Target2:転生少女
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「キミは、昌山を知ってるの?」
「さぁ、どうでしょうね。」
柳生の……恐らく仁王ではあるが、彼の言葉に眉根を寄せる。その言葉を無視してコートを出ると、隅で大石と話す里の姿があって遣る瀬無くなった。
それでもあたしは足を動かすのをやめずに、食堂へとひたすらに駆ける。いつの間にかあたしの足は走ると形容される程にスピードを上げていた。走って食堂へ向かう途中、コートに戻る所だったのか、ある人の背中を見つけてしまって思わずダイブする。
「わっ!」
その背中の持ち主は小さく声を上げたが、あたしはそれを無視して見た目どおりに細い彼の腰に腕を回してしがみつく。
「ごめん、ごめん滝。今だけちょっと背中貸して。」
彼のユニフォームの裾をこれでもかというほど握りしめて懇願する。今だけ、今だけでいいからあたしを拒絶しないで欲しくて。泣くでもなく、ただ傍に居てくれる滝に甘えた。
「……ごめん、ちょっとキャパオーバーしてて。」
滝を掻き抱いて、詰まる息を吐き出した。
自分でも何から考えれば良いのか分からない。
少し不穏な反応を見せるちょたのこと、何故かこの世界に居る里のこと。あたしに対して敵意を向ける切原のこと。昌山の事を口にする仁王のこと。どれも全部、きっと後回しにしていい問題ではないのだ。
けれど、答えを出してしまうのも、怖くて。
「琹ちゃんはそんなに弱いの?」
今まで何も言わなかった滝が口を開く。滝があたしの名前を呼んだのは初めてだった。
それが拒絶を示しているようで、思わず滝に回した腕を緩める。すると今度は滝から腕が回ってきて、気づけば滝と向き合う形で抱きしめられていた。
「琹ちゃんが不安に思うのは当たり前だ。でも君は一人じゃないでしょう?」
その言葉は決して拒絶ではなくて、ただあやすようにあたしの背中をリズムよく叩く。ぽんぽんと、その手はどこまでも優しくて。励ましてくれているのは明白で、そんな滝に告げる言葉なんて一つしか見つからなかった。
「……ありがとう。」
そうだ。あたしは一人でこの世界に来たけれど、独りぼっちではないのだ。だって、あたしには。あたしには、彼らが居る。あたしを独りになんてしてくれない、彼らが。
そこで気づいた。あたしが彼らの独占欲を受け入れたのは別に彼らの為でも、彼ら言いなりになったわけでもなくて、自分の為だったのだ。今更、気づいた。彼らがあたしを欲してたんじゃない、独りになりたくないあたしが、彼らを欲していたのだ。そんなタイミングで、彼らがあたしを欲しいと言ったものだから。だから、キミたちの物になる、と。これがどれだけ幸せなことか。そんな些細な事にすら気づけないあたしが情けなかった。
「ねぇ、滝は。……滝はあたしの物になってくれる……?」
じわりと涙の膜が張ったまま滝の目を見つめて、はっきりと口にしたあたしに滝はふふと笑った。
「いいよ、琹ちゃんが俺の物になるなら、ね。」
そう言いながら腕の中に居たあたしを解放して、指先を拾う。そこに軽くリップ音を立てて口付けるとそのまま練習へと戻って行った。