ひなたのクラスメイト
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すきなひと、という言葉を使うのは十代の今だけなのではないかと思う。彼氏や彼女ができても堂々とできなかったり、照れて周りの目を気にしたりするのは今だけなのではないかと思う。付き合っている人と手を繋いだとか、どこまでいった、とかそんなことで盛り上がれるのも今だけなのではないかと思う。駅前やショッピングセンターはカップルや夫婦で溢れかえっている。腕を組んで、手を繋いで。あるいは目線を交わさず会話もないのに不思議と寄り添って。幸せそうな子連れの家族、の、その天使達はコウノトリがはこんでくるわけではないことを、この歳になればみんな知っている。
高校3年にもなればカップルは珍しいものではないし、誰は誰が好きらしいとか、告白されてオッケーしたとかって話が止めどなくあちこちから流れてくる。
今付き合っている人たちの、一体どれだけが結婚するだろうか。別れてしまったそのあと、どうなるんだろうか。私だったらきっと気まずくて連絡できない、そのまま疎遠になってしまうだろう。そんなのつらすぎる。それなら彼氏なんてできなくてもいいかもしれない。何度も至った結論を反芻したのは、今目の前に好きな人がいるからだ。
12月のはじめ。日直の日誌を書くわたしの前の席に、日向翔陽は後ろ向きに腰かけて、机に肘をついている。この学校に彼のことを知らない生徒はいない。明るく人懐こい性格のせいももちろんあるけど、1年のときから毎年春の高校バレーに出場しているから。年明けには最後の春高が開幕する。とっくに部活なんか引退したわたしが顔をあげると、翔陽はにっこりと笑って見せた。
「もーちょっとかかるし、部活行っていいよ。試合もうすぐじゃん」
「いい!俺がいたいの」
「あんたってそーゆーとこ気ぃ使うよね」
「だってさー、名前と日直すんのもたぶん最後だべ?なんかもったいねーなって思って」
「ほんとだね、3年間で……10回はなかった?でもよく隣になってたもんね」
「ほんとほんと!くじ引きなのに引き強すぎるよな」
「毎日会ってたのにね。卒業なんて信じらんないよ」
「就職決まったって聞いた!何すんの?」
「市役所!はー、東京とか行ってみたかったな」
「そんならさ、帰ってきたらいつでも名前はいるってことだよな」
「ん?まあそうなるか?翔陽はどーすんの?」
「俺は1年修行してから、ブラジルいく!」
「………ぶ、らじる、って、あのブラジル?地球の裏側の?」
「そ。ビーチバレーの修行」
「え!?ビーチバレー選手になるの?」
「んーん、インドアのプロを目指してるんだけど、俺まだまだ下手くそだし全部のことができるようになりたくて」
目線を窓のそとに移しながら、ゆっくりと丁寧に彼は卒業後のことやそこに至る経緯を話してくれた。その目線の先は校庭、じゃなくて広い世界だ。なんて言えば良い?がんばれ?すごい?あれ?いつもどうやって話してたっけ?
言葉を失ってただただ見つめるわたしの、シャーペンを握っている方の手に暖かい翔陽の掌が重なる。
「でもお前がこの辺にいるなら、目印にして帰ってこれる」
「………なにそれ、」
少しゆっくり、でも翔陽が部活に遅れないように書き終えた日誌。遅れるよ、と翔陽を急かして、1人で歩く放課後の廊下の静けさ。
職員室はいろんな情報があって、コーヒーのいい匂いや電話の呼び出し音がして、先生にそれを渡して廊下に出るまでの少しの間ぴんと張った気持ちが、後ろ手に扉を閉めるとまたちぎれてしまった。愛用の白のハイカットのコンバースは2代目。1年の春、翔陽におんなじじゃん!と言われてから、なんだか変えたくなくなってしまった。ここでぽろぽろ泣けてしまえばすっきりするのかもしれないけれど、涙にさえなれなかったわたしの気持ちが、喉の奥を塞いでいる。
こんなにつらいのはいつまで続くんだろう。優しくて残酷な翔陽にわたしの気持ちを伝える勇気はない。大人になれば彼のことを忘れるんだろうか。もっと好きな人に出会えるんだろうか。それとも器用に忘れた振りをして、妥協して手頃な人と家庭をもつんだろうか。
卒業式のあと、写真とろうぜと言ってきた翔陽と、ガラケーのカメラでツーショットを撮った。何度ながめてもうまく笑えてない自分に嫌気がさす。もし翔陽がこの写真を見返すことがあっても、きっとかわいいとは思ってくれないだろう。
高校3年にもなればカップルは珍しいものではないし、誰は誰が好きらしいとか、告白されてオッケーしたとかって話が止めどなくあちこちから流れてくる。
今付き合っている人たちの、一体どれだけが結婚するだろうか。別れてしまったそのあと、どうなるんだろうか。私だったらきっと気まずくて連絡できない、そのまま疎遠になってしまうだろう。そんなのつらすぎる。それなら彼氏なんてできなくてもいいかもしれない。何度も至った結論を反芻したのは、今目の前に好きな人がいるからだ。
12月のはじめ。日直の日誌を書くわたしの前の席に、日向翔陽は後ろ向きに腰かけて、机に肘をついている。この学校に彼のことを知らない生徒はいない。明るく人懐こい性格のせいももちろんあるけど、1年のときから毎年春の高校バレーに出場しているから。年明けには最後の春高が開幕する。とっくに部活なんか引退したわたしが顔をあげると、翔陽はにっこりと笑って見せた。
「もーちょっとかかるし、部活行っていいよ。試合もうすぐじゃん」
「いい!俺がいたいの」
「あんたってそーゆーとこ気ぃ使うよね」
「だってさー、名前と日直すんのもたぶん最後だべ?なんかもったいねーなって思って」
「ほんとだね、3年間で……10回はなかった?でもよく隣になってたもんね」
「ほんとほんと!くじ引きなのに引き強すぎるよな」
「毎日会ってたのにね。卒業なんて信じらんないよ」
「就職決まったって聞いた!何すんの?」
「市役所!はー、東京とか行ってみたかったな」
「そんならさ、帰ってきたらいつでも名前はいるってことだよな」
「ん?まあそうなるか?翔陽はどーすんの?」
「俺は1年修行してから、ブラジルいく!」
「………ぶ、らじる、って、あのブラジル?地球の裏側の?」
「そ。ビーチバレーの修行」
「え!?ビーチバレー選手になるの?」
「んーん、インドアのプロを目指してるんだけど、俺まだまだ下手くそだし全部のことができるようになりたくて」
目線を窓のそとに移しながら、ゆっくりと丁寧に彼は卒業後のことやそこに至る経緯を話してくれた。その目線の先は校庭、じゃなくて広い世界だ。なんて言えば良い?がんばれ?すごい?あれ?いつもどうやって話してたっけ?
言葉を失ってただただ見つめるわたしの、シャーペンを握っている方の手に暖かい翔陽の掌が重なる。
「でもお前がこの辺にいるなら、目印にして帰ってこれる」
「………なにそれ、」
少しゆっくり、でも翔陽が部活に遅れないように書き終えた日誌。遅れるよ、と翔陽を急かして、1人で歩く放課後の廊下の静けさ。
職員室はいろんな情報があって、コーヒーのいい匂いや電話の呼び出し音がして、先生にそれを渡して廊下に出るまでの少しの間ぴんと張った気持ちが、後ろ手に扉を閉めるとまたちぎれてしまった。愛用の白のハイカットのコンバースは2代目。1年の春、翔陽におんなじじゃん!と言われてから、なんだか変えたくなくなってしまった。ここでぽろぽろ泣けてしまえばすっきりするのかもしれないけれど、涙にさえなれなかったわたしの気持ちが、喉の奥を塞いでいる。
こんなにつらいのはいつまで続くんだろう。優しくて残酷な翔陽にわたしの気持ちを伝える勇気はない。大人になれば彼のことを忘れるんだろうか。もっと好きな人に出会えるんだろうか。それとも器用に忘れた振りをして、妥協して手頃な人と家庭をもつんだろうか。
卒業式のあと、写真とろうぜと言ってきた翔陽と、ガラケーのカメラでツーショットを撮った。何度ながめてもうまく笑えてない自分に嫌気がさす。もし翔陽がこの写真を見返すことがあっても、きっとかわいいとは思ってくれないだろう。
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