笠松くんと終わらない日々
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「しつじ…?」
「執事ってあの執事か…?」
「しつじってなんですか…?」
執事喫茶。
森山が丁寧にホワイトボードに書いた。そういうことじゃないと思うぞ。文化祭の出し物しよう、と言い出した黄瀬と森山に、勝手にしろって言った笠松に、ほんとにいいのかって言うべきだった。
「大体執事はおいといて喫茶なんかできるのかよ」
「1リットルパックのジュースとかアイスコーヒーで100均のプラコップとストロー使えばどうやっても利益出るっす」
「あとは黄瀬とツーショット1枚100円」
「それは…儲かるな……」
「ちょっと待てよ、それ執事の必要性あるか?」
「いつもお世話になってるスタッフさんが貸衣装もってて、タダで貸してくれることになってるっす!ほのかさんの分も貸してくれるって」
「わたしが執事してなんになるのさ」
「ちがうっす!メイド服っす!絶対かわいいっす!」
「……それこそどこに需要あんのよ…」
「一生のお願いっす!!俺がほのかさんのこと全力でかわいくするっす」
「あんた、そんなつまんないことに一生のお願い使っていいわけ?」
「ほのかさん、色も白いし肌もきれいだしポテンシャルは高いんす!俺のモデル魂が燃えてるんで、お願いしますっす」
「いいけど別に…私はともかく黄瀬でぼろ儲けだわ」
全然噛み合ってない会話に苦笑いしてるのは俺だけだろうか。黄瀬がみんなに服のサイズを聞き始めた。そうは言っても大男ばっかりなんだからLとかXLとかそんなんばっかだろ。いつも太ってるのか痩せてるのかわからないような服ばかり着ているマネージャーの前で黄瀬が頭を抱えている。そりゃそうだろ。
「号数わかんないなら、SとかMとかでもいいんで!」
「えー、M」
「そのジャージ、メンズサイズっす」
「なんのサイズがわかればいいの?巻き尺あるからあんたが測ってよ」
「俺がっすか!?」
「ほら、裁縫用のだけどたりる?」
「たりるとは…思うっすけど…」
「なに測るの?身長?体重?」
「す、スリーサイズっす…」
「身長、体重、座高」
「バスト、ウエスト、ヒップっす!座高測ってどーするんすか!俺うしろ押さえるんで、後で紙にでも書いといてくださいっす」
いやいやいや。みんな聞いてるし見てるからな。せめてあっちでやってくれって死角に追いやっても同じ部屋のなかで声は十分聞こえてくる。小声とかできないかな、おまえたち。
「えっ!?ほのかさんブラジャーしてないじゃないっすか!なんで!」
「ブラトップはブラジャーです!」
「いやいやいや!うちの姉ちゃんたちなんかの筋だか筋肉だかが伸びるってブラジャーに命かけてるっすよ!もうちょっと支えて!てゆーかサイズ測れないっす!とりあえず持ち上げて!」
「えーめんど……こんなもん?」
「もーちょっと寄せるっす!これじゃ逃げてるっす!そうそう、じゃあサイズは紙に、」
「えーと、83?ウエストは?」
「一番細いとこっす!ここのライン、そうそう!」
「57で、えーと尻が80」
「尻って言わない!」
「げー、モデルこわ」
「よし、これでぴったりのやつ借りてくるっす!当日はヘアメイクも俺がやるっすからね!こういう下着しかないなら姉ちゃんの合いそうなの借りてくるっす」
「まじ?ワイヤー入ったやつ試着で5分くらいつけただけなんだけど、これまでの人生」
「えーっ!?こんなにスタイルいいのにもったいないっす!宝の持ち腐れっす!」
「別に腐っていいってば」
やいやいやりあいながら、勢いそのまま出てきた黄瀬が聞いてくださいよお、と言った口をとりあえず押さえる。よくわかんないけど森山はなんか計算して赤くなったり青くなったりしている。ぶ、ブラジャーとか、寄せて、とか、姉ちゃんがいてしかも、モデルの黄瀬には屁でもないんだろうか、俺たちにはちょっとレベルが高いぞ。本人たちは下心ないゆえの殴りあいなんだろうけど、聞こえる方は刺激が強すぎる。笠松と早川はなんの話だかよくわかってないみたいで本当によかった。
ーーーーーーー
「あんた大荷物ねえ、昨日もみんなで搬入してなかった?」
「これはほのかさんの分っす!メイクの道具とブラジャーも持ってきたっす!そんなグラマーサイズならいいやつ使いなさいって姉ちゃんが買ってきたんであげるっす」
「えー……?たぶん使わないと思うけど……」
「いやいや、いつ勝負下着が必要になるかわかんないじゃないっすか」
「黄瀬、ちょっと言ってることがわからん」
「またまたぁ!ほら、髪の毛できたんで着替えてきてくださいっす!できたらメイクするっす!」
当日、早めに部室に来たのが失敗だった。黄瀬とマネージャーがちょうどやいやいやっているところだ。森山と一緒に頭を抱える。
「黄瀬ぇ、ヘルプー」
「はーい!えっ!おっぱいしまって!」
「その仕舞いかたが全然わかんない、かぱかぱする」
「ちょっと!ホックと肩紐ちゃんとあわせて!」
「えっ!?きつくない!?」
「これでぴったりっす!ほらもう!そっち腕通すっす!」
いつもはマネージャーが母ちゃんみたいなのになあ。珍しく雑なマネージャーと厳しい黄瀬の声を聞きながら、模擬店のシフトを確認する。いよいよ着替え終わったマネージャーがげんなりして出てくる。かわいいじゃないか、というとほっとしたような顔をしていたが、黄瀬が本気でサイズをあわせてきたようで、ふっくらした胸や、細い腰のラインがよくわかってしまって目の毒だ。いつも部誌を書いてる机に鏡をおいて、上機嫌な黄瀬がマネージャーの顔にクリームを塗りたくっている。こんなのたぶん二度と見ることないだろう。マネージャーの長い髪は、複雑な網目で小さくまとめられている。ゴムで適当にくくってゆらゆらさせてるのも、俺は好きだけど。
「マスカラつけたんで、今日は目ぇこすらないでくださいね」
「はいはーい」
「わっ!ほらこのチーク合うと思ってたんす!ブルベ冬っすね!」
「ぶる…?」
「ってことはほら、このリップも、わー!もうめっちゃあってるっす!毎日つけてほしいっす!」
「えー、こんなのお茶飲んだら落ちちゃうよ」
「落ちたらまたつけるっす!ポケットに入れとくっす!」
「わかった」
「わー、完成っす!俺の見込みはまちがってなかったっす…!めちゃくちゃかわいいっす!写真撮るっす!」
「うっるさ…小堀さん助けてぇ…」
「おいおい、まだ始まってないのによれよれだぞ、どうするんだ今日一日」
「こんなかっこじゃ恥ずかしくて出歩けないんですけど」
「大丈夫、かわいいよ」
「小堀さん、かわいいって言っとけばいいと思ってるでしょ」
「悪いな、女の子のおめかしの褒め方なんか他に知らないんだよ」
「笠松なんて言うと思う?」
「森山さん、ほめていいんですよ?青葉のおっぱいが意外と大きくて目のやり場に困るって顔にかいてありますよ」
「ぐっ、やめろぉ…!」
「やめな青葉、さすがに誰も変な気は起こさないと思うけど、その言葉は男子高校生にはパワー強すぎ」
「え、小堀さんもですか?」
「まあ、違うとは言えないな」
「おい!!お前ら何朝から………!!!」
ばん、と扉をあけて、マネージャーを見て笠松はかたまった。
「あっ、おはようございます」
「おお、青葉?」
「はい、どうです?これ」
「…………なんか………いつもと、違うな……」
口を開けたままかたまった笠松と、マネージャーの肩を叩く。うん、まさに、笠松。後ろでにんまりしている黄瀬が余計なことをいう前に、マネージャーの腕を引いて部室を出た。
ーーーーーーーーーーーーー
「ってことで、黄瀬がでずっぱりでお写真頑張ってくれたので、詳細はまだわかりませんが50000円以上は利益でそうです。冬に向けて、備品代になる予定なので、希望あれば取りまとめますからわたしまでお願いします。」
結局忙しく働き回って、着替える暇もなかったのか、練習前にメイドのまま体育館に駆け込んできたマネージャーをみて、監督がぎょっとした顔はけっこう面白かった。
黄瀬に化粧を落としてもらって、髪の毛もほどいてもらって、着替えてスッキリした顔で体育館にやってきた青葉をみて、思わず笠松に、もったいないなあと呟くと、こっちのほーがいいだろ、と当然のような返事を受けとる。おっと、ごちそうさま。
「いやーしかし、今日は青葉が女子みたいで変な感じだったなあ」
「黄瀬まじで鬼でしたわ…モデルほんとこわいです」
「まったく、黄瀬もいつもとは別人だったなあ」
「でも先輩たちも長身だし衣装よく似合ってましたよ!明日からモテちゃったらどうします?」
「そんな夢みたいなことあるわけないだろ」