Target1:氷帝学園男子テニス部
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「……何しとるん?」
何度ホームボタンを押してもロック画面が表示されるだけのスマホ。その画面には謎の住所が表示されている。これでは昌山に連絡は取れないか、と思わずため息が溢れた時、不意に背後から掛けられた声にため息とは逆に息を呑んだ。
「……あ。」
後ろを振り向くと先程別れたばかりの忍足の姿。意外と
丁度いい。
「忍足さん、ちょっと道を聞きたいんですが。」
そう言ってスマホの画面を見せるが彼は何の反応も示さなかった。あぁ、先程も彼は警戒している組だったか。
出来るならそっとしておいてあげたいところではあるが、今画面に表示されている住所について頼れるのは彼しか居ないのだから、今回ばかりは大目に見てもらおう。
出来るだけ積極的に彼らに関わってはいきたいが、嫌われたい訳じゃない。構うな、と言われればその通りにするつもりだった。
「……自分、ほんまに何者なん?」
微妙に広がる沈黙の中、先に口を開いたのは忍足だった。
引っ越して来た、と言うには不自然な言動のあたし。それに加えて名乗ってもないのに知られている情報。冷静に考えて不審者でしかない。
忍足の言葉への言い訳を必死で探すが、勿論答えが見つかる訳がなかった。あたしは諦めたように一つ溜め息をついて口を開いた。
「異世界の住人……そう言ったら信じてくれますか?」
"信じる訳ないやろ"とそう言われると思っていた。だって、逆の立場で考えて、何も知らない相手から自分の名前を言い当てられるなんてそんなの恐怖でしかない。しかも、その相手は上履きのまま外を歩くような不審な行動を取っていて、更には自分は異世界から来たと言う。
不審者どころか、いの一番に警察に通報されてもおかしくないようなネジの外れっぷりである。あたしならまず、関わらない。
それなのに。
「"今は"信じられへんよ。初対面やし当たり前やろ?」
予想外の言葉を口にした忍足の瞳は諦めを含んでいて、それがあたしを悲しくさせる。もしかしたらあたしは忍足の心に土足で踏み込んだのかもしれない。
寂しいな、とそう思ったのは、いつも当たり前のように隣に居た悪友が居ないという事実を実感したからではなくて、ただ、忍足にはあたしにとっての昌山のような存在が居ないのだと感じたからだった。
安い同情だとそう思う。
彼のダブルスパートナーである向日岳人が、忍足侑士にとって絶対的な存在だと勝手に思っていた。
少しあからさまな表現をするなら、友情を超えた絆が彼らにあると思っていたのだ。いや、実際にはその絆は存在しているのかもしれない。
ただ、忍足にはその絆が感じられていないのだと思うと、独りぼっちになった彼を"可哀想"だとあたしは思ったのだ。まるで、彼を見下すように。
忍足はあたしに背を向けて歩き出す。
二、三歩歩いた所で振り向き、あたしについてくるように促した。道案内をしてくれるらしい。
その優しさが、どうにも自暴自棄から来るもののように思えて遣る瀬無くなった。彼は、あんなにも優しいのに。
「汐原さん……やったか?」
電車を降りて少し歩いた先のマンションの入り口を潜り、エレベーターのドアが開いたその時、不意に忍足があたしの名前を呼ぶものだから、俯き加減だった顔を勢いよく上げた。
「ここやで、その住所。」
そう言って忍足は早々に隣の扉の中へと入ってしまった。まさか、そこに住んでいるのだろうか。あぁ、お礼も言いそびれてしまった。
まぁ、またどこかで会うこともあるだろう。表札には"汐原"と書かれているのだから。その時にお礼をするとしよう。
それよりも今は。
暫く目の前の扉をじっと見つめて、そっとインターホンを鳴らした。ピンポーンと間の抜けた音が鳴る。それでも目の前の扉が開くことはない。
仕方なく、意を決してドアノブに手を伸ばした。それは何の抵抗もなく開いてあたしを中へと誘う。お邪魔しまーすと言う密やかな言葉に返ってくるのは沈黙でしかない。
あぁ、寂しいな、独りぼっちは。
そう思ったのは、自分へ向けてだったのか、忍足に向けてだったのか。
あたしにはよく分からなかった。