Target2:転生少女
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食堂に着いてウォータージャグを両手に引っ掛けた後、あたしは迷わずに出口へと向かった。何も言わずに食堂を出て行く。行きとは逆に、不二があたしの背中を追う形になった。
どちらも口を開かず、無言のまま。空気が重たい。
いつか何処かで聞いた言葉。優しさが時に誰かを傷つける事もある。何処で聞いたのか、誰の言葉かなんて忘れてしまったけれど。今、その言葉の意味を痛感した。不二の優しさが、痛い。
「ねぇ不二、どうして手伝ってくれるの。」
「汐原さんが、泣きそうだったから、かな。」
泣きそうだ、なんて、そんなのは里も同じだったのに。怒りに歪んだあの目に涙を滲ませていたのは里もだったのに。
「じゃあどうして里は探しに行かないの?」
「……え?」
言うつもりなんて、無かった。言ったところでそれはただの八つ当たりでしかないと知っていたから。
本当は不二も、他の青学の人達も、悪いなんて思ってない。 悪いのは余計な事を言ったあたしと、割り切れない里の二人だけで、他の人達は姉妹喧嘩に巻き込まれた被害者でしかない。だけど、里が居なくても進んでいく合宿のプログラムも、呆れたように眉をひそめながら変わらず指示を飛ばす監督も、里のことを少しも気にする素ぶりを見せない青学の部員達も。その全てに腹が立った。
もう少しこの世界が優しければ、この人達が里を大切にしていれば。少なくとも彼女が独りぼっちになることはなかったのではないか、と。
あたしのこの考えは今現在の状況を知った時点での結果論で、責任転嫁だ。そんなこと、そんなこと分かっている。
だけど、あたしが泣きそうだったからなんて理由で優しくする不二は、嫌いだ。結局のところ不二の優しさは、あたしが可哀想だとその目に写ったからくるものであたしに与えたいと思ったものではないのだから。
「あたしは不二が思ってるような人じゃない。不二が思うほど、傷ついてもない。だったらその優しさは、里に向けて欲しいよ。」
あの人はあたしの大嫌いなお姉ちゃんだから、と素直じゃないその言葉を口にした。眉根を寄せて、ハの字に下げて。それでも泣くまいと歯を食いしばった。でもきっと、今誰かに一緒に居て欲しいのは、あたしじゃなくて里だから。寂しいと声を上げているのは、里だから。
無理やりに口角を上げる。ほら、あたしは笑ってるでしょ、と不二に見せつけてやりたかったのに。それは叶わなかった。
あぁ、痛いなぁ。
それはきっと、里に叩かれた頬ではなくて心なんだろう。じくじくと心臓が気持ち悪かった。