Target2:転生少女
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「琹。」
食堂で参加部員達のドリンクを運ぶ用意をしていると唐突に声を掛けられた。女の子の声。
女の子であたしを呼び捨てにする人なんて、一人しか居ない。里。
「何?水羽さん。」
あたしは何も知らないといった風に、何も気づいていないといった風に装う。それに気づいたのか里も里で白々しい態度をとる。けれど別人だと確信してもらうには至らなかったらしい。里は呆れたように溜息を零した。里はいつもあたしよりも何歩も先を歩いている、大人だ。
「すみません、汐原さんにとても似ている人が知り合いにいて……つい、呼び捨てにしてしまって。同姓同名だったもので。」
「……凄い偶然もあったもんだね、同姓同名でしかもよく似てるなんて。まぁ気にしてないから、水羽さんも早く仕事に戻った方がいいよ。」
ずんと重くなる肩と同時に思考も重たくなる。
何も考えたくないのに。里の事なんて忘れてしまいたかったのに。
あたし達は他人のふりを貫いて会話を続ける。その姿は本当に滑稽で笑ってしまいそうだ。
早くこの会話を断ち切りたくてコートを指さして言うと、ゆったりとした足取りで里は向かっていった。彼女の仕事は走り込んでいる部員達のタイム管理だった筈。里を追い出した所で、ドリンクを運ぶ先は彼女の向かったコートなのだけど。それでも。
「……さて、あたしも仕事しないと。」
施設の食堂の職員さんが用意してくれた、スポーツドリンクの入ったウォータージャグ。十を超えるそれを一人で運ぶのは中々骨が折れる。桜乃ちゃんに声をかけて、手伝ってもらってもいいが、彼女は彼女でスコアの付け方を竜崎先生からレクチャーされているようで手が離せそうになさそうだ。それに何より、今はあたし一人で居たかった。
何となく、だけど。
誰もあたしと里が姉妹だなんて知らない筈だし、あたしが里にコンプレックスを抱いてるなんてもっと知る術が無い筈。誰もあたしと里を比較なんてしない筈なのに。
それでも里と並んで歩くと、他の人からの評価を気にしてしまう。あたしの勝手な被害妄想だと分かってるのだけど。
ウォータージャグを両手に一つずつ引っ掛け、ドアを開けようと背中を向ける。多分大抵の人がそうするように、背中をドアに預けてジリジリと後退りすると食堂の外には簡単に出る事が出来た。後はここからコートまで運ぶだけ。
そんな簡単な単純作業でも、残っているウォータージャグの数を考えると気が遠くなりそうだった。