Target2:転生少女
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昼の休憩が終わっても、里は帰って来なかった。里を見失ってしまったと謝りに来た桜乃ちゃんには、心配ないと返したけれど、仕事を放り出してしまう程になると流石に心配になる。それでも流石にあたしまで仕事を放り出して里を探しに行く訳にはいかなかった。
「……はぁ。」
スコアを付けながらも思考は里の事で埋まっていた。きっといつものあたしなら、目の前で繰り広げられる大技に歓声の一つでも上げていただろう。レギュラー陣を相手にする他部員が、少々可哀想だけれど。
とはいえ、今のあたしにはそんな余裕はない。
里が仕事を放棄している以上、彼女の受け持つ筈だった仕事は、あたしと桜乃ちゃんでこなさなければならない。ストップウォッチを両手に収める桜乃ちゃんにウォータージャグを持って来て、と言うのは少々酷だった。
どうしようか、と考えている間にも徐々に試合の勝敗がつき始める。早めにドリンクの準備をしないと選手たちの水分補給に間に合わない。仕方なく試合の順番を待っている部員にスコア付けを代わってもらって、食堂へ向かう。昨日のようにしながらあたしが運ぶしかない。
「手伝うよ、汐原さん。」
何往復か繰り返した頃、昨日と同じく声がかかる。けれどそれは、日吉のものではなかった。
彼はすれ違い様に、スッとあたしの腕からジャグを奪う。それを何でもないようにコートへ運び始めた。
「ありがとう、不二。……ごめん、ドリンク間に合わなかった?」
彼は、不二周助はあたしがコートから出る時にはまだ試合の途中だった。相手は氷帝の準レギュラーだったけれど、彼はあっさりと勝敗をつけてしまったようだ。どちらが勝ったか、なんて愚問だろう。何せ彼は天才の名を欲しいままにしているのだから。
「大丈夫、まだ全員終わった訳じゃないから汐原さんが運んでた分でも足りてるよ。」
「そう、良かった。」
あたしの言葉に不二は何も返さなかった。ここでいいかな、とジャグをコートの隅にあるベンチに置き、くるりと方向転換する。食堂に残っているウォータージャグは残り四つ。二人で運べば一往復で運び終えるのだけれど。
「……イライラする。」
口にした言葉は不二には届かなかった。あたしの心中を染め上げる苛つき。それは不二だけではなくて、青学メンバー全員に対するものだった。どうして、里を探しに行かないの、と。
合宿中である以上、軽率にコートを離れる訳にはいかないのだろう。それは、分かるけども。
だからって、あたしを手伝う余裕があるくらいならいっそ、里を探しに行けばいいのに。
(里を独りぼっちにしているのは、きっとこの人達だ。)
寂しいと全身で訴えていた里の姿を、きっと彼も見ていただろうに。独りぼっちになりたくない、と訴える里に気がついただろうに。それでも、第三者として見ていた彼にとって被害者は、
何となくどんよりと曇った心中と同化するように、空も雲で覆われていた。