Target2:転生少女
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あの後も仁王とはいつもどおり。特に会話もなければ、関わりがあるわけでもない。お互いが普段どおり過ぎて、あれは夢だったのではないかとさえ思えてしまう程だった。
「……っ、は、琹さん。」
「はいはい、ちょたのタイムね。」
あたしは手元へと視線を移す。両手に一つずつ収まるストップウォッチは片方だけ時を止めていた。うん、ちょたのタイムは良好だ。
そのタイムを息を整える本人に告げる。それから監督に各自報告に行くのだが、ちょたは何故かその場から動かない。
「……ちょた?」
あたしの呼びかけに彼はハッとした表情で、監督の元へ行ってきます、と駆けていった。
少し不自然な行動をするちょた。彼もまた、あたしを悩ませる要因の一つだ。赤也のこと、仁王のこと。この二つは解決した、と言っていいだろう。そうなれば目下の課題はあと二つ。ちょたのことと、里のことだった。案外どの問題も簡単に解決してしまったものだから、残りの二つも自分が思っているより簡単に片付いてしまうのでは、と楽観視している部分はある。けれど反対に、上手くいきすぎて反動が怖いと思う気持ちもあって、やきもきしていた。
「琹さん、大丈夫ですか?」
相変わらずの笑顔で、相変わらずの声で。けれど少し戸惑いをみせて、ちょたはあたしの目の前に居た。監督に報告し終わったのだろう、その両手には乳白色の液体の入った紙コップが握られていた。
「え、あ、うん。大丈夫。」
少しだけ返答に詰まって、結局何の捻りもなく返した。すると丁度、もう一つのストップウォッチの対象者が帰ってきたものだから、慌ててストップウォッチを止めて対象者に走り寄る。彼にタイムを告げて再度戻ると、ちょたはまだ紙コップを持ったまま立っていた。
「お疲れ様です、どうぞ。琹さん、水分補給してないですよね?」
「ありがとう、ちょた。」
あたしは素直にお礼を告げて紙コップを受け取る。二つのコップを持っていた理由がとても優しくて。ちょたに恐怖心を抱いている自分としては、キリキリと胃が締め付けられる。良心が痛んだ。
「どういたしまして。」
そう言って笑う彼は、息の一つも乱していない。あの一瞬で整えたようだ。流石だな、と思いつつ気まずい沈黙に一口、また一口と底を尽きそうなスポーツドリンクを口に運んだ。
「……ねぇ、ちょた。……ちょっと、聞いてもいい?」
「何ですか?」
言っておいて、自分で少し躊躇する。何を聞けばいいのか、どう聞けばいいのか分からなかった。けれど、この沈黙を誤魔化すには、もう紙コップは空になってしまっていて。ドリンクで言葉を濁すことは出来そうにない。
「ちょたは、あたしが一人でいると嬉しい?」
結局、吐き出した言葉は卑屈めいていて、ちょたを非難しているようにも取れる言葉だった。ちょたは息を呑む。困ったように眉尻を下げ、うろうろと視線を彷徨わせる。
あたしは紙コップに口をつける。空になった紙コップでは、喉を潤すことは出来なかった。