Target2:転生少女
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「ご馳走様でした。……さて、行きますか。」
綺麗に平らげた食器の前で掌を合わせる。立ち上がって向かう先は誰も居ないコートだった。
多少の照明はあれど誰かが試合をしている訳でもないから最低限の光量しかなくて、ほんのりと薄暗いコートは、少し不気味だ。
その傍で軽く身体を解す。あたしの目的はランニングだった。
別に運動が好きな訳ではない。寧ろ、どちらかというと苦手だ。体育の授業以外では好んで身体を動かす事もない。
そんなあたしがこんな時間に一人でランニングすることに決めたのは、日中に切原が走っていたからだった。
あの時、練習試合をしていたグループのリーダーは真田だった。そして、切原もそのグループの一員だった。つまり。あの後、コート内で問題を起こした彼はコートの外周を十周するように言われていたのだ。勿論彼は文句を言っていたけれど、最終的にはきちんと走り終えていた。あたしは別に誰かに言われた訳ではないが、先程柳に宣言した通り、今回の件はあたしが悪い。それなのに、あたしには罰がないなんて不公平だから。
「……は、っはぁ。」
自主的に走り始めたは良いけれど、元々運動不足の目立つ、体力のない身体では一周するのですら一苦労で、息が弾む。十周走るにしても連続して走る事は難しそうだった。
一周、二周。三周目に入ろうとしたところで一度足を止める。ハァハァと乱れる息を整えようと膝に手をつくと、ポタポタと汗が地面に落ちた。流石に体力無さすぎだろう、と自分自身に呆れるが、多分今後改善される事はない。
余程の事がない限り、自分から運動しようとは思えなかった。
「……っし、は、あと八周!」
少し気が遠くなる数字だが、気合いを入れるために敢えて口に出してランニングを再開し、半周ほど走った頃だった。急にぐいっと腕を引かれて身体のバランスが崩れる。何、と文句を言おうとあたしの腕を掴んでいる人物を振り返ると、意外にも切原だった。
「……今日はすんませんっした。」
丁度いいと言わんばかりに口を開くと、彼が先にぶっきらぼうに謝るものだから、なんだかこっちは面白くなって声をあげて笑う。
「な、何で笑うんすか!!?」
切原は心底反省しているようで、腕を掴んだまま焦っている。それがまた可愛いらしい。
だけどこのままだと少し彼が可哀想だからとあたしは口を開いた。相変わらず、息は弾んだままだったけど。
「切原。あたしも、ごめん。」
これで仲直り、と掴まれてる腕とは逆の手を差し出した。切原もそれに従ってあたしの手をとる。
「氷帝男子テニス部でマネージャーをやってる汐原琹です。どうぞ宜しく。」
きっとあたし達は出会いが悪かったんだと思うから、何度でも出会いをやり直していこう。そんな意図に気づいたのか、単にあたしの言葉に返事をしただけなのか、切原は元気よくよろしくっす!と彼特有の人懐こい笑みを見せた。
「……で、切原、あたしまだランニング残ってるから腕離してもらっていい?」
その言葉に切原が不満そうに口を開く。
「別に汐原さんが走る事ないじゃないっすか。」
「まぁ、誰かに言われた訳じゃないから別にやめてもいいんだけどさ。キミが十周走ったのに、あたしが二周半っていうのは、なんか不公平じゃない?」
「……それは、そうっスけど。」
頬に湿布が貼られている彼を見つめて再度離してくれるように訴えると、今度は簡単に離してくれた。
「それなら俺も一緒に走るんで、残り四周でいいっしょ。」
だからこの後トランプでもしましょ、と笑う彼にあたしは逆らえなかった。