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「牛島選手、今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
怪我から復帰し
チームでの実績が認められ
全日本のチームに復帰することになった。
総合スポーツ誌の取材らしく
昔陸上の選手だったという40代ごろの女性記者は
練習場の近くの喫茶店を指定してきた。
学生時代のことなど詳しく調べたようで
選手時代の自分の経験などを交えながら
たくさん話ができ
取材のことなどは気にならなくなってきたところだった。
「少し早いけど、若いしお腹がすきませんか?もう少しお話ししたいからお昼を食べましょう」
「ああ、はい」
「そういえば、牛島さん、好きな食べ物は?」
「…ハヤシライスです」
「あら、ここのお店ハヤシライスが美味しいんですよ。私はオムハヤシ」
「自分は普通のハヤシライスにします」
ハヤシライスができるのを
あの日初めてずっと見ていた
苗字さんは驚くほどたくさんの玉ねぎを切って
鍋いっぱいになっていたそれは
火にかけるとみるみるうちに
ふやけてしぼんでいった。
腕まくりをして袖口から見える
細い手首と
玉ねぎの柔らかい香りがよみがえる。
注文したものが運ばれてくると
彼女はレコーダーのスイッチを切って
鞄にしまい込んだ。
「ここからはオフレコ」
「はあ」
「うちの主人は卵焼きが好きなんだけどね」
「はい」
「あなた同じ顔してるわ。誰かに作ってもらったんでしょ、ハヤシライス。ちゃんと思い出が残ってる好物を思い出してる顔だわ。おばさんのおせっかいだと思ってもらっていいけど、男性のアスリートは結婚するといいこといっぱいあるわよ。牛島さん真面目そうだから、これくらい突いても動かないかもしれないけど」
「いえ…」
父親を思い出した。
表情の豊かな人だった。
俺にバレーを教えてくれた。
父と母はなぜ結婚したのか知らない。
俺のこの左腕は、父親からの贈り物だ。
食事を終えると
今日はおばさんのおごりよ、と
彼女はさっさと帰ってしまった。
ハヤシライス。苗字さん。
父、母、バレー、
ハヤシライス、苗字さん。
彼女は今もあの体育館にいるだろうか。
俺を見て笑ってくれるだろうか。
*
「牛島選手、今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
怪我から復帰し
チームでの実績が認められ
全日本のチームに復帰することになった。
総合スポーツ誌の取材らしく
昔陸上の選手だったという40代ごろの女性記者は
練習場の近くの喫茶店を指定してきた。
学生時代のことなど詳しく調べたようで
選手時代の自分の経験などを交えながら
たくさん話ができ
取材のことなどは気にならなくなってきたところだった。
「少し早いけど、若いしお腹がすきませんか?もう少しお話ししたいからお昼を食べましょう」
「ああ、はい」
「そういえば、牛島さん、好きな食べ物は?」
「…ハヤシライスです」
「あら、ここのお店ハヤシライスが美味しいんですよ。私はオムハヤシ」
「自分は普通のハヤシライスにします」
ハヤシライスができるのを
あの日初めてずっと見ていた
苗字さんは驚くほどたくさんの玉ねぎを切って
鍋いっぱいになっていたそれは
火にかけるとみるみるうちに
ふやけてしぼんでいった。
腕まくりをして袖口から見える
細い手首と
玉ねぎの柔らかい香りがよみがえる。
注文したものが運ばれてくると
彼女はレコーダーのスイッチを切って
鞄にしまい込んだ。
「ここからはオフレコ」
「はあ」
「うちの主人は卵焼きが好きなんだけどね」
「はい」
「あなた同じ顔してるわ。誰かに作ってもらったんでしょ、ハヤシライス。ちゃんと思い出が残ってる好物を思い出してる顔だわ。おばさんのおせっかいだと思ってもらっていいけど、男性のアスリートは結婚するといいこといっぱいあるわよ。牛島さん真面目そうだから、これくらい突いても動かないかもしれないけど」
「いえ…」
父親を思い出した。
表情の豊かな人だった。
俺にバレーを教えてくれた。
父と母はなぜ結婚したのか知らない。
俺のこの左腕は、父親からの贈り物だ。
食事を終えると
今日はおばさんのおごりよ、と
彼女はさっさと帰ってしまった。
ハヤシライス。苗字さん。
父、母、バレー、
ハヤシライス、苗字さん。
彼女は今もあの体育館にいるだろうか。
俺を見て笑ってくれるだろうか。
*