ひなたのクラスメイト
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進学クラスの子は東京に出てしまったりするようだったけど、専門や就職が多かったうちのクラスのメンツは案外近くに残っている。私も市役所に努めているので、どんなに部署や配属が変わろうと勤務先は基本的に市内だ。はじめは実家から通っていたものの、交通の便のいい場所にアパートを借りてもう2年になる。クラスでの飲み会は2・3か月に一回、誰かが行ってみたい店を見つけたときとか、なんだかんだ口実をつけてしょっちゅう開かれている。お酒を飲めるようになってからはもっぱら居酒屋だ。
残業を終えて慌てて自転車を漕いで、今回の店は前に何度か来ている駅前のチェーンの居酒屋だ。これがけっこう嫌いじゃない。予約をしてくれた幹事の名前を告げると、元気な兄ちゃんに案内される。半個室のようなそこののれんをくぐると、入口のところに座っていた日焼けした男にいきなりハグされた。
「ひさしぶり!会いたかった!!!」
「……しょー、よー?」
「安心しろよ名前、ここにいる全員それやられてる」
「……ブラジル人か」
「元気だったか?」
「元気だから…はなして…苦し…」
「ご、ごめん!」
「翔陽!…なんか…黒いしでかいしごつい…もっとこう…細身じゃなかった?」
「それも全員思ってるぞー」
「うっさいなー!お前らもブラジル住んでみろよ!めっちゃいいとこだから!」
確かに、欠かさず見ていた翔陽のSNSには帰国の旨が記されては、いた、けども!!!!早い!刺激が!強い!!
有無を言わさず隣に座らされると、大阪のチームのトライアウトを受けたことをきく。かなり手ごたえがあったようで、こっちで試合するときは絶対来てくれよな、と、ああ、この私の大好きな笑顔を向けられた。こっちで試合、となれば地元アドラーズが相手ということになる。翔陽のバレーの相棒だった影山くんはアドラーズに所属、今や日本代表にも名を連ねている。そんな試合が実現、もしすればアツすぎる。にぎやかに会は進み、そろそろ次いこーぜ、と会計を済ませる。いつもならカラオケにでも行くところだけど、私は正直情報量が多すぎてついていけていない。肩を並べて過ごしてきた翔陽が、なんかかっこよくなってしまっていて、なかったことにしていたはずなのに心臓がうるさい。
「名前も行くだろ?」
「ごめん、わたし明日早いから今日は帰るね。また近いうち誘って」
「そうなの?気を付けてな」
「はーい!さんきゅー!」
自転車をおして。くるっと背中を向けて。ここを乗り切れば翔陽は大阪に行ってしまう。帰国してきた以上それこそメディアなんかで目にすることもあるのかもしれないけど、
「俺も帰るわ!今日誘ってくれてありがと!!」
「えー!?翔陽かえんの!?」
「ハッハッハ!俺は体調管理万全だからな!帰って寝ないと!」
「ブッハッハ!次は大阪からこいよ!!」
「ブラジルに比べれば全然近いから!余裕で来る!」
背後で翔陽も別れの挨拶をしているのが聞こえて、足を速める、大股、もむなしく、追いついてきた翔陽が私の横に並んでしまった。
「次、行かなくてよかったの?」
「名前と話したくて」
「…体調管理ってのは?」
「半分嘘。いつもはちゃんとしてる!でも名前と話したくて。飲みなおそう、いいお店しらない?」
私の親友は酷だ。なかなかあきらめをつけさせてくれない。こんなときどんなところにいけばいいんだろう。ファミレス?ファーストフード?
「うちくる?ジブリの録画あるし」
わたしのばか。なんてことを。これが最後の思い出になっちゃうのか。自分で自分を、延命しているような、首を絞めているような。どうせ翔陽のことだから、いいじゃんコンビニよっていこう、とスキップでも始めるんだと思った。
「名前」
「ん?どしたの?コンビニ寄ってく?」
「お前だれにでもそうなの?」
「そうって?家?いやそんなことないよ?」
「だめだ、俺のこと男ってちゃんとわかってる?」
「どうしたの急に」
「おれ、」
自転車を押していた左手に、左から翔陽の掌が重なった。大きくてあったかい。顔を上げると、日焼けしているのにわかるほどに顔を赤くしている翔陽がいた。
「ずっと後悔してて…今度会ったら言うって決めてた」
「しょ、よ?」
「俺、名前のことが好きだ。高校の時から好きだった。ブラジル行くって決めてたから言わない方が良いって思ってたけど、向こう行ってから後悔してたし、ずっとお前のこと、好きだった」
3年前、言えなくて、押し込めて、声も涙も出なかった。押し込めてきた気持ちがやっと、ぽろぽろと溢れ出す。あんなにうるさかったはずの翔陽が、静かにわたしの頬を拭った。勘違いなんかじゃなく、視線に、しぐさに、たくさんの愛を感じる。ぎゅっと抱きしめられて、おひさまの匂いをいっぱい吸い込んで。自転車を倒さないように気を付けながら、片方の腕をそっと背中に回した。
「…名前、おれのこと、どう思う?教えて?」
「…すき」
「うん」
「ずっとすき、でも、遠くに行っちゃうって思って」
「うん」
「いま、嬉しい」
「…俺も」
人通りが少ないとはいえ、往来で何やってるんだ、このブラジル男め!と、いつもならつっこめるんだろうな。翔陽は私から自転車を引き取ると、片手で押しながらもう片方の手で私の手を握る。もう、大人なのに。心臓が破裂しそうで、中高生に笑われてしまうかも。
「だから、簡単に家に誘ったりしちゃだめ!俺だって男だし、下心はあるんだからな」
「あ、そういうこと」
「文句あるかよ」
「ない、ないけど、やっぱりうち来て」
「お前なあ、」
「翔陽、飲んでる?」
「飲んでない。でも言いたいこと言えたし、お酒も飲みたい。コンビニ寄っていこう」
「梅酒ならあるよ」
「俺ビール!……なあ、」
「んー?」
「これって、その…子の上京って据え膳ってやつなんでしょうか…」
「うん、それで、あってる。ずっと好きだった分全部、据えてある」
「なっ!あのっ!あれだぞ!?てっ、手を出すぞ!?」
「…わかってるよ」
残業を終えて慌てて自転車を漕いで、今回の店は前に何度か来ている駅前のチェーンの居酒屋だ。これがけっこう嫌いじゃない。予約をしてくれた幹事の名前を告げると、元気な兄ちゃんに案内される。半個室のようなそこののれんをくぐると、入口のところに座っていた日焼けした男にいきなりハグされた。
「ひさしぶり!会いたかった!!!」
「……しょー、よー?」
「安心しろよ名前、ここにいる全員それやられてる」
「……ブラジル人か」
「元気だったか?」
「元気だから…はなして…苦し…」
「ご、ごめん!」
「翔陽!…なんか…黒いしでかいしごつい…もっとこう…細身じゃなかった?」
「それも全員思ってるぞー」
「うっさいなー!お前らもブラジル住んでみろよ!めっちゃいいとこだから!」
確かに、欠かさず見ていた翔陽のSNSには帰国の旨が記されては、いた、けども!!!!早い!刺激が!強い!!
有無を言わさず隣に座らされると、大阪のチームのトライアウトを受けたことをきく。かなり手ごたえがあったようで、こっちで試合するときは絶対来てくれよな、と、ああ、この私の大好きな笑顔を向けられた。こっちで試合、となれば地元アドラーズが相手ということになる。翔陽のバレーの相棒だった影山くんはアドラーズに所属、今や日本代表にも名を連ねている。そんな試合が実現、もしすればアツすぎる。にぎやかに会は進み、そろそろ次いこーぜ、と会計を済ませる。いつもならカラオケにでも行くところだけど、私は正直情報量が多すぎてついていけていない。肩を並べて過ごしてきた翔陽が、なんかかっこよくなってしまっていて、なかったことにしていたはずなのに心臓がうるさい。
「名前も行くだろ?」
「ごめん、わたし明日早いから今日は帰るね。また近いうち誘って」
「そうなの?気を付けてな」
「はーい!さんきゅー!」
自転車をおして。くるっと背中を向けて。ここを乗り切れば翔陽は大阪に行ってしまう。帰国してきた以上それこそメディアなんかで目にすることもあるのかもしれないけど、
「俺も帰るわ!今日誘ってくれてありがと!!」
「えー!?翔陽かえんの!?」
「ハッハッハ!俺は体調管理万全だからな!帰って寝ないと!」
「ブッハッハ!次は大阪からこいよ!!」
「ブラジルに比べれば全然近いから!余裕で来る!」
背後で翔陽も別れの挨拶をしているのが聞こえて、足を速める、大股、もむなしく、追いついてきた翔陽が私の横に並んでしまった。
「次、行かなくてよかったの?」
「名前と話したくて」
「…体調管理ってのは?」
「半分嘘。いつもはちゃんとしてる!でも名前と話したくて。飲みなおそう、いいお店しらない?」
私の親友は酷だ。なかなかあきらめをつけさせてくれない。こんなときどんなところにいけばいいんだろう。ファミレス?ファーストフード?
「うちくる?ジブリの録画あるし」
わたしのばか。なんてことを。これが最後の思い出になっちゃうのか。自分で自分を、延命しているような、首を絞めているような。どうせ翔陽のことだから、いいじゃんコンビニよっていこう、とスキップでも始めるんだと思った。
「名前」
「ん?どしたの?コンビニ寄ってく?」
「お前だれにでもそうなの?」
「そうって?家?いやそんなことないよ?」
「だめだ、俺のこと男ってちゃんとわかってる?」
「どうしたの急に」
「おれ、」
自転車を押していた左手に、左から翔陽の掌が重なった。大きくてあったかい。顔を上げると、日焼けしているのにわかるほどに顔を赤くしている翔陽がいた。
「ずっと後悔してて…今度会ったら言うって決めてた」
「しょ、よ?」
「俺、名前のことが好きだ。高校の時から好きだった。ブラジル行くって決めてたから言わない方が良いって思ってたけど、向こう行ってから後悔してたし、ずっとお前のこと、好きだった」
3年前、言えなくて、押し込めて、声も涙も出なかった。押し込めてきた気持ちがやっと、ぽろぽろと溢れ出す。あんなにうるさかったはずの翔陽が、静かにわたしの頬を拭った。勘違いなんかじゃなく、視線に、しぐさに、たくさんの愛を感じる。ぎゅっと抱きしめられて、おひさまの匂いをいっぱい吸い込んで。自転車を倒さないように気を付けながら、片方の腕をそっと背中に回した。
「…名前、おれのこと、どう思う?教えて?」
「…すき」
「うん」
「ずっとすき、でも、遠くに行っちゃうって思って」
「うん」
「いま、嬉しい」
「…俺も」
人通りが少ないとはいえ、往来で何やってるんだ、このブラジル男め!と、いつもならつっこめるんだろうな。翔陽は私から自転車を引き取ると、片手で押しながらもう片方の手で私の手を握る。もう、大人なのに。心臓が破裂しそうで、中高生に笑われてしまうかも。
「だから、簡単に家に誘ったりしちゃだめ!俺だって男だし、下心はあるんだからな」
「あ、そういうこと」
「文句あるかよ」
「ない、ないけど、やっぱりうち来て」
「お前なあ、」
「翔陽、飲んでる?」
「飲んでない。でも言いたいこと言えたし、お酒も飲みたい。コンビニ寄っていこう」
「梅酒ならあるよ」
「俺ビール!……なあ、」
「んー?」
「これって、その…子の上京って据え膳ってやつなんでしょうか…」
「うん、それで、あってる。ずっと好きだった分全部、据えてある」
「なっ!あのっ!あれだぞ!?てっ、手を出すぞ!?」
「…わかってるよ」