Target7:四天宝寺中男子テニス部
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二十リットルのポリタンクに満タンに水を入れると単純に考えて二十キロになる。十キロの米を持ったことはあるから一瞬あたしでも持てるような気がするが、あの重さの倍を持てるだろうか、と考えて諦めた。多分無理だ。
あたしはポリタンクの半分程まで水を汲み食堂まで戻る。その水を浄水器に移し、浄化が終わるのを待っている間に野菜の皮を剥き一口サイズに切っていく。そこまで作業を進めたところで声を掛けられて顔を上げた。
「汐原さん早いですね。」
「おはよう。裕太、くん。」
おはようございます、と返してくれた裕太があたしの手元を覗き込む。あたしが切っている野菜達と近くのパッケージを見て、カレーですか、と口にする。あまりにも簡単なクイズに嬉しそうに答える彼はカレーが好きなのかもしれない。
「カレー好き?」
「あ、はい。かぼちゃの入っているのが特に。」
「甘いヤツか。美味しいよね。そうだ、裕太、くん。お米の炊き方って知ってる?」
分けて貰った野菜の中にかぼちゃは有っただろうか、と思い返してみる。有りそうだったら入れてあげようと思考の時間を稼ぐ為にした質問に返ってきたのは別人の回答だった。
「んふっ。其れ程難しいものではありませんよ。」
「観月さん。おはようございます。」
「おはようございます、裕太くん。それで、飯盒炊飯の方法ですが、研いだお米を三十分から一時間程度吸水させてから弱火で炊き始め、飯盒から湯気が出るまで待ちます。湯気が出始めたら飯盒に重しを乗せて強火にし、吹きこぼれが始まったら中火に落とし十分から十五分程続けて炊いて下さい。パチパチと音がし始めたら火から下ろし飯盒を逆さにして五分程蒸らして完成ですよ。」
「……観月、それ、後でメモして頂戴。」
「仕方ありませんね。他にも知らない人が居るかもしれませんし、いいでしょう。後で食堂にメモを貼っておきます。」
今から山側に行くのに欲しいんだけどなぁ、と思いつつも向こうは手塚がアウトドアに詳しかったような気がする。何とかなるか、と思い直した。
「ねぇ、二人共手が空いてるならこっち任せて良い?お米は研いでおくから、炊飯とルゥをお願いしたいんだけど。」
「構いませんけど汐原さんは?」
「……ちょっと山側にね。里が寝坊してる筈だから様子を見て手伝いに行こうかと思って。」
先程の里の姿を思い出して乾いた声が漏れた。あたしが食堂で調理を始めてから古庄寺くんも見かけていないし、彼女も寝坊しているかもしれない。あたしが食堂に着くよりも先に山側に行った可能性もあるが、一応気にかけておくに越した事はないだろう。問題が無さそうだったらまた此方に戻ってきて裕太達と代わればいい。
「……貴女の全てを円滑に進めようとする姿勢は素晴らしいですが、何事も一人で解決しようとする姿勢は感心しませんよ。水羽さんの寝坊は貴女の所為ではないでしょう。放っておくのも一つの優しさです。」
自分が失敗したら自分で責任を取る。その当たり前の事をさせる為に観月は山側を放っておけと言う。間違いなく、里は手塚に怒られるだろうし、古庄寺くんももし山側に行っていないのだとしたら何かしらのペナルティーがあるだろう。真田からか幸村からかは知らないが。
「それでも、マネージャーの後輩であるあの子達を上手く使えないのはあたしの責任だから。」
あたしはもう彼の言葉を待たなかった。
里を起こせなかったのも、古庄寺くんが海と山の両方の担当になったのも、あたしに責任が無いとは言えない。あたしが上手く立ち回れていたら、と考えるとどうしても遣り切れないのだ。
ボールに米を入れて研ぎ、二合ずつ分けて飯盒に移す。五、六個になったそれに水を入れようと浄水器を傾けるが、あたしの汲んできた水は尽きてしまったらしい。まだ米も研ぐ必要があるからまた汲みに行かなければ、とポリタンクを持ち上げるとそれは奪われた。
「僕が汲んできましょう。裕太くん、野菜をお願い出来ますか。」
「はい!」
「貴女は少し、責任を放棄する事を覚えるべきです。……今回だけですよ。」
観月は身体を山側の方へ向け、まるで行きなさいとでも言うように視線で示した。あたしはそれに笑みだけを返し、山側へと向かった。