Target3:立海大付属中男子テニス部
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「はい、これでよし。」
消毒液を染み込ませたガーゼを傷口から外し、絆創膏を貼る。それ程大した怪我ではないから絆創膏で十分だろう。
「悪いな、汐原。……あーあ、負けちまった。」
準レギュラーである彼は、口にしてからハッと顔を上げ、もう一度謝罪を口にする。言うつもりは無かったのだろう。思わず吐露してしまったように感じられた。
彼は多分、あたしが異世界から来たことを信じていない。だけど、あたしを頭が可笑しい女だとも思っていない。ただ普通の人間として、あたしに気持ちを吐露しているのだろう。
必死で頑張ってきた事は知っている。準レギュラーなのだ、実力があることも知っている。
だけど、彼は少しメンタル面で難があるのだ。先程まで日吉と話していたから余計にそう思うだけなのかもしれないけれど。
「キミは、強いよ。でもね、周りはもっと強い。だから心が折れてしまう気持ちも分かる。」
運動音痴で碌にテニスに詳しくもない女に言われたくはないだろう。況してや、あたしは里と比較される事に心が折れて努力する事を放棄してきた人間だ。彼に対して説教できる立場じゃない。
だけど、そんなあたしだからこそ分かる事もある。
「でもね、精神で負けてしまったらもう、試合にも勝てないの。それだけは他の人がフォローしてあげる事もできない。キミが強くなるしか、ないんだよ。」
例えば技術面や体力面なら、ダブルスを組む事でお互いに補うことも出来る。長所を伸ばすことも出来る。でも、精神面だけは、心が折れてしまった時点でフォローも取り返しも出来ないのだ。
宍戸がレギュラー落ちした時、代わりにレギュラーに選ばれるのが彼ではなく日吉だったのは、きっとそこなんだろう。日吉の体力面なら、まだ幾らでも補える。
偉そうなことを言ってしまった気まずさから、思わず彼から視線を逸らすと、その先にコートに入った日吉の姿が見えた。海堂のスネイクに喰らいつくように左右に走る。長期戦を得意とする海堂と相性はあまり良くないが、それでも日吉は勝ちに行っているのがよく分かる程強かった。
「そうだな。俺が強くなるしかないよな。……サンキュ、汐原。」
あたしの視線を追って彼もコートの中の日吉に目がいったのか、晴々とした表情で立ち上がる。あたしは迷わず彼の背中をびたん、と叩いた。
「ま、無理しない程度に頑張ってよ。氷帝全国優勝のためにさ!」
おう、と元気に返事をして彼はあたしの額にデコピンをかまして、してやったりと立ち去って行った。もしもこれで日吉の代わりに彼がレギュラーに上がったら、その時にデコピンの仕返しをしてやろう。あたしは救急セットを片付けながら頬を緩めた。