夫婦
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*
「仕事、ですか」
「そう、働きに出ようと思って」
「そうですか」
「え、なんかないの?」
「なんか?」
お前がきょとんとしたって
全然可愛くないぞ。
何が言いたいんですか、みたいな
顔をされてしまってこっちも困って。
食後に洗ったお皿を乾燥機に入れて
その間私の動きを追ってたらしい
牛島の隣に腰を落とす。
「私としては、あんたが家に帰ってくるときご飯を作って待ってたいから、昼間のパートで、事務とかパン屋さんとか花屋さんとか、楽しそうなところ探そうかなって思ってるんだけど。どう思う?」
「どうって」
「…だから、もっと働いてほしいとか、働かずに家にいてほしいとか、なんか私に対してないですか」
「…苗字さんが、思うようにしてください。」
「おお、そうきたか。」
ストレッチをする牛島の
背中に手を添えると
一瞬弾んだ背中がいとおしい
わたしはこんなにこの人が好きだったんだろうか
わたしがわたしでいるために
やっぱり外に出た方がいい、なんだ、幸せかよ。
「牛島はさ、ハヤシライス以外に好きな食べ物はある?」
「…それは困りますが……嫌いなものは特にありません」
「お米とパンなら?」
「…米」
「茹で卵と卵焼きなら?」
「卵焼き」
「こしあんとつぶあんなら?」
「……ッ…こしあん…です」
「ん~と、じゃあねえ~…ちょっと!何で笑うの!」
「…突然質問攻めにされたので困りました」
「困ったら笑うのか貴様!なんか違うこと考えてただろ私のことアホだとか」
「おかしなことを言わないでください」
不意に手首を引かれ
気付けば牛島と密着している状態だった
頭の上にたぶん顎が乗っている
硬そうだと思っていた胸板は
想像よりあったかくて落ち着く
他人同士だった私たちは
距離の縮め方を知らない。
ずっと近くにいたけれど
それ以上でもそれ以下でもなかった。
「牛島はやっぱりあったかいね」
「苗字さんがなぜこんなに体温が低いのか不思議です」
「冷たくないですか」
「冷たいですよ」
「てゆーか私もう苗字さんじゃねえし」
背中に掌を這わせると
背筋のたくましさがわかった。
私の知ってる牛島
私の知らない牛島
一緒にいたいって思っちゃったんだよ
まっすぐすぎてちぐはぐで
頭の中がぐるぐる回る。
***********
**
高校に上がる前に
しばらく高等部の練習に参加していた時
あなたがウシワカくんね、と
嬉しそうに面白そうに
声をかけてきたのが苗字さんだった。
思えば刷り込み効果だったのかもしれないが
緊張感の漂う部内で
明るく元気な苗字さんの近くは
心を落ち着ける場所だった。
ベッドを二つ置かずに
ダブルで済ませたのは
自分が留守にすることが多く
もてあますことが多いからだった。
牛島がいないときはこうやって寝るから、と
苗字さんはベッドのど真ん中で
大の字になって笑って見せたが
いざ遅く帰ってきてみると
大きなベッドの隅の方で
小動物よろしく身を縮めて眠っていたものだから
遠征に出るたびその姿を思い出してしまう。
遠征帰りの荷物を俺から奪い取ると
苗字さんは何度か洗濯を回している。
お洗濯干してから行くから、と
とっとと寝室に追いやられて布団に沈んでいると
布団の上からずしっとのっかられる
「…重たいんですが」
「喧嘩売ってんのか」
「ほかに何と言えばいいですか」
「真顔かよ…」
観念したように布団に潜り込む
柔らかい石鹸の香りと
冷えた手足の先端に触れて
眩暈とも違わない気分
「あの、まじでおもたい」
「あ、すみません」
無意識に圧し掛かった自分の体を退け
体の向きをそらした。
「…別にすみませんくないけどさ」
「はあ」
「私たち友達ってゆうか、部活の先輩後輩の関係だと思ってたからびっくりするよね。牛島はどうしたい?」
「…どう、ですか」
「知らないわけじゃないでしょ、わたしだってかわいい子ぶったりしないよ。でもみんなと同じようにしないといけないとも思わないし、だから、勇気いるけどそーゆうことしたいならちゃんと意思表示して」
「…苗字さん、」
「うっさい、一年早く生まれただけなのになんでわたしばっか喋ってんのよ」
「苗字さん」
「はい、」
「…すみません、照れくさくてごまかしてきてしまって」
「…そうかい」
「なに笑ってるんですか」
「だってほら、牛島ってあんまり人間っぽくないし照れたりするのねと思って」
「悪いですか」
「ううん、新しい若利君見たって感じ」
「今のは天童のセリフですか」
「ご名答」
たいへん上機嫌そうな彼女の声に
体の向きをそちらへ戻すと
いつも通りの苗字さんがこちらをやさしく見つめている。
洗濯物をたたむときも
冷たい水でボトルを洗う時も、
あの頃から知っている苗字さんの
柔らかく遠慮がちな笑顔
「あの」
「はあい」
「もう、逃げません」
「は、い、」
「でももう少し、待ってください」
「はい、」
「でも少しだけ」
「っ!」
自分の掌は一般的には大きいほうだと思っていたが
苗字さんの頬をこうもすっぽり包み込めるとは。
抱き寄せる腰も柔らかく細い。
知らないことばかり。
驚くことばかり。
世の中には「責任を取る」とか
「幸せにする」とか
たくさん言葉があふれているけど
どれも自分たちの関係にはしっくりこなかった。
体の全部が心臓のように思える。
額を合わせて
唇が触れる
ぼんやりとした心地と
血流が速くなるのを全身で感じる。
**
恥ずかしくってもう顔が見れない
胸に顔をうずめると
そっと背中に手が回る。
牛島はあの頃可愛い後輩だった。
大きな体が窮屈そうに見えていた
私の近くに気付けばちょこんといて、
あの牛島が。
ボールを叩くあの掌が、
振り下ろすあの腕が。
これ以上触ったら
心臓が破れてしまいそうで
困る、困る、やめてくれ、
「仕事、ですか」
「そう、働きに出ようと思って」
「そうですか」
「え、なんかないの?」
「なんか?」
お前がきょとんとしたって
全然可愛くないぞ。
何が言いたいんですか、みたいな
顔をされてしまってこっちも困って。
食後に洗ったお皿を乾燥機に入れて
その間私の動きを追ってたらしい
牛島の隣に腰を落とす。
「私としては、あんたが家に帰ってくるときご飯を作って待ってたいから、昼間のパートで、事務とかパン屋さんとか花屋さんとか、楽しそうなところ探そうかなって思ってるんだけど。どう思う?」
「どうって」
「…だから、もっと働いてほしいとか、働かずに家にいてほしいとか、なんか私に対してないですか」
「…苗字さんが、思うようにしてください。」
「おお、そうきたか。」
ストレッチをする牛島の
背中に手を添えると
一瞬弾んだ背中がいとおしい
わたしはこんなにこの人が好きだったんだろうか
わたしがわたしでいるために
やっぱり外に出た方がいい、なんだ、幸せかよ。
「牛島はさ、ハヤシライス以外に好きな食べ物はある?」
「…それは困りますが……嫌いなものは特にありません」
「お米とパンなら?」
「…米」
「茹で卵と卵焼きなら?」
「卵焼き」
「こしあんとつぶあんなら?」
「……ッ…こしあん…です」
「ん~と、じゃあねえ~…ちょっと!何で笑うの!」
「…突然質問攻めにされたので困りました」
「困ったら笑うのか貴様!なんか違うこと考えてただろ私のことアホだとか」
「おかしなことを言わないでください」
不意に手首を引かれ
気付けば牛島と密着している状態だった
頭の上にたぶん顎が乗っている
硬そうだと思っていた胸板は
想像よりあったかくて落ち着く
他人同士だった私たちは
距離の縮め方を知らない。
ずっと近くにいたけれど
それ以上でもそれ以下でもなかった。
「牛島はやっぱりあったかいね」
「苗字さんがなぜこんなに体温が低いのか不思議です」
「冷たくないですか」
「冷たいですよ」
「てゆーか私もう苗字さんじゃねえし」
背中に掌を這わせると
背筋のたくましさがわかった。
私の知ってる牛島
私の知らない牛島
一緒にいたいって思っちゃったんだよ
まっすぐすぎてちぐはぐで
頭の中がぐるぐる回る。
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高校に上がる前に
しばらく高等部の練習に参加していた時
あなたがウシワカくんね、と
嬉しそうに面白そうに
声をかけてきたのが苗字さんだった。
思えば刷り込み効果だったのかもしれないが
緊張感の漂う部内で
明るく元気な苗字さんの近くは
心を落ち着ける場所だった。
ベッドを二つ置かずに
ダブルで済ませたのは
自分が留守にすることが多く
もてあますことが多いからだった。
牛島がいないときはこうやって寝るから、と
苗字さんはベッドのど真ん中で
大の字になって笑って見せたが
いざ遅く帰ってきてみると
大きなベッドの隅の方で
小動物よろしく身を縮めて眠っていたものだから
遠征に出るたびその姿を思い出してしまう。
遠征帰りの荷物を俺から奪い取ると
苗字さんは何度か洗濯を回している。
お洗濯干してから行くから、と
とっとと寝室に追いやられて布団に沈んでいると
布団の上からずしっとのっかられる
「…重たいんですが」
「喧嘩売ってんのか」
「ほかに何と言えばいいですか」
「真顔かよ…」
観念したように布団に潜り込む
柔らかい石鹸の香りと
冷えた手足の先端に触れて
眩暈とも違わない気分
「あの、まじでおもたい」
「あ、すみません」
無意識に圧し掛かった自分の体を退け
体の向きをそらした。
「…別にすみませんくないけどさ」
「はあ」
「私たち友達ってゆうか、部活の先輩後輩の関係だと思ってたからびっくりするよね。牛島はどうしたい?」
「…どう、ですか」
「知らないわけじゃないでしょ、わたしだってかわいい子ぶったりしないよ。でもみんなと同じようにしないといけないとも思わないし、だから、勇気いるけどそーゆうことしたいならちゃんと意思表示して」
「…苗字さん、」
「うっさい、一年早く生まれただけなのになんでわたしばっか喋ってんのよ」
「苗字さん」
「はい、」
「…すみません、照れくさくてごまかしてきてしまって」
「…そうかい」
「なに笑ってるんですか」
「だってほら、牛島ってあんまり人間っぽくないし照れたりするのねと思って」
「悪いですか」
「ううん、新しい若利君見たって感じ」
「今のは天童のセリフですか」
「ご名答」
たいへん上機嫌そうな彼女の声に
体の向きをそちらへ戻すと
いつも通りの苗字さんがこちらをやさしく見つめている。
洗濯物をたたむときも
冷たい水でボトルを洗う時も、
あの頃から知っている苗字さんの
柔らかく遠慮がちな笑顔
「あの」
「はあい」
「もう、逃げません」
「は、い、」
「でももう少し、待ってください」
「はい、」
「でも少しだけ」
「っ!」
自分の掌は一般的には大きいほうだと思っていたが
苗字さんの頬をこうもすっぽり包み込めるとは。
抱き寄せる腰も柔らかく細い。
知らないことばかり。
驚くことばかり。
世の中には「責任を取る」とか
「幸せにする」とか
たくさん言葉があふれているけど
どれも自分たちの関係にはしっくりこなかった。
体の全部が心臓のように思える。
額を合わせて
唇が触れる
ぼんやりとした心地と
血流が速くなるのを全身で感じる。
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恥ずかしくってもう顔が見れない
胸に顔をうずめると
そっと背中に手が回る。
牛島はあの頃可愛い後輩だった。
大きな体が窮屈そうに見えていた
私の近くに気付けばちょこんといて、
あの牛島が。
ボールを叩くあの掌が、
振り下ろすあの腕が。
これ以上触ったら
心臓が破れてしまいそうで
困る、困る、やめてくれ、