宮ンズのマドンナは女バスのエース
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履修登録だサークルだ、バイト何にするだなどと、私が人並みのちっちゃいことでじたばたしている間に、尾白からデビュー戦のお誘いがあった。北くんと一緒にと言われて不思議がっていると、電話口の向こうの尾白がでかい声でスマァン!と叫んだ。
「関係者の名簿に名前書かないかんくて、彼女って言う度胸なかったんや…許せ!」
「それ、寧ろ北くんに謝らな…わたしは全然、ほら、バレー詳しい人が一緒の方がよくわかってえーし」
「そしたら、信介のばあちゃんも一緒に来てくれることになってん。よろしく言うといて」
「ほんとに?わー、それはめっちゃ嬉しい」
「信介の連絡先知っとるか?教えといたろか」
「ううん、前に教えてもらってる。双子のことでクレームあったらいつでもって」
「はっ、あいつらしいなあ」
尾白ってけっこう表情豊かやったんやって、離れて初めて気付いた。電話越しの声だけでどんな顔なのか目に浮かぶ感じがする。信介がんばれ、と編み込まれたおばあちゃんのセーターを思い出した。そっか、プロの試合なんだし所謂アイドルうちわ的なものがあった方がいいんだろうか。
卒業式以来北くんに連絡すると、ばぁちゃんが楽しみにしているとのことで試合の前に食事をすることになった。会場の最寄り駅で、北くんのことだから必ず時間より早く来るだろうと、早めに行ってベンチで待った。北くんと最後に会ってから2ヶ月も経ってないのに、畑仕事をしているだけあってこんがりと日焼けして、頬が赤く光っている。
「元気そやね」
「おかげさまでね。おばあちゃんも今日はご足労ありがとうございます」
「こちらこそ、楽しみにしとったんよ」
ほないこうか、と北くんに続く。最近のものが食べてみたいわというおばあちゃんのリクエストにこたえて、健康志向のカフェでプレートを注文する。木製のプレートに雑穀ご飯、サラダ、お魚、お肉などがひしめく。目を輝かせるおばあちゃんと、目尻に皺寄せてみつめる北くんはまるでカップルみたいだ。
「今日、あなたとってもかわいいわねえ」
「ありがとうございます、尾白には会えへんと思うけど、おしゃれしてきてしまったんよ」
「わかるわあ、私も楽しみやって、一張羅出してきたんよ」
「そのセーターのお花、わたしすごく好きです」
「ほんま?ありがとう」
「ばあちゃん、先週から悩んでたもんなあ。その首巻きも似合うとるよ」
「これな、昔自分で編んだんよ。懐かしいわあ、あの頃はおじいちゃんも元気やって…でもあの人は信ちゃんみたいにほめてくれんかったけどね」
「じいちゃんは照れとったんよ」
「なんや、信ちゃんも気付いてたんか」
双子のお世話が必要なくなったからか、北くんは驚くほど柔らかい雰囲気になっている。まだ慣れへんからあっちこっち痛いわ、と困ったように笑う笑顔も、なんか大人になってしまったみたいで、わたしは少しだけ恥ずかしくなってしまった。
会場にはいると尾白に言われたとおり、関係者受付と書かれた長机に向かう。名前を確認してもらって、いいですよ、と通される。席に着くと北くんが、鞄の中から徐にクリアファイルを取り出した。A4ほどの厚紙に力強い筆文字で、私のには「尾白」北くんのには「アラン」おばあちゃんのには「頑張れ」と書かれている。
「これ、北くんが作ってくれたん?」
「そうや。プロなんやし、こういうのあると盛り上がるかなと思ってな」
「北くん、めっちゃ字うまいんやね」
「そやろか、ありがとう」
アップのために入ってきた選手たちの中に尾白をみつける。きょろきょろする尾白がわたしたちの姿を見つけたので、北くんのお手製バナーを掲げると、ぎょっとした顔をしていたのでばっちりしてやったりだ。誰かが見にに来ているとか、そういうことで力が出せなくなるような男ではないことを、わたしも北くんもよく知っている。
ちなみに尾白はチームの独身寮的なところに入っていて、私はとりたて免許と中古の軽で実家から大学に通っていて、オフが噛み合わなかったりして顔を見るのは約1ヶ月ぶりだ。遠目に見てもなんか、ちょっとでかくなった気もする。
「見とれた?」
「っ、からかわんといて」
「顔にかいてあるよ」
「まっじ?」
「まあでも、俺が見てもかっこええわ。あっち側はすごいなあ」
「わたしから見たから北くんもめっちゃ大人や、授業とかバイトとかちまちまやってんのが恥ずかしくなってくるわ」
「そんなことないやろ、受験勉強がんばってたやん」
「まあ、そーなんやけどさ」
「10年たったら、大して変われへんようになってるって。心配あらへんよ」
「なんか北くんに言われるとそんな気がしてくるわ」
「アランはその頃日本代表かもな」
「ゲッ」