夫婦
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バレーボールのいいところに一つに、天候に左右されない点がある。まあこれは屋内スポーツのすべてに共通することでもある。野球では屋根のない球場は大雨で中止になることもあるし、雨天決行のサッカーやラグビーはもちろん条件は悪いし観客もスタッフもずぶぬれである。ところで試合自体は問題なく開催されるものの、観客、あるいは選手の足については別の話で、いざ空港に到着してみると飛行機がしばらく遅れるというので家で待っている、妻、名前さんに連絡を入れる。
二時間遅れで離陸した飛行機は何事もなかったかのように着陸し、こちらはきれいな星空でさっきの風雨が嘘のように思える。その場で解散になったので大きな荷物を抱えてタクシーを拾い、帰路をたどる。少し遅くなってしまったので名前さんは寝ているかもしれない。マンションのエントランスから足音に気を付け、チャイムを鳴らさずに玄関を開けた。食卓には彩の良いサラダと卵焼き、コンロにかかっている鍋はハヤシライスとみそ汁だ。肝心の名前さんはというと、携帯を眺めながら眠ってしまったらしくダブルサイズのベッドの、隅に小さく丸まって寝ている。その、余ったスペースとの対比に、毎回驚かされる。少し開いた唇から、ふうと息が漏れた。手を触れようとして、手洗いを済ませていないことに気づき、やはり音をたてないように、そっと洗面へ向かった。
綺麗に両手を泡で洗い、少なめの水で念入りに流して、掛けてある花柄のタオルで水分をふき取る。外から着て帰ったジャージを脱いで洗濯かごに入れ、洗濯機の上に出してあった部屋着に手をかけた。ふわりと漂うハヤシライスの香りが食欲をそそる。再び名前さんの横たわるベッドの脇にたたずんで、俺はどうしようか、手を伸ばしては下ろし、息を吸い込んでは吐き、そして腰かけて、上半身をぱたりと倒すと柔らかい寝顔が目の前にやってきた。そうかどうやら、彼女もこうやって寝てしまったらしい。柔らかそうな、溶けてしまいそうな、赤みを帯びた白い頬に触れてしばらくすると、名前さんがぱちりと目を開けた。
「……うしじま」
「はい」
「お、おかえり」
「はい、戻りました」
「わたし!どれくらい寝てた?」
「さあ…」
「さあって!ご飯どうした?まだならすぐ支度するから」
「ああ、はい、」
「ね、いい返事だから離して」
「待ってください」
こんなに小さかっただろうか。
少し力を入れるとあっという間に腕の中に収まった名前さんの、首元に顔をうずめて大きく息を吸い込んだ。柔軟剤の香りに、一日の汗のにおいが少し混ざって、頭がぼうっとする。
「まって、ね、待って」
「…いけませんか」
「…ご飯食べて、お風呂入ってからじゃダメ?」
「…だめというわけでは、」
「試合頑張ったから、ハヤシライスにチーズ乗せてあげるから」
「…あ、ありがとうございます」
冷たく柔らかい掌が頬に触れる。
俺はどうやらこの人に一生勝てない。
二時間遅れで離陸した飛行機は何事もなかったかのように着陸し、こちらはきれいな星空でさっきの風雨が嘘のように思える。その場で解散になったので大きな荷物を抱えてタクシーを拾い、帰路をたどる。少し遅くなってしまったので名前さんは寝ているかもしれない。マンションのエントランスから足音に気を付け、チャイムを鳴らさずに玄関を開けた。食卓には彩の良いサラダと卵焼き、コンロにかかっている鍋はハヤシライスとみそ汁だ。肝心の名前さんはというと、携帯を眺めながら眠ってしまったらしくダブルサイズのベッドの、隅に小さく丸まって寝ている。その、余ったスペースとの対比に、毎回驚かされる。少し開いた唇から、ふうと息が漏れた。手を触れようとして、手洗いを済ませていないことに気づき、やはり音をたてないように、そっと洗面へ向かった。
綺麗に両手を泡で洗い、少なめの水で念入りに流して、掛けてある花柄のタオルで水分をふき取る。外から着て帰ったジャージを脱いで洗濯かごに入れ、洗濯機の上に出してあった部屋着に手をかけた。ふわりと漂うハヤシライスの香りが食欲をそそる。再び名前さんの横たわるベッドの脇にたたずんで、俺はどうしようか、手を伸ばしては下ろし、息を吸い込んでは吐き、そして腰かけて、上半身をぱたりと倒すと柔らかい寝顔が目の前にやってきた。そうかどうやら、彼女もこうやって寝てしまったらしい。柔らかそうな、溶けてしまいそうな、赤みを帯びた白い頬に触れてしばらくすると、名前さんがぱちりと目を開けた。
「……うしじま」
「はい」
「お、おかえり」
「はい、戻りました」
「わたし!どれくらい寝てた?」
「さあ…」
「さあって!ご飯どうした?まだならすぐ支度するから」
「ああ、はい、」
「ね、いい返事だから離して」
「待ってください」
こんなに小さかっただろうか。
少し力を入れるとあっという間に腕の中に収まった名前さんの、首元に顔をうずめて大きく息を吸い込んだ。柔軟剤の香りに、一日の汗のにおいが少し混ざって、頭がぼうっとする。
「まって、ね、待って」
「…いけませんか」
「…ご飯食べて、お風呂入ってからじゃダメ?」
「…だめというわけでは、」
「試合頑張ったから、ハヤシライスにチーズ乗せてあげるから」
「…あ、ありがとうございます」
冷たく柔らかい掌が頬に触れる。
俺はどうやらこの人に一生勝てない。
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