Target7:四天宝寺中男子テニス部
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あぁ、と下げた頭より高い位置から少し悩ましげな声が降ってくる。幸村の掌が頭に乗せられた。
撫でるでも叩くでも無いその掌は、そこに置かれているだけだ。強い力で頭を押さえ込まれている訳ではないから、幸村の反応を確認しようと頭を持ち上げようとする。
「すまない、今は顔を上げないでくれるかい。」
「どうして……?」
「……きっと、情けない顔をしているから。」
幸村の、情けない顔。
泣きそうな顔、怒った顔、間の抜けた顔。一般的に情けないと表される物は沢山あるが、どれも幸村には似合わない。どんな顔なのか想像がつかないそれに、好奇心が顔を覗かせた。顔を上げてしまおうか。幸村の掌には力は込もっていないのだから、彼の言葉に逆らおうとすれば出来てしまう。けれど、あたしは頭に乗せられた幸村の手をやんわりと下ろして、自身の手で目を覆ってから顔を上げた。
「前見えてないんだから、ぶつかりそうになったら早目に教えてよ。」
広場から食堂までの道は拓けているから障害物も無い。あるとするならそれはあたし以外の人間だ。あたし一人が木とかの無機物にぶつかるのなら恥ずかしいだけで済むが、あたしにぶつかられた人が怪我をしてはいけないからと幸村に声をかける。そのままいつもより狭い歩幅で足を踏み出すと、肩にかけたスポーツバッグの持ち手が引かれた。犯人を探ろうと反射的に振り返ろうとするが、そもそもあたしが追い越したのは幸村なのだから彼以外にあり得ないだろうと思い直して足を止めるだけに留める。先程の幸村のように、あたしは何も言わずただ彼の言葉を待った。
「そのまま歩くのは危ないから。」
そう言って幸村は、スポーツバッグの持ち手に掛けた左手を攫っていく。あたしの手を掬う彼の指先は少し震えていた。
本当は、彼を先に行かせて、あたしが自由になった視界で一人で歩けば済む話。けれど、彼の手を振り払うにはあたしの優しさが足りなかった。
例えばこれが、赤也のように遠慮の無い抱擁だったり、仁王のように容赦のない揶揄いであったのなら何を気にするでもなく、止めてと口に出せたのに。拒絶が出来たのに。
(あぁ、幸村は本当にあたしの事が好きなんだ。)
そう感じてしまう程、彼の指先は臆病で優しかったのだ。
彼が先程言った情けない顔とは、きっと。きっと頬を赤く染めた、慈しみの表情。あぁ、良かった。幸村が顔を上げるのを止めてくれて、良かった。そんな表情を見てしまったら、あたしはきっと、幸村を拒絶出来なくなってしまう。
「……食堂に着いたら、目を開けるからね。」
あたしは幸村と同じだけの感情を返せない。だから本当は触れて欲しくないのだ。それでも、あたしにはこの震える指先を振り払うだけの勇気は無かった。