Target2:転生少女
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「……汐原さんは、優しいね。」
不二の言葉に緩く首を振った。あたしは優しくなんてない。強欲で我儘なだけだ。皆に好かれたいって、ただそれだけ。皆、の中には里だって勿論入っていた。人から嫌われる事が怖い、ただの臆病者。あたしは人を嫌うことだってあるくせに。
「……怖いだけだよ。」
そこだけは素直に答えて、止まっていた足をコートへと動かし始める。そろそろ皆試合を終えているだろう。ドリンクが間に合わない。
そう思いながらも、本心ではこれ以上会話を続けたくなかったあたしに、不二も気づいたのだろう。あたし達の間には再び沈黙が流れていた。コートを囲むフェンスを潜り、先程不二がウォータージャグを置いたベンチへ向かう。不二もそれに続いた。
と、不意に聞こえる"一球入魂"の言葉。あぁ、今はちょたが試合中なのかと特に気にかける事無くジャグを置く。不二の持っている物も受け取ろうと振り向いた、瞬間。
「危ない!!」
誰かが叫ぶ声がして、ぐい、と腕を引かれる。ゴン、と鈍い音がした。状況が読めないまま視線をずらすと地面にはジャグが二つ転がっていて、あたしは不二の腕の中。疑問に思っているとちょたが慌てて近寄ってくる。
「え……?」
何が起きたのかが分からない。うろうろと視線を彷徨わせて、とりあえずまだ不二の腕の中だったと気がついて解放してもらう。ベンチの方に視線をやるとテニスボールが一つ、転がっていた。もしかして、と嫌な想像にばくばくと心臓が波打つ。先程とは別の意味で泣きそうだった。
「そのコントロールは課題だね。」
頭上から聞こえる不二の声。その声は冷静だった。足から力が抜ける。支えを失った身体は、へたりと地面へと落ちた。
「はい、すみません。琹さんもすみませんでした。……怪我はありませんか?」
大丈夫、と口にしたつもりが、実際にはひゅうっと空気が漏れただけだった。だって、ちょたのあの台詞は、スカッドサーブを打つ時のもの。それは普段の練習で知った事だから、間違いはない。それでベンチの近くに転がるテニスボール。
ちょたの、あの、200キロを超えるスカッドサーブがこちらに向かっていたのではないか、と。ヒヤリ、と肝が冷える。
あのまま不二が気づかなければ、あたしは。
「おい、汐原!大丈夫か!?」
「だいじょ、うぶ。けが、してない。」
フェンスの外を走っていた宍戸が駆け寄ってくる。焦ったように息を切らしているのは、走り込みをしていたからか駆け寄ってきたからか。そんな宍戸の言葉に返したあたしの言葉は、呂律が回っておらず、単語しか並べる事が出来なかった。唇が震える。怖かった。
震える指先で胸元を掴み深呼吸をする。
大丈夫、大丈夫。ちょたはあたしを狙った訳ではない。
そう何度か繰り返すと幾分か動悸も治った。もう指先も唇も震えない。大丈夫。
「大丈夫、怪我もしてないから。ちょたも気にしないで。」
あたしの言葉に宍戸とちょたが安堵の溜息をもらす。宍戸はあたしに手を差し伸べた。その手を迷いなく取る。宍戸は少し辛そうに顔を歪めていた。