笠松くんと終わらない日々
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部活前に、珍しく制服のまま、荷物を抱えてマネージャーが部室のドアを開ける。みんなそれぞれ着替えたりなんだりしているけど、パンツだろうが裸だろうがもう誰もなんのリアクションもない。
「わたし今日からここ使いますから!」
「おい、ちょっと待て」
笠松が声をあげ、みんなが手を止めて気配をうかがっている。
「そこのロッカーちょっと動かしてもらえたら助かるんですけど。裏側わたしの部屋にするんで」
「ちょっと待て、突然そんなのはいそうですかってなるか!」
「今更わたしがそのへんで着替えてても誰もなんとも思わないでしょ」
「ほのかさん!」
笠松とにらみあう青葉の間に黄瀬が割ってはいる。大きな体を縮めてしょんぼりしている。
「ほっぺた赤くなってるっす、またなんか言われたっすか」
「ばか、黄瀬のファンのくそけばい3年生はついこの前返り討ちにしたばっかだっつの!話がめんどくさくなるからあんたは先行ってて!」
「そんなあ、痛そうっす」
「ふつうにむかつくんだって。ほら行った行った!そこ動かすんでキャプテンはあっち側もってください」
みんながそれぞれ顔を見合わせる。まあまあどう考えてもわかりやすく黄瀬に近い青葉の陰口を、ふんわりとみんな耳には入れたことがあるはずだ。笠松と目配せして、黄瀬をつれて体育館に向かう。うちのマネージャーはめちゃくちゃ根性あるし笠松に似て狂暴だから、そゆことしても無駄だと思うけどな。でも黄瀬の言ったことはっきりと否定しないあたり、俺たちはそう思ってていいんだろう。
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「で?ここまでするならせめて俺にはちゃんと話せよ。あと後でどやされても困るから源太の耳にも入れるからな」
「黄瀬くんに馴れ馴れしいって」
「は?馴れ馴れしいのはあいつだろ」
「黄瀬くんが優しいからって勘違いしてるでしょって」
「お前それ誰が言った?」
「名前知らない、3年と2年の、どっかのマネージャーか陸上部かなんかの人。女子更衣室まじでカオスですから」
「で?どーやって成敗したんだよ」
「じゃあ代わりにやってくださいよって言ってやりましたよ。監督とキャプテンはこわいし黄瀬と早川はバカだし洗濯物は多いし臭いし合宿のときなんか1秒も休憩ないですし手もクッソ荒れますけどいいんですか?って襟元締め上げてやりましたよ」
「なんだよお前も手ぇ出してんじゃねーか」
「キャプテンに似たんじゃないですか」
「俺のせいかよ」
「そーですよ」
指示されるがままに、部室のすみに死角を作る。わっほこりまみれ!と叫び声をあげて掃除を始めた青葉の、様子を見ながら考えを巡らせる。こいつに矛先が向くのははじめてじゃないが、そのたび自力で蹴散らしてきた。こいつにとってここが安心できる場所なら、伸ばしてきたその手は絶対にとりたい。
「ま、部員が部室使うだけだしな」
「でしょ」
「源太には俺が話しといていいか?自分で言う?」
「キャプテンに言ってもらった方が話が早いですよね」
「ああ、そーだな」
「よし、こんなもんか!ようやく安心して私物置いとけるわ~」
「なあ青葉」
「はーい?」
「大丈夫なのか」
「あったりまえ!黄瀬係引き受けたときからわかってますから。でも今日は甘やかしてくれて嬉しいです」
ほらいきますよ、と押された背中の力が強くてつんのめる。部室の鍵を慌てて締めながら、ずんずん歩いていく小さい背中を見守った。
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「なるほどー、これがマネージャーの部屋かあ」
「部屋っつーか巣っぽい」
「せんま!動けねーだろこんなとこで」
「あんたたちとはサイズが違うのよ」
監督には、あいつの落ち度じゃなくて自衛のためだから、と笠松があっさり話を付けたようだ。俺たちとマネージャーがどういう関係かとか、笠松という無自覚な番犬がついてることを、よく知ってる監督の耳にいれといたのは正解だと思う。
帰りにはどや顔のマネージャーに激狭なスペースを自慢され、みんなでかわるがわる覗き込む。晴れてマネージャーは部室の仲間になった。
笠松と青葉があのあとどんな話をしたのか、わざわざ聞き出すことでもないけど、マネージャーが入ったばかりの頃逃げ回っていた笠松からは想像もつかない。
今だって、じゃーお先でーすと目を合わせずにすり抜けていこうとしたマネージャーの首根っこを素早くつかまえたのは笠松だ。
「苦しいんですけど」
「ばかやろう、最後までちゃんと甘やかさせろ」
「キャプテン、それ多分1年半くらい前の自分が聞いたら倒れますよ」
「うるせー、おめーが元気じゃねーとみんな困んだろ。源太も心配してたぞ」
「えっ!?どんな顔で!」
「 お前と揉めた相手が再起不能にされてないかって」
「それほんとです?監督わたしのこと好きすぎません?」
森山が髪の毛を整え終わるのをまって、通学路、ほんの少し遠回りして青葉の家の方を通って。
「まあ、元気だせよ」
「わたしは元気ですよ」
「強がるなって」
「腕力ならぜったい負けませんし、相手が黄瀬だろうがなんだろうが、下心のあるやつには負けません」
「お前ほんとすごいよ、戦闘民族だわ」
「や、でも、今日うれしかったけど、明日から普通でいいんで」
「なんだそれ。俺らいつも優しいだろ」
「特に笠松はな」
「うっせー」
否定はしないんだ、と言ったらまたどつかれそうなので、森山と目を合わせてぐっと飲み込んだ