高校生
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だが事件はその日起こった。
前日まで降り続けた雪がやみ
体育館の外は少し水分を含んだ雪が重なっている
大学生相手の練習試合に梃子摺った俺たちに
監督はいらだって体育館を後にした。
鈍く大きな音に振り返ると
背を向けて歩いていたはずの監督が見えない。
「いま、カントクこけなかった?」
「え?」
「じいちゃん!!」
足を滑らせた監督は地面で腰を打って
起き上がれずにいた。
なにかが繋がったようで繋がらない
慌てて監督の方に向かおうとすると
ぽっかりした表情の瀬見に腕を掴まれた。
「なあ、今、名前さん、」
「あ、そうだ」
じいちゃん、と
彼女は確かにそういった。
「じいちゃん何やっとる!起きれるか!?」
「うるさい名前、おめえに心配されるほど老い耄れてねえ」
「どの口が!ほら立てないんだべ!すみませんちょっと手を貸して!」
「だから…っ!!」
「言わんこっちゃない!わたし陽治おじさんに電話するから動いたらだめよ!」
「……どーゆうことだ??」
***
「苗字さん、監督の孫だったんだな」
「苗字が違うから全然気づかなかったぜ…」
「まああの年であんなに暴れてりゃ心配にもなるよな」
結局あの後陽治おじさん…
監督の息子さんで、苗字さんの母親の弟にあたる人が
ワゴン車を運転して監督を迎えに来た。
腰を打ったというので二日ほど練習を休み
その後はより一層の顰め面で
練習に復活している。
入学してバレー部のマネージャーになる時
二人の関係は秘密にしておく約束だったそうだ。
晴れて秘密がなくなり、体育館でのつかみ合いは
小娘と監督から、名前とじいちゃんに変わっていた。
そうとわかれば今までの2人の様子にも
合点がいったところだった。
「名前さんは、なんでマネージャーになったんだろうな」
「なんでだ?」
「だって別におじいちゃん子って風でもないだろ」
「確かに~、老体が心配ならあんなにマジで喧嘩もせんでしょーしね」
「言われてみれば」
「覚が聞いてみたらいいんじゃないか?」
「俺はちょっとカンベンかな~」
「……」
***
「苗字さん」
「はあい」
「苗字さんはなぜ、バレー部に入ったんですか」
「どうしたの急に」
「…すみません、部室で皆が話していて、知りたくなりました」
「んー…じゃあ、牛島は、なんでバレーを始めたの?」
「俺ですか」
訊かなくても。
誰かが訊くかもしれないし
いつか知るかもしれないし。
苗字さんがどうであろうと
自分には関係のない話だ。
心のどこかでそう塗り固めながら
幼少のことや父のことを話すと
苗字さんはその間
手を止めて聞き入ってくれた。
俺の話が済むと苗字さんは再び
洗濯ものをたたみ始める。
手持無沙汰で俺もタオルをたたみ始めたが
いつものように静止はされなかった。
「わたしね、小さいでしょ」
「…そうですか」
「まあ、女子の中でも小さいほうなの。じいちゃんは嘆いてたよ、俺の遺伝子のせいかって。だって私の父は背が高いもの。」
「……」
「それが嫌だったの。世の中大きいことがいいんじゃない、スポーツがすべてじゃないし…若いうちから体を鍛えすぎて、痛めてしまったりする方がよっぽどむなしいでしょ。小さかろうが何だろうか、できることはいっぱいあるってじいちゃんに見せたかったの」
「そうですか」
「あとはじじいの大好きなスーパースターたちに、怪我なくキラキラしててほしいってとこかな。まあ、結局は毎日ジジイと孫がけんかしてるだけなんだけどね。とにかくわたしはみんなの体が第一なの」
「ありがとうございます」
「うん、ほんとに、けがや病気はだめ。だって牛島はバレーがすごく好きだからね」
「…はい」
「ちょ…若利クン、名前さんと洗濯たたんでる!?正座!?」
「なんだあの絵…誰か写真撮れよ…」
「なに話してんだろな…」