ひなたのクラスメイト
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部屋に入って、手洗いうがいをきちんとして。友達の家に泊まると、学生のような嘘を実家に伝えた翔陽と共犯の私は、冷えたからだを温めるためにお風呂を沸かすことにした。パンツはコンビニで買ったから、なんかシャツかしてと言われて、大きめのTシャツと、たしか高校の頃貸したことのある学校ジャージを渡すと、ピチピチのTシャツにパンツの翔陽が脱衣所から出てきた。
「えっズボンは?」
「入らなかった」
「うそ、貸したことあるよね!つーかそのTシャツもそんなぴっちりする感じじゃないはずなのに」
「俺もビッグな男になったんですよ!このへんとか筋肉ついたの、みて」
「見ない!わかったからしまって!」
「……名前かわいいな」
「やめろ!やめてくれ!わたし風呂に入るから!」
チラリと見てしまった腹筋や脇腹のムキムキ感、黒のボクサーパンツ。ついさっきまで友達だったはずなのにたぶんこの後わたしは翔陽に抱かれてしまう。恥ずかしくて穴があったら入りたい。こんなことになるなんて少しも考えたことがなかったので勝負下着なんかは持ち合わせてなくて、着古したいつもの下着やパジャマで出て行くのも恥ずかしい。念入りに保湿をして、髪の毛を乾かして、いい匂いのクリームも塗って。このまま脱衣所に籠城するわけにもいくまい、台所に出ると、ジブリはどこ行ったのか寝転んでバラエティ番組を見ている翔陽と目が合う。
「こーゆーの好きなの?」
「んー、いや、日本のテレビ久しぶりだなって。安心する」
「そっか、そうだよね」
「ねえこれ、回転ずしのお寿司なんだって!駅通りにできてたよな」
「ああ、うん、一皿百円だしめっちゃおいしいから時々仕事の帰りに行ってるよ」
「俺も行きたい!…けど今日は無理だな」
「この番組面白いよね。一流寿司職人厳しい時は厳しいからね、これ見ると行きたくなるんだよね。全国チェーンなんだから、翔陽大阪でも行けばいいじゃん」
「えー!俺は名前と行きたいのに」
「かわいいな!こっちいる間にいけるとき誘ってよ」
「ほんと!?やったー!デートだ!」
「で、でーとかよ…」
翔陽だ。翔陽が私の部屋にいる。翔陽が私の部屋でテレビ見て笑ってる。翔陽がわたしのこと、好きだって言ってる。諦めようって思ってはずだった。色んな事が一気に起こってついて行けない。勘違いじゃなければさっき夜道で、その、手を出す的なことを言われたし、コンビニでパンツを買った彼が持っていたかごの、下の方に、小さな箱も入っていた。セックスなんかしたらもう私死ぬんじゃないだろうか。いやワンチャン勘違いだったとか、
「名前」
「しょ、しょうようさん、」
いつのまにか台所までやってきた翔陽は、わたしとおなじシャンプーの匂いがしてまた、目が回った。
大きな掌が両頬を包んで、きつくやさしくハグされて。
「だめだ、めっちゃ心臓うるさい」
「わたしもう、脳みそパンクする」
「俺さー、やったことないけど大丈夫かなあ」
「初心者同士か…このまま寝ようか」
「それはやだ。高校の時みたいに後悔するのはいやだ」
「翔陽、かわったね」
「うん、俺はもう、名前のことで後悔したくない」
「……いいの、わたしで」
「それは俺の台詞。おれ本気だから、もう離してやれないしずっと一緒にいたい。それでもいいかな」
「望むところだわ」
手を繋いで、電気を消して。シングルベッドにならんで二人、抱き締められたら翔陽の胸の音が聞こえる。
「なあ」
「うん?」
「今すぐじゃなくていいから、大阪、きてくんない?」
「大阪って新幹線でどれくらい?4時間はかかる?」
「そうじゃなくて。俺の奥さんとして、きてほしい」
「……ま、じか」
「俺、できれば海外もまた行きたいんだけど、その時もついてきてほしいな、どうかな」
「………まじっすか」
「やっぱ、さすがに海外はいや?」
「んー……できれば言葉の勉強したいし、行き先は早めに教えて欲しいかな」
「それ、ずるい」
おでこを合わせて、顔に触れて。鼻と鼻がぴっと触れると、探るように唇が触れて。
翔陽のちかくにいた3年間、彼にとって色んなことが起こったのを近くで見てきた。初めての全国大会をきめたとき、発熱退場の春高が終わった冬休み明け、思ったより落ち込んでいるようには見えなかったこと、赤点をほとんど取らなくなったこと、いろんな出来事があって、たくさん成長して、道しるべをたよりにして。その間私はのんびり高校生活を楽しんだだけだった。翔陽がブラジルに行ってから、自分が情けなくなることも多かった。あったかい体で抱き締められたら、全部ふっとんで強くなれるような、そんな気がした。
あったかい掌が胸を覆って、ふよふよと優しく動き始めた。くすぐったくて翔陽の肩に顔を埋める。脱いで、と言われてTシャツと、勝負用でも何でもない地味なブラジャーを脱ぎ捨てる。直接肌と肌が触れて、下着がないので先端が擦れる。びりびりっとした感覚になんとか耐えていたのに、いきなり両方の先端をきゅっとつままれてなんともはしたない声を出してしまった。驚いて仰け反って後ずさった私を見て、翔陽もどうやら驚いたらしい、が、素早く馬乗りになられてしまう。カーテンの外からうっすら入ってくる光に照らされた顔は、私の見たことのない大人の男の人の顔で、おなかの底がどくんと疼く。
「ここ、いいの?」
「…わかんない」
「じゃあもう一回な」
「え、ちょ、あ!ん、はあ、」
「がまんしたらだめ、いっぱい声出して」
「え、あ、っん!……っあ、う、」
「やばい、かわいいよ。腰動いてる。きもちいね」
「そん、な、」
「ほら、またぴくってした。触ってほしいの?でもこっちもうちょっと」
******
ずっと好きだった人が、その、自分の指や掌で、こうなっていることへの動揺を、おれはうまく隠せているだろうか。ぐしょぐしょになったパンツを放り投げて、今度は下に。入口の上あたりを何度も往復させているうちに名前の体がびくっとして、だめだめ、もうだめと抱き着かれて動けなくなってしまった。スマートな男じゃなくて申し訳ないけど、こんな乱れた姿を見たらちょっと正常じゃいられないのも当然だと思う。
「ねえ、入れていい?」
「ん、きて、はぁ、」
切れ切れの呼吸が鼓膜を震わす。たぶん正しく装着したと思う薄い膜越しに、たぶん一番あったかい中の感覚にぶっとびそうになりながら、止まってはゆっくり進んで、また止まりながら少しずつ。
痛くないか尋ねると、返事とも吐息ともとれない声が漏れて、やっとおれは名前を見つめた。眉間に皺が寄っていて、背中が反って、先端ややわらかな胸のラインが月明かりに照らされる。
すきだって、言えなかった後悔を抱えたせいで、ここまで一足とびにやってきてしまったけど、きっと名前もおなじだって、今は思いたい。
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