりほのかさんを見ているときの、笠松センパイの表情はすごくやさしい。
ほのかさんはほのかさんで、世話しなく動き回ってる部活中にときどき、ほんの一瞬うっとりしている、その視線の先には必ず笠松センパイがいることを俺は知っている。早川センパイや中村センパイといつもくっついてるけど、全然表情がちがう。もう、ばかでもわかる。
「きせぇ、」
「えっ?」
「あ!!」
ほのかさんの目から、最初の涙がこぼれたのを、早川センパイのでかい声が遮った。どうみても使いかけのタオルで、ほのかさんの顔を押さえている。さっきまで漫画を読んでいたはずだった。一気に蚊帳の外にはじきだされてしまったみたいな感じだ。
「だいじょぶ?」
「ありがと、早川」
「きせ、いじめぅなよ」
「そんなあ、」
「そんなこと、言われたって、私にとっても笠松さんにとっても、バスケとバスケ部がいちばんなの、わたしたちにとっては、キャプテンとマネージャーであることがすべてなの」
うー、とまた、泣き出したほのかさんを、中村センパイも心配して、背中をさすり始めた。
「笠松さん、もうわたしなんかいなくても、次のとこで頑張るんだよ、きっと」
「おぇはよくわからんけど、お前がしたいようにするの、絶対味方」
「ん、ありがと」
大きな掌が、ためらいなくほのかさんのそれを包み込む。口下手な早川センパイを、ほのかさんや中村センパイが助けているんだと思っていた。こんなに強くシンプルに、守ってしまうんだ。早川センパイは口がたつほうでも頭がまわるほうでもないことを、本人もまわりもよくわかってる。その分、嘘がない。絶対味方と言われたら、どうやったって元気が出そうだ。
「でもきせ、あたりだよ、笠松さんがいなくなっちゃうの、さみしいし、つらいし、こわい」
「そのまま伝えたらいいじゃないっすか」
「でも、笠松さんのこと困らせるのはもっとこわいよ。私のこと女だと思ってないから、今まで近くにおいててくれたんだから」
そういわれたら困る。笠松センパイのしかめつらを思い出す。早川センパイも太い眉毛を下げて次の言葉を見つけられずにいる。中村センパイがでもさ、と静かに切り出した。
「どうするかはお前が決めたらいいと思うけど、ちゃんと話聞いてもらえるくらいの関係は作ってきたんじゃないの」
ほのかさんは、大きく頷いた。ティッシュを4枚くらいとって、元気いっぱい鼻をかんだ。卒業式まであと1週間、ほのかさんはボールペンを持ち直した。