再会
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「最短で復帰できてよかったな。」
「ああ」
「若利が負傷なんて、イメージつかなかったよ。それだけプロの世界は厳しいんだな」
「…やりがいがある」
「そういうと思った。お前が元気そうでよかったよ」
若利が怪我で離脱をしたことは
インターネットのニュースで知った。
野球やサッカーほど注目はされないが
メディアが発達した昨今
細かく情報を得ることは難くない。
「大きなけがは初めてだったろ」
「そうだな。擦傷や打身などは毎日のことだが」
「白鳥沢は負傷者が少なかったからな。苗字さんがいつも、怪我や病気はいけないってガミガミ言ってたろ」
「…苗字さんが、すぐに来てくれた」
時には寮で、時には部室で
時には体育館で
若利とはけっこう話してきた。
時は流れ場所は居酒屋
若利が酒を飲むようになるとは思わなかった
、じゃなくて
今さらっとすごいことを聞いた気がする。
「…来てくれたって、いつだ」
「負傷した日、よく覚えてないんだが、電話をかけたらしい」
「苗字さんに?」
「そうだ」
「それで来たのか」
「次の日に、ハヤシライスを作っていってくれた」
「まあ、お前は苗字さんに懐いてたからな」
「…そうだったのか?」
「若利、かわらないな」
さかのぼって、苗字さんが体育館の職員で
試合会場で再会したことや
そのあと二人で入った食堂で
おかずを分けてもらったことなどを
思い起こすようにぽつりぽつり話して
「つい、迷惑をかけてしまった」と
穏やかな表情でこぼすものだから
俺はなんだかもどかしい
昔は優しいお姉さんだと思っていたけれど
なあ、俺たちもうけっこういい歳だぞ。
「若利は苗字さんのことが好きなんだな」
「…それはお前も同じことだ」
「…お前わざと言ってるのか」
「何の話だ」
「…苗字さんが、若利に、言い聞かせるように、バレーボールが好きだって言ってただろ」
「懐かしいな」
苗字さん、一体どんな気持ちで
若利に会いに行ったんですか。
俺のこの苛立ちは
きっとあなたは望んでない。
望んでない。
バレーボールのことが大好きな
若利のことが好きなんですよね。
****
「お久しぶりです、お元気そうですね」
「あはは、大平って老けないねえ」
「まあ、高校の頃は老けてたでしょ」
「そうそう、ようやく年齢が見た目に追い付いたって感じ?」
先輩を駅に呼び出す。
電話口より声が弾んでいた。
髪がショートになっていて
正直、かわいいなと思ってしまった。
「珍しいね、てゆーか私が卒業してぶりだよね」
「なかなか、声かける口実がなかったんですよ」
「ってことは、今日は何か口実があるのか?」
「まあまあ、一杯飲んでから話しましょうよ」
俺は決して呑兵衛ではない。
だけど誰かと何かを話すときに
ちょっとアルコールを入れるといいということを
大学の間に学んでしまった。
枝豆や唐揚げ、出し巻卵を挟んで
ビールをグイッと開ける。
俺がレモンサワーを頼むと、
苗字さんは麦の湯割りを頼んでいた。
けっこう強いのか?
「で?なんかすごい大層な用事みたいでしたけど」
「若利に会ってきました」
「ああ、牛島復帰したんだよね、ニュースで見たよ~」
「若利が俺に、苗字さんが来てくれた時のことを話してくれました」
「あ~、なんか電話かかってきてさ、もうあんな動揺した牛島初めてだったから勢いつけて会いに行ったの。いつもね、私が、牛島はバレーが好きだからねって言って、牛島がはいって言って」
「懐かしいです」
「でもあの時牛島、自分で言ったのよ。バレーが好きですって、バレーが俺のすべてですって」
「へえ、めずらしいですね」
「だから安心して帰ったの。大丈夫だなって思ったの」
「なんというか…俺は…」
「どうしたの?」
「苗字さんは、若利のことが好きなんですね」
「そんなの大平もじゃない」
「…同じこと、若利にも言われましたよ」
俺が一人で走って焦って
そんなことは意味がないけど
二人の関係が不思議なもので
ついついつつきたくなってしまう。
俺と苗字さんは
同じように若利を見てきた。
俺は若利と同じ男で
苗字さんは女性というところだけが違った。
「一瞬ですけど、付き合ってるのかと思いました」
「…だれが?」
「若利が」
「大平と?」
「苗字さんと」
「…牛島と私が?」
「そう、だって、家まで駆けつけたなんて聞いたから」
「バカじゃないの」
「すみません、俺がバカでした」
「いや、まあ、普通は思うよね。わかるわかる。でも私全然変わらないんだよな~、もしかして高校の頃から牛島のこと好きだったのかもね」
「え」
「冗談ですよ。でもなんかね、相変わらず、ほんとに変わらずにバレーバカの牛島みて、安心しちゃったの。このままでいてほしいっておもっちゃったの。」
「…そうですか」
「そーだな~、確かに牛島もタイプだけど…大平もかっこいいぞ~」
「苗字さん酔ってるでしょ、全然嬉しくないですよ」
嬉しくないです、と言いながら
にこにこする苗字さんを眺める。
どんな贅沢してるんだ若利。
かわいいな、と思いつつ
ニットの首元の鎖骨が気になる
スケベオヤジか俺は。
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