Target2:転生少女
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コートに近づくにつれ、大人数の掛け声が耳に入る。各グループが走り込み、筋トレ、そしてコートを使っての練習試合をしているようだ。
その中で一際目立つのは、やはり立海だろうか。
単純に寒色系のユニフォームに混ざる夕焼け色が目立つのもあるけど。走り込み、筋トレ、練習試合、どれにおいてもワンランク上なのが素人のあたしでも分かる程だった。
それがレギュラー陣だけなら氷帝も青学も負けてはいないのだけど、その他の部員を見た時に、どうしても実力差が目についてしまう。これは今後の課題だな、とそっくり返った。
とりあえずウォータージャグだけ置いて紙コップを取りに食堂に戻ろうとコートの中に入ると、一人の部員と目が合う。その部員は水分補給がしたかったのか、あたしに近づいてきた。
「あぁ、ごめん、さっき紙コップダメにしちゃって……。すぐに取ってくるから少し待っててくれる?」
「アンタ、いい気になんなよ。」
不躾な言葉遣い。軽蔑した眼差し。
彼は、切原赤也だった。
「え、と……ごめん、何の話?」
彼に軽蔑されるような事はしていない、と思う。そもそも合宿が始まってから、彼と話すことも、すれ違うことも、何なら目が合う事すら無かったのだ。こちらとしては身に覚えの無い罪を着せられている気分である。
「氷帝って女の為に練習サボるようなヤツが準レギュラーなんだ?余裕なんスね。」
ドリンクはいらないというように、切原の腕はウォータージャグを避けた。彼はウォータージャグの隣に積んであったタオルを持ってあたしに背を向ける。コートに戻るようだ。けれどそれは叶わなかった。叫び声を上げた、あたしの所為で。
「……ふざけないで!!」
あたしの声に振り向いた彼に反射的に腕を振り上げる。バシン、と鈍い音を立てた右手は、確かに彼の頬を打った手応えがあった。
「てめぇ!!」
当たり前のように切原があたしの胸倉を掴み上げる。彼の目は少し充血していた。
こうなった彼は危険だと"知識"からくる警鐘が頭に鳴り響くが、血が上っている今、何も意味を成さなかった。酸素が上手く吸い込めず、ひゅうと喉を鳴らしながらあたしの言い分を並べるが、彼には届いていないようだった。
「何の騒ぎだ。」
「……っ真田副部長!」
見兼ねたのか、傍観していた部員の中から真田が声を上げる。それによって切原の腕が下りて、軽く浮いていたあたしの踵が地面に着いた。
ゴホゴホと酸素を吸い込む。
「……っは、切原、取り敢えず手当してきなよ。」
息を整えながらもにっこりと微笑みつきで促すと、意外にも切原は素直に医務室へと向かった。そこら辺は流石に引き際を心得ているのか、ただ単に真田が怖いのか。そのどちらかは分からないが、切原が医務室に消えるのを見届けてあたしは回れ右をして、同時に真田にきちんと頭をさげる。
「切原の練習時間を削ってしまったこと、それからコート内で問題を起こしてしまったことは謝る。ごめん。」
「むっ。」
急に態度が変わったからか、真田の眉間に深く皺が寄った。
「……汐原。」
「だけど……だけど、切原を殴った事については一言も謝らないから。」
真田に口を挟む隙を与えることなく捲し上げ、そのままあたしはコートの外へと足を向ける。今度こそ紙コップを持ってくる為だ。
今回の騒ぎに足を止めていた部員達の横を通り過ぎる。その一瞬、ふわりと鼻腔を掠める香り。その香りに既視感を感じて、はた、と足をとめる。あぁ、これは先程の。
「昌山くんにお会いしたくはありませんか……?」
耳元で聞こえた声に勢いをつけて振り向くも、柳生の顔をした詐欺師は何事もなかったかのように眼鏡のブリッジを上げた。