Target7:四天宝寺中男子テニス部
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何の気も無しに侑士の連絡先に指を走らせ、通話ボタンを押した。三コール、四コール。鳴り続ける呼び出し音に苛々と貧乏揺すりをすると、おかんに煩いと叱られる。まだ喋ってへんのに。もう何コールか数えられんくなった頃に、漸く呼び出し音が途切れた。
「出るん遅いわ、侑士!」
そこから侑士の弁解を聞かず、
いつもはもっと早う出るやんけ、と更に重ねようとした言葉を流水音が遮る。水道の音。水でも飲むんか、と口を噤むと、もしもしと高い声がスマホの向こうから聞こえてくる。
侑士ではない。寧ろ男ですら無いその声に俺は情けない声を上げた。
「あー……と、侑士なら今お風呂入ってるから、もう少し待っててくれる?」
「ちょ、まっ、は?え?」
何やねん。侑士、なんて親しげに呼びよってからに。しかも侑士の電話を取っとるっちゅう事は入浴中の侑士と同じ部屋に居るんやろ。そんなん、絶対彼女やん。
湧き出てきた妄想に一人で顔を赤く染めた。二人っきりで片方は入浴中。そんな状況、健全な男子中学生やったら恋人同士の営みを想像せん奴はおらんっちゅー話や。もしかせんでも邪魔したかもしらん。これは早々に切り上げとかんと侑士から絶対何かしらの文句が来る、と電話を切る為に口を開くが、それよりも先に侑士の彼女の方が早かった。
「初めまして。汐原です。宜しく。」
「お、忍足謙也です。よろしゅう……?」
気まずい沈黙を打破しようとしたのか、突然の自己紹介に此方も反射的に自己紹介を返す。汐原か、と焦る頭で咀嚼して呑み込んだ名前はじんわりと胸に溶け込んだ。
「うん、宜しく。で、さっきも言ったけど侑士はお風呂入ってるんだよね。後でかけ直す?忍足さえ良ければ侑士が上がってくるまで付き合うけど。」
その言葉にチャンス、とばかりに食いついて、電話を切ってしまえば良かった。俺から電話をしたんは侑士にも伝わるやろうし、そしたら都合が良い時に侑士からかけてくるやろ。俺が文句を言われる事も無いし、侑士が邪魔をされる事も無い。互いに
「あー……それやったら付き合うてや。」
せやけど、なんでか知らんけど。電話越しの顔も知らん汐原の声が寂しいと訴えてくるようで。元より侑士に付き合うてもろうて潰そうとしとった暇な時間を、代わりに汐原の為に割いてやろうと口にした言葉に返ってきたのは、オッケーとなんとも軽快な言葉やった。
「そうだなー……。」
汐原が話題を選ぶ素ぶりを見せたから、俺は少し黙って汐原の言葉を待つ。少ししてから、楽し気に声を弾ませて、侑士の事を教えてよ、と笑った。何となく、やけど、汐原はきっと嬉しそうに顔を綻ばせとるんちゃうかな。声色だけで表情が想像出来るくらいには素直で表情が豊かで。そんで侑士が選んだんやから足が綺麗なんやろう。
「それやったら、先に汐原の知っとる侑士の事を話してや。……氷帝に通っとるんやろ?」
「そうだよ。あたしの知ってる侑士か。……本当はあたしだけの秘密にしときたい気持ちもあるんだけど、忍足の知ってる侑士も知りたいから教えてあげよう!」
あ、今度は得意気な顔をしたな、と思うんと同時に何や気恥ずかしくなった。全身で侑士が好きやと言わんばかりの汐原が話す内容は、些細な日常の話ばかりやけど、語尾に全部そんな侑士が好き、って付いてそうなもんばっかりや。自分だけには割と表情豊か(な侑士が好き)やとか、昼食にパンばっかり食べとったら小言を言う(侑士が好き)やとか。実際には汐原は口にしてへんかったけど、それがありありと伝わってきて全身がむず痒くなる。それ以上汐原に口を開かせん為に、今度は俺が侑士の事を教えたる!と汐原の言葉を遮った。
「そんでそん時の侑士が……。」
「……あ。」
「謙也、琹ちゃんに何話しとんねん。」
俺の話に律儀に片っ端から笑い声を上げる汐原に気を良くしてあれもこれもと話しとる内に、急に汐原の声が遠くなる。次に聞こえた侑士の声にひゅっと怯むが、そもそも汐原を一人で長い事放っといたんは侑士や。俺は何も悪い事はしてへん、と自身を奮い立たせた。
「お前の彼女が侑士の話が聞きたい、言うから話しとったんや。彼女ほっぽり出して長風呂すんなや。」
「彼女なぁ。」
ほぅ、と電話越しに侑士が溜息を吐く。
「せやなぁ……そう言えたらええねんけど。」
侑士の言葉がじり、と胸を焦がした。侑士が今どんな表情をしとるんか。なんて考えてみても、汐原とは違って全く分からへん。コイツの格好付けのポーカーフェイスはほんっま意味分からへん。