Target3:立海大付属中男子テニス部
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何かが、可笑しい。
二泊三日の合宿も最終日。あたしは自身の感情に首を傾げていた。"何が"と言われれば首を傾げる他無いほどの僅かな違和感。けれどその違和感は確か存在している。
「……日吉、あたし、なんか可笑しくない?」
「いつも通りじゃないですか。」
側に居た日吉の瞳を覗き込む。失礼だな、と思うよりも先に彼の瞳がギラギラと闘志に燃えている事に気がついて開けた口を閉じた。
最終日は各校対抗の練習試合だ。氷帝はそもそもの部員数が多いから準レギュラーまでの参加だが、青学と立海は全員参加の筈。一年生を含めた全員が、必ず誰かしらと対戦するようになっていた。
それはつまり、氷帝のテニス部員からしたらチャンスなのだ。レギュラーの座を勝ち取るための。
部員数が多いためにレギュラー陣以外は試合に出ることが少ない。事実、今回の合宿にも平部員達は参加すら出来ていない。こういう時こそ自分の強さをアピールできる。しかも、万が一にもレギュラー陣が負けでもしたら、それこそ自分がレギュラーに成り上がれるかもしれない。日吉の表現を借りるとしたら、まさに下剋上なのだ。日吉が闘志に燃えるのにも納得できる。
ただ、まぁ、何というか。今回レギュラー陣が負ける事は無いだろうな、と手元のオーダー表を見ながら思う。氷帝のレギュラー陣は見事に他校のレギュラー陣との試合を避けているのだ。それは完全に偶々なのだけど。
逆に言えば、準レギュラー陣が全員、他校のレギュラーを相手する事になる。隣に居る日吉の相手だって、あの海堂だ。あたしからすれば、何とも言えない好カードでドキドキとミーハー心が疼くが、他の準レギュラー陣からしたら堪ったものではないだろう。手塚や真田を相手にする部員は、実力差があり過ぎる。準レギュラーから外される可能性すらあった。ご愁傷様である。
あたしはほとんど無意識に、自身の胸中に広がる違和感を無視して彼に言葉を向ける。
「日吉なら大丈夫だと思うけど、頑張って。」
その言葉にコートを見つめていた日吉があたしの方を向いた。それは少し怒気を孕んでいてあたしを狼狽えさせる。何かまずい事でも言っただろうか。別に当たり障りのない応援だと思うのだけれど。
「当たり前の事を言わないでください。」
眉間に皺を寄せて、不愉快そうにそっぽを向いた。あぁ、そうか。
下剋上を信条とする彼からすれば、頑張る、なんて当たり前の事なのだ。確かに当たり前の事を一々言われるのは腹が立つ。彼には頑張れ、とその言葉は応援ではないのだ。
「じゃあ、絶対勝ってね。……応援してる。」
だったら、と言葉を変えて投げた。次期部長対決を楽しみにしているとは言えなかったけれど。
日吉の言葉を待つ前に、氷帝の部員に呼ばれる。先程まで試合をしていた部員だった。かすり傷を負ったらしい。確かに先程の試合で、派手なスライディングをかましていたなぁと思い返して、慌てて救急道具を手に駆け寄る。
当たり前です、と微かに耳に届いた声に、一瞬だけ日吉の方を振り返ると、彼の口角は上がっていた。