宮ンズのマドンナは女バスのエース
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年が明け、冬が明け
私たちは3年に、双子たちは2年になった。
私はバスケで大学に行くわけではない。去年先輩たちが引退するときに、受験勉強出遅れとんねんと言っていた気持ちがよくわかる。でもインターハイは出たい。チームの方もかなりいい仕上がりだと思う。双子は相変わらずに、学校内でちょっと離れたところにいるくらい、放っておいてほしいのに大きな声で名前を呼んで手を振ってきたり、オサムくんのおにぎりは相変わらずおいしいけどこっちもセクハラとセットである。
テストが終わった日は、一夜漬けの生徒もいたりするもんで大抵どこの部活も自主練になっている。昼ご飯を食べて体育館に向かうと双子がにらみ合いをしているところで、まあまあテストの後だというのに元気なものよと素知らぬ顔で倉庫にボールを取りに入る。
「俺今日な、クラスの女子に苗字先輩と付き合ってるん?って聞かれたで」
「は?俺なんかしょっちゅう握り飯食わせてんねん、いっつもおいしいって食べてくれとんで」
「お前が勝手にやっとるだけやろうが」
「ツムよりはよっぽど好かれとるわ」
まさか。こいつらどっちが私と仲いいかでけんかしとん?ここに本人おんで?ぐるっと見回しても北くんの姿は無い。居た堪れなくなってアホー!と怒鳴りながらおさむくんに右足で回し蹴り、着地して左足であつむくんに膝蹴りをくらわす。これくらいしても許されて然りだろ。
「どっちとも別に仲良くも悪くもないっちゅーねん」
「え…?どーゆーことや?」
「俺じわじわ距離詰めとると思ってたんやけど」
「あつむくんが物理的に詰めてくるもんで心理的には遠ざかっとるで」
「うっそやん!じゃあ俺とサムやったらどっちと付き合いたいんや」
(俺やな…)
(俺やろ!)
「なんでそこ二択なん?」
「えーっ!?じゃあバレー部に!広げます!」
「なんでちょっと譲歩しますみたいなかんじなん?別にバレー部まで絞ってくれへんくても、こちとら尾白の一択やわ」
「……は?」
「え!?苗字せんぱいアランくんと付き合ってたん?」
「付き合ってへんわアホ!こっちはあんたらほど色ボケやないねん!ほっといてや!」
かちーんと凍り付いた双子。やっと静かになったと踵を返したときに、廊下の方から北くんの声が響いた。
「アラン何しとんや?」
「しっ!しんすけ!ちょっと待ってや俺今めっちゃ出て行きづらいねん!………あ…」
「げ、どこから聞いてた?」
「なんで二択やねんのとこからや…」
「…………わわ、わ、忘れて!」
***
「こちとら尾白の一択やわ」
苗字とは去年から同じクラスやし、体育館でも一緒なもんでけっこう仲もいい。根っからの関西人でツッコミ体質、とはいえ見た目は双子が目をつけるほどの可憐さもあり、まさか俺のことなど眼中に入りもしないだろうと決めつけたもんで居心地よくつるんでいたのに。
「追いかけんでええん?」
「えー?まじで?俺も衝撃やねんけど」
「どっちみち明日学校で会うんやし、まあ一晩位気持ちの整理させてあげた方がええんかもね」
「なんやねん信介…」
「俺はお似合いやと思うけどな。で、侑と治はわかってんのやろな」
「ヒッ!」
大体俺はバレーでこの学校に入ったわけで、双子は世話が焼けるけど昔からのことやし、仲間との毎日に満足しとるわけで。告白なんかされたこともないし彼女が欲しいと本気で思ったこともなかった。仮にあいつと付き合ったとして何が変わるんかもよくわからん。気になるなら行って来いと追い出されたはいいものの、女バスの部室にずけずけ上がり込むわけにもいかん。
「尾白くんやん。なんしとん?」
「あー、苗字、おるかな、ちょっと用事あんねんけど」
「あー、おるおる。今名前しかおらんし上がってけば?」
「いや、ええ、呼んでもらってええ?」
事情を知らないチームメイトに呼ばれた苗字は、俺の顔を見ると眉間にマリアナ海溝もびっくりするような皺を寄せる。なんで俺が悪い感じなん。
「そんな顔せんといてくれよ。明日教室できまずいの嫌やねん」
「わたしほんまふたごゆるさん」
「なんで片言みたいになっとんねん。ちょっと話せん?」
な、今日とか中庭とか人おらんやろ、と誘い出した藤棚の下のベンチ、部室から小銭入れを掴んできた苗字が俺にイチゴオレのパックを寄越す。
「だって仕方ないやん、尾白のことめっちゃ好きやん」
「おん、ありがとう」
「別に付き合いたいとか思ってないんよ。だって尾白めっちゃ部活頑張ってるやん。邪魔になったり迷惑かけたりしたくないし、時間取るのも悪いし。仲いい友達で、近くにおらしてくれたらそれだけでよかったんや。どう思った?きもいって思った?」
「いや、お前自分の優先順位低すぎやろ」
「…そこなん?」
「俺イケメンちゃうし、まさかお前がそんなこと思ってくれとったなんてちょっとも気づかんかったわ。彼女ほしいとかも本気で思ったことはなかったと思うわ」
「せやろ?わたしら利害一致してたのに」
「ほんなら、明日からも一致させとこうや」
「ええのん?」
「おん。そんでまあ、卒業したら俺が付きおうてって言うわ」
「え!?何その予告。意識してしまうやん」
「したらええねん」
「キョドったら幻滅されるかな」
「は?どんだけ友達やってきてんねん、なめんな」
すっかり空っぽになったジュースのストローを
唇で弄んでいた苗字は
勢いよく立ち上がる。空のパックをゴミ箱に投げ込んで
くるりとこちらに振り返る。
「じゃあ明日からまた、いつも通りってことで」
「おん」
「尾白」
「ん?」
「ありがとう」
「はは、どういたしまして」
体育館に戻ると、信介にこってり絞られたらしい双子がしょんぼりして寄ってきた。この様子だと何があったかは知れ渡っている。監督からの目線もなんかいつもと違う気がする。
「大丈夫やったん?」
「おん、心配ないで」
「そんならええわ」
信介は何かを見透かしたような目をしている、が。まだ今は秘密にしとってもええやんな。