Target7:四天宝寺中男子テニス部
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おはよう、と挨拶を口にしながら山側の食堂を覗くとそこには想像通り古庄寺くんと里の姿は無く、朝食の準備をしているのは柳生と白石だ。それを近くのベンチに腰を下ろした遠山が見ていた。
「おはよう、珍しい組み合わせだね。」
「おはようございます、汐原さん。どうしてここに?」
トントンとリズミカルに包丁を動かす柳生が一度動きを止めてあたしの言葉に返してくれる。白石がチラリと一瞬だけあたしに視線をやって、遠山に水を汲んでくるように指示をしたのが耳に入った。
「里が寝坊してるから人手が足りてないかと思って手伝いに来たんだよ。って事で、遠山と一緒に水汲んで来るね。」
「ちょい待ち。汐原さんは女の子なんやから力仕事はさせられへんわ。……柳生クン、お願いしてもええか?」
「えぇ、構いませんよ。遠山くん、行きましょう。」
柳生の言葉に意外と素直に付いて行く遠山を見送れば必然的に白石を二人きりになる。昨日の事を思い出して微妙にぎこちない手つきで柳生の作業を引き継いだ。
目の前には茹で上がったほうれん草が積み上げられている。成る程山側の朝食にはほうれん草のお浸しが付くらしい。取り敢えず短時間で人数分の食事を用意出来ればいいと考えたあたしと違って、多少手間が掛かってもバランスの良い食事を作ろうとするのは彼等らしいなと感心してしまう。あたしも見習わなければと思うが、スマホでレシピ検索も出来ないこの状況で憶測で作ることの出来るメニューは限られている。
一応の準備として簡単なレシピの印刷をして忍足監修の下魚の下ろし方は練習して来たが、準備不足感は否めなかった。ご飯の炊き方とかも含めて。
「……汐原さん。」
「何?」
白石の声に包丁を握る手を止め、彼に向き直る。朝の澄んだ空気を纏う白石は相変わらずの甘い表情をしていたが、その眉は申し訳なさそうにハの字に下がっていた。
「あー……、昨日の事なんやけどな。」
「うん。」
「すまん。俺、めっちゃ軽率な事言うたわ。」
あんなことを言うつもりは無かったのだと丁寧に腰を折る白石。その姿にあたしは内心ほっと安堵の溜息を漏らして、思わず笑い声を上げた。
「白石ってさ、モテるでしょ。」
顔を上げて困ったように頬を指先で掻くその姿は、その自覚があるのだろう。彼は確かに顔が良い。主要人物の九割が揃うこの合宿所で一番といって良い程彼の顔は整っている。けれど、彼の魅力はそれだけじゃないのだと思う。
昨日の白石の言葉だって、確かに意味深長であたしを自惚れさせるものだったけれど、それを発した白石を咎められるかというとそれ程の物ではなかった。放っておけば良かったのだ。態々遠山と柳生を追い払って二人きりの状況を作ってまで謝罪するような事ではないのだから。
あたしが白石を好きになったところで、それは彼の言葉を素直に受け取ったあたしに非があるのだから彼の気にすることではない。加えて、彼の住んでいる場所は大阪だ。いくら忍足との関わりが強いと言えど、それ程の距離を簡単に移動できる筈もないのだから全国大会が終わってしまえば彼との関わりはなくなるだろう。昨日のあたしのときめきもいつかは時間が解決してくれる。
それでもきちんと謝罪をしてくれる程に白石は誠実で、そして話題が話題だけにあたしを不用意に傷つけないように人払いをする程度には気が利く。モテない訳がない。
「キミは本当、いい男だね。」
「……は?」
「なんて、仕返し。ほら、手を動かさないと柳生達帰ってくるよ。お浸しの次は何を作ればいい?」
別に白石の言葉に怒っている訳でも傷ついている訳でもないが、普通に許すと言ったところで彼は気にしてしまいそうだったから、と自分の中で言い訳をして昨日の白石のように意味深長な発言をする。
白石は戸惑いを含んだまま米を炊く火の調整に戻り、あたしには煮物用の野菜の下ごしらえの指示を出した。