夫婦
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「お久しぶりです苗字さん」
「久しぶり!大平元気だった?」
「ええ、あれ、若利は一緒じゃないんですか?」
「なんか、急に取材が入ったみたいで先に行っててって」
「あら、そうですか」
「このあたり私初めて来た!会社この辺なの?」
「そうなんです」
「外で焼肉食べるの久しぶりだーい!よく行くお店?」
「いえ、前に会社の打ち上げで。そんなに高くないしおいしくてしかも個室になってるので、いいかなと思って」
「確かに、大男2人もいたら目立っちゃうからね」
「というより若利はけっこう有名ですからね。あと覚もくるので3人かな」
少し遅れます、と
メールを送ってきた夫を差し置いて
適当なつまみで飲み始める。
仕事帰りらしい大平は
スーツ姿で現れた。おお、大人だ。
「お~獅音クンひさしぶり~」
「わ!天童!」
「名前サンもおひさしぶりで~す!若利くんと結婚したってマジっすか?」
「わはは!マジだ!」
「若利くん、名前さんに懐いてたもんね~まさかここまでとは思ってなかったけどね~」
「懐くって子猫とかじゃん。あんなでっかいのにそんな言い方する?」
「名前さんの前じゃ若利くんも子猫だったってことよ~」
「…若にゃん…?ないわ…」
と、お連れ様お見えになりました~の声
暖簾をくぐって現れる大男
「おお、若利」
「若利くんひさしぶり~」
「ああ、久しぶりだな。待たせてすまない」
「いやいや、お前の話で盛り上がってたところだよ。よし肉を頼もう」
「苗字さん、そういえば来週の代表合宿、一日早く集まることになりました」
「あ、そうなの?一応準備はしてるけど。帰りは変わらない?」
「はい」
「ん?」
「は?」
「なんだ、何かおかしいか」
「苗字さんって言った?」
「…ああ」
「うそだろ、結婚してしばらくたつだろ」
「もう苗字さんは牛島名前なんだヨ~若利くん」
「…わかっているが…慣れなくてな」
「慣れなくて、か」
「まあ私も相変わらず牛島って呼んでるしおあいこでしょ。ほらお肉焼けてるよ」
「え、そっちも?」
「やっべー超おもしろいんだケド!若利君も名前さんもさすがだネ!」
「うっさいねあんたたち!人のことからかっといて、自分たちはどうなのよ!」
「そういえば獅音くん、ちょっとかっこよくなったよね?」
「ばか天童、大平は前からいい男だったよ」
「実は最近、会社の同期と付き合い始めて」
「えー!!!いいじゃんいいじゃん!写真とかないの?どんな子?大平ってどんな子がタイプなの?」
「いや写真は…ないんですけど…同期入社で同じ課の人です」
「ひえー…いいねエみんな…春が来とる…春だねエ…」
「天童じじいみたいなんだけど」
「おれはちょっといいご縁がないんだよねエ」
「お前の口からいいご縁なんて言葉が飛び出したことにびっくりだよ」
「たしかに」
「楽しかったねえ~」
「そうですね」
「お肉おいしかったね、えっとね、タンがおいしかったな、ネギがいっぱいでさ、あとわかめスープもおいしかった!牛島は?何が一番おいしかった?」
「そうですね…ヒレですかね…」
「そんでさ、アイスクリームもおいしいかった」
「二つも食べたていたでしょう、おなかは大丈夫ですか?」
「デザートは別腹なの!大平がくれるって言うんだからしかたないじゃーん」
駅から家までの道のりを
少しふらふらしながらゆっくり歩く苗字さんにあわせて
歩幅を小さくしてゆっくり歩く。
牛島!とにこにこ振り返る苗字さん、いや、
「名前さん」
「え?」
「…帰りますよ、名前さん」
「うん、え、」
小さな手を取り少し速足で
腕を引かれてついてくる彼女は
どうしたの?とか言いながら
一生懸命についてくる。
エレベーターの3階のボタン
小さな箱の中で強く手を握って
名前さんはまだ不思議そうにしている。
部屋の鍵を開けて
後から入った名前さんが後ろ手に鍵を閉めたのを見届けると
お風呂入れる?という声を無視して
更に手洗いは?という声も無視して
寝室に向かう。
ベッドに腰かけた彼女の肩を押して
倒れた体に圧し掛かった。
「牛島?どした?」
「…いけませんか」
「……いけなくないけど。でもできればお風呂に入りたいし、歯磨きもしたいかも…だって初めてするんだよ、焼肉味はちょっと…どうですか…」
「……すみません、その…妬きました」
「えっと、シャワー浴びるから」
大平や天童が悪いわけではない
自分が人間関係を円滑に進めることが
苦手なことも自覚している
あいつらのように簡単に
名前を呼んで、冗談を言って、笑いあって。
たまに、うらやましく思う。
それから、だって初めてするんだよ、と言った
赤い名前さんの顔を思い出す。
結婚して1年近いが
最後までしてないどころか
洋服を脱がせたこともない。
「何をしているんですか」
「え?あなたのことを待ってたんですけど」
「いや、その恰好は」
「…こういうの、好きかどうかわからないけど、」
手足の露出した
薄手の部屋着、初めて見る。
照れ臭さと
何かが変わってしまう怖さと
欲に負けることの怖さと、
色んなものが合わさって今日まで
見て見ぬふりをしてきた。
改めて圧し掛かると
首に細い腕が回る。
後頭部に手を添えて
唇を合わせた。
舌を絡めて唾液を飲み込んで、
頭がぼうっとしてきたところで
いつも止めてしまっていたけれど。
薄い衣服をはぎ取ると
白く柔らかい肌と
繊細なレースの下着と。
「苗字さん、」
「…戻ってんじゃん…んっ!ん、あん、」
「…いいんですか」
「ばか、あ!」
「…よく、濡れてます」
「誰かがあんなこと言うから、お風呂入ってる時から緊張しちゃったんじゃんか」
「そうですか」
性欲、征服欲、愛情への欲
息が上がってきた苗字さんに覆いかぶさると
耳元で微かに、やさしくしてください、と
声が聞こえた。