Target2:転生少女
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合宿ニ日目。
本日もあたしの担当は跡部率いるグループである。因みに、手塚をリーダーとするグループの担当は里で、真田をリーダーとするグループの担当は桜乃ちゃんだ。勿論監督達も各グループに一人ずつ付いている。
「おはよう、仁王。」
コートの外で柔軟をしていた仁王にそう声をかけながら近寄ると、ドスンと背中に負荷がかかる。一瞬ジローちゃんだとも思ったが、視界に入るふわふわした髪の色は、金色ではなく綺麗な黒だったものだから。
「ちょ、と……切原、重いって!」
誰とも言わずに切原だと分かって、離せと意思表示してみるもまったく通じない。あたしの身体に回された腕をぐいっと押し退けてみてもビクともしなかった。
「随分と懐かれたもんじゃのう。」
「あ、うん。今欲しい言葉はそれじゃないな。」
あくまでも柔軟を続けながら仁王は言葉を紡ぐ。切原をどうにかしようと言う気持ちはないみたいだった。あたしは仁王に助けを求めるのを諦めて、この状況を打開すべく口を開く。
「切原、早く筋トレ始めないと真田の鉄拳待ってそうだけど。」
「……琹さんが名前で呼んでくれたら行くっす。」
やれやれ、とため息を吐いたのは彼に……赤也に呆れたからではない。嬉しいと自分が思ってしまったからだった。
「はいはい、行ってらっしゃい。頑張って、赤也。」
「っす!」
あくまでも表面上は渋々と、迷惑だという体面を保ったまま。口角が上がらないようにするので必死だった。
「嬉しそうじゃな。」
けれど仁王には通用しなかったらしい。簡単に心中を見透かされてしまった。
あたしは軽くなった背中をぐいーと伸ばすと仁王に笑いかける。にっと悪戯に口角を上げているのが自分でもよく分かった。あまりいい顔ではないだろう。
「嬉しいよ、赤也と仲直りできたからね。」
ドヤ顔。その言葉で漸く仁王はあたしに視線を合わせた。ここぞとばかりに畳み掛ける。
仁王の考えている事は、いまいちよく分からないけど。それでも言わなければいけない事があるから、態々声を掛けたのだ。ここで逃げるわけにも、逃すわけにもいかない。
「キミが仁王だと思って言うけど、もし会えるならあたしは昌山に会いたいよ。……もし柳生だったらごめんね、仁王に伝えておいて。」
昨日は見つけることができた、柳生には違和感を覚える香水の香り。今日はそれが鼻腔をくすぐることは無かった。だけど姿形は仁王のものだし、言動もあたしの"知っている"仁王とはなんら遜色はなくて判断がつかない。それでも良かった。
なんで仁王が昌山を知っているのかとか、なんで昌山の名前を使ってあたしに揺さぶりをかけてくるのかとか。そんな事は分からないけど。別に昌山に関しての回答は嘘ではない。会えるものなら、会いたいのだ。
「……昌山に伝えておくぜよ。」
「うん、ありがとう。」
そこで仁王の柔軟も一段落したのか、立ち上がる。これから跡部率いるグループは、走り込みだ。そして、仁王も同じグループである。
これで話は終わり、と無言の空気を感じてストップウォッチを取りに行こうと仁王に背を向ける。瞬間、両肩に熱が乗った。後ろから抱きしめられる。先程の赤也よりは重くはないが、腕に込められた力は赤也よりも強かった。
「……礼はこれでいいぜよ。」
そう言って仁王はスタート地点へと向かう。なんだったんだ、と未だ残る背中の熱に呆然と立ち尽くしていた。