Target2:転生少女
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「汐原!!」
合宿所の玄関を潜ると一瞬で目の前がオレンジに染まる。濡れ鼠のままのあたしを掻き抱いた。乱れた息が首筋に当たって擽ったい。身を捩る隙間もない程グッと抱き寄せられ、苦しい。あたしはこの腕の持ち主を知っていた。
「えー……どうした?仁王。」
仁王はあたしの言葉に無言で抱きしめる力を強める。ぎゅっと、まるであたしの存在を確かめるように。
「……お願いじゃけえ、あんまり心配させんといて。」
聞こえた声があまりにもか細かったから、あたしは抵抗するように捩っていた身体の動きを止める。多少の息苦しさがあるが、まぁ息ができない訳でもない。仁王が落ち着くまでこのままでも問題はないだろう。
ほんの少し仁王の声は震えていた。時折、乱れた息に合わせて肩が揺れているのが酷く切ない。
「部屋におらんし。」
「うん。」
「練習終わってから顔見とらんし。」
「うん。……それで?」
縋るような声で仁王は続ける。あたしもそれに相槌を打った。子供をあやすように仁王の背中へ腕を回し、ぽんぽんとリズム良く優しく叩く。仁王は一瞬、ひゅっと息を呑んだ。
「っ、元の世界に戻ったかと思うた……っ!」
仁王のその言葉に思わず目を見開く。どうして、どうして仁王がそれを知っているの。あたしは忍足にしかその話はしていない。その忍足から跡部へ、跡部からその他部員へと徐々に広がっているのも事実だが、仁王まで広がっているとは思えない。ならば、氷帝部員以外からその話を聞いたことになる。けれど、そんなことはあり得ない。どうして。
寒さからか、怯えからか、小刻みに身体が震える。それでもあたしから離れるなんて出来なかった。あの仁王がこんなにも必死で縋ってくるんだから。
「仁王。」
できるだけ柔らかい声で名前を呼ぶが、返事は返ってこない。それでも仁王の腕の力が緩むことは無い。そんな彼に、ほとんど無意識にこぼれ落ちた言葉がこれ以上ないほど暖かかった。
「心配してくれてありがとう。」
色々聞きたいことはあるが、仁王があたしを心配してくれたという事実は変わらない。ならばそれ程嫌われてはいないのだろう。それが嬉しかった。
「……風邪ひくぜよ。」
そう言ってあたしを解放し、そっぽ向く仁王の耳朶が赤く染まっていたものだから、ふふっと笑いが溢れたのも仕方ない。けれどそれが気に入らなかったのか彼はあたしの頬を摘む。いひゃい、と口をついた呂律の回らない抗議の言葉に漸く仁王も口元に笑みを浮かべた。
相変わらず、土砂降りの雨が世界の音を遮断する。時間の経過は分からないが、そろそろ。
「ごめん、仁王。あたしそろそろ行かないと。」
「……何処に行くんじゃ。」
仁王を追い越して廊下に進もうとしたあたしの腕を仁王が掴み引き止める。つんっと身体がつんのめって強制的に仁王の方は振り返る。その時にかち合った彼の瞳は最近よく見る色をしていた。